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『日本俠客伝』『昭和残俠伝』『冬の華』など任俠スターとして輝いた高倉健の歩み

2022/11/29

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高倉健と中村錦之助という二大スターの共演で描かれた『日本俠客伝』
高倉健と中村錦之助という二大スターの共演で描かれた『日本俠客伝』

■高倉健を一気にスターへと押し上げた『日本俠客伝』

昭和・平成の大スター、高倉健が亡くなって8年。いまも多くの人を魅了する彼が出演した任俠映画の代表作が4Kデジタルリマスター版で特集される。

1956年に映画デビューした高倉健は、東映東京撮影所の期待の星として青春映画やアクション、ギャング映画などで最初は活躍したが、さほど人気を集めなかった。転機が訪れたのは1964年。中村錦之助(のちの萬屋錦之介)が多忙を理由に『日本俠客伝』(1964年)の主役を降板し、その代役として高倉が抜擢される。東京・深川木場を舞台に、新興やくざと老舗の木場政組との争いを描いたこの作品で、高倉は卑劣なやくざのやり口に耐えながら、最後は怒りを爆発させる木場政組の小頭・長吉を演じた。着流し姿のいなせな侠客を演じた彼の名は、この1作で爆発的に広がり、以後「日本俠客伝」は全11作のシリーズへと発展し、高倉健は東映任俠映画の中核をなすスターとして活躍することになる。

1965年には、池部良とコンビを組んだ「昭和残俠伝」シリーズがスタート(全9作)。第1作では太平洋戦争終了後の浅草を舞台に、ここに露天商のマーケットを作ろうとする寺島清次(高倉)と、それを妨害する新興やくざとの対立を描いた。ラストは単身で敵に殴り込もうとする清次に、客分の重吉(池部)が途中から道連れになる展開で、2人が殴り込みに向かう道中でかかる主題歌「唐獅子牡丹」も大ヒット。シリーズ第2作から(第3作を除く)高倉の役名は花田秀次郎に固定され、池部の風間重吉との「花と風」コンビに、70年安保闘争で権力に立ち向かう当時の若者たちが、自分を重ね合わせて胸を熱くした。

新興やくざと、露天商の再興に燃える男の対立が描かれる『昭和残俠伝』(※作品はカラー)
新興やくざと、露天商の再興に燃える男の対立が描かれる『昭和残俠伝』(※作品はカラー)

©東映

同じく1965年には、現代アクション「網走番外地」シリーズの第1作も誕生する。網走刑務所へ収監された高倉扮する傷害犯の橘真一が、囚人仲間と脱走する物語だが、監督の石井輝男はアメリカ映画『手錠のまゝの脱獄』(1958年)からアイデアをもらって、手錠で繋がれた脱獄囚コンビのサスペンスあふれるアクションドラマに仕上げた。

高倉は1961年から石井監督のギャング映画に出演していて、香港やマカオを舞台に復讐に燃える殺し屋を演じた和製フィルムノワールの傑作『ならず者』(1964年)でも、名コンビぶりを見せた。息の合った2人は、同名主題歌もヒットした「網走番外地」シリーズ全10作で一緒に仕事をしている。石井監督は様々な外国映画をヒントにダイナミックなアクションを作り上げ、高倉の代表的なシリーズにした。だがやがて高倉と石井監督、プロデューサーの意見が折り合わなくなり、シリーズはいったん終了。1年のブランクの後、ベテランのマキノ雅弘監督による『新網走番外地』(1968年)が立ち上げられ、新シリーズでは降旗康男がメイン監督として登板し、全8作中6作品を監督している。

『新網走番外地 さいはての流れ者』(1969年)は第3作で、監督は佐伯清。高倉扮する末広勝治が悪辣なやくざに怒りをぶつけるという定番のパターンだが、荒れた海でのアクションが迫力。降旗監督による第4作『新網走番外地 大森林の決斗』(1970年)には、高倉の刑務所仲間として南利明や由利徹が登場。降旗監督に話を聞いたことがあるが、このシリーズは物語が毎回似ているため、南や由利といったコメディアンのアドリブを生かして、作品を面白くしようと努めたとか。そこが「新網走番外地」シリーズの特徴で、随所に盛り込まれたコミカルな味が楽しい、娯楽作になっている。

