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若き田村正和の美剣士ぶりは必見。昭和時代劇の傑作「新吾十番勝負」

2022/11/14

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昭和初期に活躍した人気作家・川口松太郎は、時代小説や大衆小説の傑作を数多く残し、第1回直木賞の受賞者としても知られる。映画も大ヒットした「愛染かつら」が代表作として有名だが、時代小説の傑作とされる「新吾十番勝負」は、昭和30年代に朝日新聞に連載され、たびたび映像化もされた。時代劇の定番のひとつであり、大川橋蔵が主人公を演じた映画版が有名で、1959年から1960年にかけて東映で4作が公開されている。その後も「新吾二十番勝負」(1961~1963年)が3作、さらに「新吾番外勝負」(1964年)と続編が制作され、なかなかの人気シリーズとなった。

一方でテレビドラマも1958年に日本テレビ系で第1作が放送され、主演は江見俊太郎が務めた。第2作はフジテレビ系で1961年に「新吾二十番勝負」のタイトルで放送され、夏目俊二が主演した。ちなみに、江見は眠狂四郎役、夏目は遠山金四郎役をテレビで演じた俳優として知られる。

さて、その後も「新吾十番勝負」は何度もドラマ化されており、初期作品で有名なのは、田村正和が主演し、1966年~1967年に放送されたTBS系の「新吾十番勝負」である。田村は当時23歳。彼にとっては、テレビ時代劇初主演作という記念すべき作品だった。

秩父にある自源流道場で育てられた葵新吾(田村)は、近所の娘・お縫(岸久美子)を救うために黒田藩の侍を斬ってしまう。藩に出頭を命じられて切腹を言い渡されるが、新吾はそこで自身が将軍・徳川吉宗の隠し子であったという衝撃の事実を知ることになる...という物語だ。

新吾は、両親への愛を胸に秘め、次々と現れる強敵と闘いながら心技体ともに成長していくというストーリーで、全39回。近年では滅多に見られないが1話30分という枠で、短い尺である分、スピーディーで痛快な展開が毎回楽しめる。

名優・阪東妻三郎の三男として生まれた田村正和は、サラブレッドであり父親譲りの端正な顔立ちでデビュー当時から注目された。しかし、役には恵まれず、1963年の「花の生涯」から5年連続でNHK大河ドラマにも出演したが、大役を射止めることはできなかった。

1966年に映画『空いっぱいの涙』に主演し、同作の主題歌も歌ってレコードデビューを果たしていた。本作は、ようやくチャンスをつかみ始めた頃の作品として、意欲的に挑んでいたことが映像からもうかがえる。

顔立ちの美しさは言うまでもないが、後に当たり役となる「眠狂四郎」シリーズにつながる殺陣や所作の華々しさは、本作においても芽吹きを感じさせる鮮やかさだ。30分ものということで再放送の機会もこれまで少なかったようだが、若き日の田村の凛々しさを見られるだけでも貴重であり、新鮮な魅力に満ちている。

共演者もなかなか豪華で、「仮面の忍者 赤影」の白影役で知られる牧冬吉をはじめ、「月光仮面」の主役・大瀬康一、扇千景、佐野周二、月形龍之介らが顔をそろえている。また、当時松竹に所属していた菅原文太も出演している。特に大瀬と牧は、「隠密剣士」の人気コンビであり、昭和の時代劇を彩ったスター総出演といった趣もある。

本作以降も、「新吾十番勝負」は1970年に放送された松方弘樹版、スペシャルドラマとして放送された1981・82年の国広富之版、同じくスペシャルで1990年の真田広之版と続いた。いわば定番の時代劇シリーズと昇華していったことは、本作の設定やストーリー自体に力があったことを示しているといえるだろう。

そんな田村正和版「新吾十番勝負」が、時代劇専門チャンネルで放送される。田村正和の美剣士ぶりを見られるだけでなく、古き良き昭和の香りを存分に感じられる時代劇の良作として、時代劇好きにはぜひ見てほしい一作だ。田村の主演作品としては、これまであまり語られる機会がなかった作品でもあり、この機会を逃さないようにしてほしい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

新吾十番勝負(主演:田村正和)
放送日時:2022年11月21日(月)スタート 毎週(月)~(金) 12:30~
チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくは
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