かつてのボスにすべてを奪われ、復讐を誓う元殺し屋を描く『キル・ビル』シリーズ(『キル・ビル Vol.1』)

『キル・ビル』を観ればわかる!
タランティーノは絶対にこっち側の人間だ

2023/09/25 公開

この映画は日本に住まう人が楽しめる要素てんこもり!

黄色のジャンプスーツに身を包み、日本刀片手に敵をばったばったと斬り倒す金髪の女性に、鎖鉄球を振り回す制服姿の女子高校生、バラエティ番組の効果音などで必ず耳にしたことのあるあのテーマ。映画そのものを実際に観たことはなくとも、皆何かしら人生の中でその要素に遭遇したに違いないクエンティン・タランティーノ監督の代表作の一つ『キル・ビル』シリーズ。劇場公開から20周年となる今、なんとなく知っているようで触れてこなかった、そんな人もぜひこの機会にご覧いただきたい。観ればわかる、タランティーノは絶対にこっち側の人間だし、この映画は今の日本を知る人たちこそ楽しめる要素が詰まってる!

『キル・ビル』シリーズはもともと一つの作品を前後編に分けた『キル・ビル Vol.1』(2003年)と『キル・ビル Vol.2』(2004年)からなる二部作だ。前編となる『キル・ビル Vol.1』で、元殺し屋のザ・ブライド(ユマ・サーマン)は結婚式当日にかつてのボス、ビル(デビッド・キャラダイン)が率いる殺し屋たちの襲撃を受け、婚約者や参列者は惨殺。お腹に子を宿していた彼女も銃で頭を撃ち抜かれ、昏睡状態となる。4年後、奇跡的に目覚めた彼女はすべてを奪ったビルやその手下たち実行犯5人への復讐に生きることを誓う。

劇画調のタッチで描かれるシリアスな復讐劇がベースにありながら、激しいアクションシーンのたびにどばどばと噴水のように迸る血しぶきは真っ赤。手足や首がぽんぽん飛び、スプラッター描写に容赦がない。そこにプラスされるコテコテなトンチキ日本描写と、すべての要素が強すぎてもはやカオス。日本へと舞台が移った後の日本刀持ち込み可の飛行機やブライドの着るゆるかわオキナワTシャツなど、ツッコミどころは枚挙に暇がなく、違和感もここまでくればクセになる。

海外俳優たちによる日本語セリフは拙く、日本語母語話者としてはかなり違和感を覚えるものではあるけれど、それがまた独特の雰囲気を醸し出している。特にルーシー・リュー演じるヤクザの親分、オーレン石井の「ヤッチマイナー!」は折に触れて思い出す名シーン。なんだこのインパクト、絶妙なチープ感!

ヤクザ組織の親分であるオーレン石井のボディガードをするゴーゴー夕張を演じたのは、公開当時19歳の栗山千明(『キル・ビル Vol.1』)

日本人キャストも多く参加しており、最も目立っているのは女子高校生の用心棒、ゴーゴー夕張を演じる栗山千明だ。『バトル・ロワイヤル』(2000年)よろしく欲にまみれた男にナイフを突き刺し、満面の笑みで鎖鉄球を振り回す姿は凶悪凶暴そのものながら、発光しているように感じるほどかわいらしく、なんて魅力的なんだ!と心を鷲づかみにされた。

中学生の頃に観た当時は気づかなかったのだが、オーレン石井配下の戦闘員であるクレイジー88には若かりし頃の高橋一生が。また、初めはヤクザ役の親分役で出演した北村一輝が、後半にクレイジー88の一員としても出てきているのを発見した時は、正直興奮した。ほかにも田中要次や千葉真一など、豪華な出演陣を見つけるのも楽しみの一つ。やはりこの世で一番この作品を楽しめるのは、日本文化や日本語にどっぷり浸かった者なのでは…?

ほかにも香港のカンフー映画や日本の任侠映画にマカロニウエスタンなど、ジャンルを超えたタランティーノの愛するB級映画へのオマージュが各所にちりばめられ、その元ネタを知るとさらに楽しめる。が、知らなくても楽しめるのもこの映画の良いところ。オタクが己の趣味全開に大好きなものを全部詰め込んで自分の脳内を映画化したら、そんなもん楽しいに決まっている。

ラストは雪の降り積もる日本庭園を舞台にオーレン石井と一騎打ち。雪の白に赤い返り血が映え、強い者同士が命を懸けた戦いの中でのみ生まれる共感みたいなものを目の当たりにし、ぐっときた。

「キル・ビル」の二番煎じのような作品は作られないし、作り得ない

後編『キル・ビル Vol.2』では、ザ・ブライドの秘められた過去が明らかに

続く後編『キル・ビル Vol.2』では、日本での復讐を遂げたザ・ブライドは、残る2人とビルの息の根を止めるためアメリカへ。日本刀を片手に敵の元へと向かう。

1と2ではテイストががらっと変わる。2はビルやザ・ブライド、それぞれのキャラクターをしっかり掘り下げており、1に比べるとより渋く静かな展開。緊迫感のあるカメラワークやウィットに富んだ会話劇なども楽しめるタランティーノらしい作品といえる。ここではゾンビ映画のオマージュと思われる墓場シーンが私のイチ押し。ネタバレとなるので多くは言えないが、ぜひ目撃してほしい。

ザ・ブライドの復讐劇はクライマックスへと向かっていく(『キル・ビル Vol.2』)

例えば壮絶な殺戮シーンやカンフー的な派手なアクションなど、「まるでキル・ビルみたい!」と思わせるような作品は今後もどんどん出てくるだろう。けれど、『キル・ビル』そのもの、その二番煎じのような作品は作られないし、作り得ない。まさに唯一無二のシリーズだ。

文=宇垣美里

宇垣美里●1991年生まれ 兵庫県出身。2019年3月にTBSを退社、4月よりオスカープロモーションに所属。現在はフリーアナウンサー・俳優として、ドラマ、ラジオ、雑誌、CMのほか、執筆活動も行うなど幅広く活躍中。

<放送情報>
キル・ビル Vol.1
放送日時:2023年10月8日(日)21:00~、22日(日)13:30~

キル・ビル Vol.2
放送日時:2023年10月9日(月・祝)21:00~、22日(日)15:30~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)キル・ビル Vol.1
放送日時:2023年10月12日(木)14:50~、28日(土)21:00~

(吹)キル・ビル Vol.2
放送日時:2023年10月13日(金)15:10~、28日(土)23:00~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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