■任俠映画だけでなく、ジャンルを問わずに活躍

これと並行して、高倉は任俠映画にも出演を続けた。その多くが主演作だが、時には任俠映画の華・藤純子(現・富司純子)の主演作にも客演している。『緋牡丹博徒 花札勝負』(1969年)は、藤純子が流れ者の女侠客・緋牡丹のお竜を演じた人気シリーズの第3作で、監督は加藤泰。お竜の名を騙るイカサマ賭博師の登場、敵対する2つのやくざ同士の娘と息子が恋仲という「ロミオとジュリエット」を思わせる設定など、見どころ満載の傑作である。高倉は途中でお竜を助ける一匹狼の渡世人・花岡彰吾役で登場する。

任俠道に生きる男たちが、義理や人情に縛られ苦悩する姿を映した『日本任俠道 激突篇』(※作品はカラー)
任俠道に生きる男たちが、義理や人情に縛られ苦悩する姿を映した『日本任俠道 激突篇』(※作品はカラー)

©東映

1960年代に絶大な人気を誇った任俠映画も、その勢いに陰りが見え、『仁義なき戦い』(1973年)がヒットしたことから、東映は実録やくざ路線へと方向転換する。その流れの中で高倉も、山口組三代目の田岡一雄の自伝を映画化した『山口組三代目』(1973年)に主演する。続編も作られたが、世間からは暴力団賛美映画と叩かれ、第3作に予定していた『山口組三代目・激突篇』は製作中止に。その代わりとして急遽作られたのが高倉主演の『日本任俠道 激突篇』(1975年)で、こちらは正統派の任俠映画である。北大路欣也や藤山寛美も顔を揃えた豪華なキャストが売りだったが、すでに時代は実録やくざ路線へと移っていたので興行的に振るわず、実質的に東映任俠映画最後の作品になった。1976年に東映を離れた高倉にとっても、これが任俠スターとしてラストの作品で、「日本俠客伝」と合わせて観ると、彼が辿ってきた任俠映画の10年の流れが、その面差しの変化からも読み取れるはずだ。

高倉が、かつて自身が殺した男の娘の成長を見守りつつも、再びやくざの道へ足を踏み入れる暴力団員に扮した『冬の華』
高倉が、かつて自身が殺した男の娘の成長を見守りつつも、再びやくざの道へ足を踏み入れる暴力団員に扮した『冬の華』

©東映

東映から独立した高倉は、1977年の『八甲田山』と『幸福の黄色いハンカチ』で各映画賞の主演賞に輝き、スターから名優へとイメージを転換する。その彼が久々に東映へ戻って主演したのが、『冬の華』(1978年)。倉本聰が彼のために書き下ろした脚本による、やくざ版「足長おじさん」といった雰囲気の異色作である。当初監督は山下耕作だったが脚本家と揉めて降板。その代役に立ったのが、降旗康男監督だった。降旗監督は従来の東映やくざ映画と違った作品を志向し、三浦洋一、小林亜星など異色のキャストを配して、殺した兄貴分の娘の成長を陰ながら見守る、高倉扮する孤独なやくざの姿を、クロード・チアリの切ないギターの調べに乗せて描いた。ここから関係が復活した降旗監督と高倉は、以降も『駅STATION』(1981年)から高倉の遺作『あなたへ』(2012年)まで、8本の映画でコンビを組んでいく。今回の特集によって1960~70年代に人々を熱狂させた、任俠スター・高倉健の魅力を再認識してもらいたい。

文=金澤誠

金澤誠●映画ライター。「キネマ旬報」、「日刊ゲンダイ」、時事通信映画評などで執筆。日本映画をメインに、これまで約1万人の映画人に取材。著書に「誰かが行かねば、道はできない」(キネマ旬報社・木村大作と共著)、「音が語る、日本映画の黄金時代」(河出書房新社・紅谷愃一・著、取材・構成・文章を担当)、「新・映画道楽 ちょい町エレジー」(KADOKAWA文庫・鈴木敏夫・著、取材・構成・文章を担当)などがある。2022年は後半に入って日本映画の力作が揃って、嬉しい限り。

放送情報【スカパー!】

日本俠客伝<4Kデジタルリマスター版>
放送日時:2022年12月26日(月)13:00~

網走番外地<4Kデジタルリマスター版>
放送日時:2022年12月26日(月)14:50~

昭和残俠伝<4Kデジタルリマスター版>
放送日時:2022年12月26日(月)16:35~

緋牡丹博徒 花札勝負<4Kデジタルリマスター版>
放送日時:2022年12月26日(月)18:20~

日本任俠道 激突篇<4Kデジタルリマスター版>
放送日時:2022年12月26日(月)20:10~

冬の華<4Kデジタルリマスター版>
放送日時:2022年12月9日(金)21:00~、26日(月)22:00~
チャンネル:日本映画専門チャンネル

※すべて、2Kダウンコンバートにて放送
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくは
こちら

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