アイドル出身のワン・イーボー、「やんちゃな短髪・年下男子」キャラで注目を浴びた「陳情令」以前の貴重なデビュー作

9月30日より中国で公開されている初主演映画「長空之王(Born To Fly)」が話題のワン・イーボー。「陳情令」(2019年)での大ブレイク以降、新作ドラマが引きも切らないトップ俳優へと上り詰めているが、中国版"トップガン"とも言える本作では主演を務め、精悍なエースパイロット役というビジュアルでも注目を集めている。

スクリーンでも一際輝くイーボーだが、本格的な役者デビューを飾った作品といえば、2016年のドラマ「ラブ・アクチュアリー～運命の恋愛相関図～(原題：人間至味是清歓)」だ。

2016年の作品ながら、これまで日本では未放送だった本作は、映画「レッドクリフ Part I／Part II」(2008-2009年)に出演する実力派トン・ダーウェイ、「独孤皇后～乱世に咲く花～」(2019年)で知られるジョー・チェンらスター俳優が顔を揃えたラブコメディ。イーボーはドラマ初出演ながら、彼らと肩を並べる形で強気の年下男子を演じ、恋の三角関係を繰り広げていく。

40代で突然会社をクビになってしまったITエンジニアのレンジェン(トン・ダーウェイ)は、ベンチャー企業の社長・ジーウェイ(ワン・イーボー)の下で雑用する日々。しかしジーウェイの会社が破産に追い込まれ、レンジェンも妻に離婚を言い渡されてしまう。人生のどん底に落ちた2人は、ジーウェイがひと目惚れした才色兼備のキャリアウーマン・チンホワン(ジョー・チェン)の家に居候させてもらうことになり、彼らは複雑な三角関係に陥っていく...というストーリー。

代表作「陳情令」では、シャオ・ジャンと共に歌った主題歌「忘羨(ワンシェン)」も人気を集めたイーボーだが、そもそも彼は歌って踊れるアイドル出身。3年間の練習生期間を経て、2014年に中韓出身の5人で結成されたアイドルグループ・UNIQの"マンネ(末っ子)"としてデビューしたことは広く知られている。2016年頃から中国でソロ活動をスタートさせると、その流れで俳優デビュー。ドラマ初出演にして、メインキャストに抜擢されたのが、この「ラブ・アクチュアリー」だ。

イーボーが演じた青年・ジーウェイは、大企業の御曹司でアメリカ帰り、23歳にしてベンチャー企業社長...というハイスペックなキャラクター。茶髪でTシャツの上にジャケットを羽織った、いかにも若手起業家といった雰囲気で、うだつの上がらないレンジェンをこき使う。

そんなジーウェイを、当時19歳のイーボーが愛嬌たっぷりに好演している。経験豊かな共演者を相手に見せる堂々とした演技は俳優キャリア1年目とは思えないし、ふとした瞬間に見せる自信たっぷりの流し目は10代らしからぬ色っぽさだ。

会社が破産して住む家を失っても、ジーウェイの強気キャラはブレない。そんな彼がチンホワンに惹かれ、初めての感情に戸惑う姿も実にチャーミングだ。「陳情令」で演じたクールで口数の少ない藍忘機(ラン・ワンジー)とは全く違う、自信たっぷりのやんちゃっぷりは新鮮で、グイグイと視聴者を引き込んでいく。

3人が一つ屋根の下で繰り広げるラブコメディだけあって、ピンクのハート柄のラブリーなパジャマを着させられてふてくされたり、迷彩姿でチンホワンたちとサバイバルゲームに挑んだり...と、プライドの高いジーウェイらしからぬギャップ溢れるシーンも楽しい。

中国放送当時は同時間帯で視聴率1位を獲得し、現在までの総再生回数はなんと100億回を突破しているという「ラブ・アクチュアリー～運命の恋愛相関図～」。「陳情令」とは全く違う、やんちゃなワン・イーボーに出会える隠れた注目作だ。

文＝酒寄美智子