「サイコだけど大丈夫」のソ・イェジが「魔性の女」に...大人の男女が繰り広げるドロ沼の四角関係

異色の恋愛ドラマ「サイコだけど大丈夫」(2020年)で愛を知らない童話作家を演じ、美しくも風変わりなヒロインを好演した女優 ソ・イェジ。その演技は高く評価されており、主演映画『君だけが知らない』が10月28日(金)より日本公開されるなど、彼女を取り巻く動向が常に話題を集めている存在だ。

個性的なキャラクターを演じ分けてきた若き実力派のイェジだが、そんな彼女が主演を務める新作ドラマ「イブ(原題)」が、10月17日(月)よりMnetにて日本初放送される(第1話が10月2日(日)に無料先行放送)。前述の2作とはまた印象が異なり、人生を懸けて復讐することを決めた妖艶なヒロインを体当たりで演じている。

傷を抱えた男女がドロ沼の愛憎劇を繰り広げていく「イブ(原題)」。壮絶な物語は、韓国財閥企業の代表カン・ユンギョム(パク・ビョンウン)が、娘の入学式でタンゴを踊る"美女"に一瞬で魅了されてしまうことから始まる。その美しい女性の名は、同じ幼稚園に通う子供の母親イ・ラエル。偶然のように見せかけたこの出会いは、ラエルが13年もの月日をかけて計画した復讐の始まりだった。やがて、2人の関係は社会を揺るがすスキャンダルへと発展。彼女のターゲットとなったユンギョムは陰謀に巻き込まれ、人生を狂わされていく。

今作でイェジが演じるのは、魅惑的な女性・ラエル。大人たちの欲望によって愛する父親を殺され、幸せな家庭から一転、地獄のような日々を送ってきた。突然姿を消してから13年後、復讐を実行するため舞い戻ってきたラエルというキャラクターは、華奢で清楚な外見に反して、内には憎悪を燃え滾らせている...という難役だ。

序盤のハイライトである、ラエルが情熱的なタンゴを踊る姿には、ユンギョムでなくとも一瞬で惹きつけられる。その後に意味ありげな視線を送る魔性ぶり。それでいて、相手が気づかないところで瞬時に切り替わる無機質で冷めた表情にゾッとさせられる。

ユンギョムへの甘い言葉や囁くような吐息、艶っぽい情事もすべて彼女の計画のうち。復讐に燃える熱量と強い覚悟を宿す瞳は、哀しくも美しい。心の底が見えない不思議な色香を漂わせたイェジの役作りはまさに完璧で、惑わされていると感じながらも目が離せない...そんな危うさを秘めたラエルの妖艶さを見事に体現している。

復讐相手でエリート財閥の後継者であるユンギョムを演じるのが、「親愛なる判事様」(2018年)や映画「SEOBOK／ソボク」(2021年)などで知られるパク・ビョンウン。完璧主義者で結婚さえも戦略とする野望に溢れた男のはずが、ラエルへの危険な愛の沼にのめり込んでいく。果敢に挑んだ濃厚なベッドシーンも禁断の関係ゆえに魅惑的だ。

ユンギョムの妻で、財政界の権力者を父に持つハン・ソラはユソンが演じる。欲しいものは全て手に入れてきたセレブながら、夫からの愛を得られず愛執の念に歪んでいく様を熱演している。国会議員のソ・ウンピョンにはイ・サンヨプが起用された。純粋で正義感の強い男だが、片思いをしているラエルの復讐に手を貸してしまう切ない役どころだ。

彼らの思惑がそれぞれに絡み合う中で、四角関係は激しさを増していく。先の読めないストーリーや、実力派俳優陣による緊張感の漂う強烈な演技合戦も見応え十分だ。そして何よりも、泥沼の復讐劇で悪女的なヒロインを担うイェジの、美麗な妖艶さに酔いしれたい。

文＝中川菜都美