チャン・イーの抜群の表現力！巨匠チャン・イーモウら名監督からも愛される人気俳優の熱演

「紅いコーリャン」(1988年)で映画監督としてデビューして以降、ベルリン、ヴェネツィア、カンヌの世界三大映画祭をはじめ国際的な賞を幾度となく受賞し、マット・デイモン、クリスチャン・ベールなどハリウッドスターを招いた作品まで、多彩なフィルモグラフィを築いてきた中国の巨匠チャン・イーモウ。

「紅いコーリャン」をはじめとする初期作に数多く出演した当時の恋人コン・リー、また彼女に代わる主演女優として「初恋のきた道」(1999年)で起用され、日本でもヒットを記録した「HERO」(2002年)、「LOVERS」(2004年)などで主演を務めたチャン・ツィイーら、気に入った俳優を積極的に起用し、トップへと押し上げてきたイーモウ監督。そんな彼が近年、立て続けに起用している俳優がチャン・イーだ。

「山河ノスタルジア」(2015年)などでタッグを組んだジャ・ジャンクーを筆頭に、ピーター・チャンなど名だたる監督たちと仕事を経験してきたイーは、中国三大映画賞とされる華表奨、金鶏奨、百花奨すべてを制するグランドスラムを達成した実力派。そのうち金鶏奨、百花奨を彼にもたらしたのが、イーモウ監督との映画「崖上のスパイ」(2021年)だ。

6月1日(土)にムービープラスで放送される「崖上のスパイ」は、1934年、日本の傀儡国家である満州国ハルビンを舞台に、中国共産党スパイチームと特務警察との戦いを、雪と闇が彩るスタイリッシュな映像や見応えのあるアクションを盛り込みながら描いたスパイ・サスペンス。秘密施設から同胞たちを解放し、日本軍の蛮行を世界に知らしめようとする極秘ミッション"ウートラ計画"を実行へと移すソ連で訓練を受けた工作員の男女4人。しかし、仲間の寝返りにより八方塞がりの窮地に追い込まれてしまい...。

陰謀、裏切り、どんでん返しといったスパイ映画おなじみのエッセンスに加え、キャラクターも立体的に描かれており、名もなき人々の物語としての魅力も味わえる。本作で主演を務めたイーが演じるのは、スパイチームをまとめるほど経験豊富だが、内部の裏切りによって特務の手に落ちてしまうベテランスパイ・張憲臣だ。

冷静沈着で意思の強い人間像を、派手さこそないが丁寧に演じており、肝のすわった眼差しや一言一言に重みのある節回しなど重厚感溢れる演技で体現。罠に翻弄される緊迫感あふれる表情や、敵の手に落ちもがくどことない無力感など人間味も感じさせる芝居で深みをもたらしている。さらに、氷点下40度のなか撮影した雪原にパラシュートで降り立つシーンや、路地裏での銃撃戦などアクションにも臨んだ体当たりな演技は数々の賞に値すると言えるだろう。

イーモウ監督作史上最高の興行成績を打ち立て、米アカデミー賞国際長編映画賞中国代表に選ばれるなど大きなヒットとなった本作を経ると、イーは2023年の主演ドラマ「狂飆＜きょうひょう＞-End of the Beginning-」(チャンネル銀河にて6月6日から放送開始)でも社会現象的な人気を巻き起こした。

本作は情に厚い刑事と裏社会でのし上がっていく男の20年にも及ぶ数奇な関係を、脚本に2年を費やし、大がかりなセットと120日間にわたる撮影、エキストラ1万人など、かつてないスケール感で描いたノワール作品。イーは正義感溢れる刑事の安欣を演じており、裏社会で成り上がる高啓強(チャン・ソンウェン)との出会いを通じて、国家権力と裏社会の間でもがき続ける愚直な男の苦悩を表現した。

さらには「大唐流流～宮廷を支えた若き女官～」(2019年)でのシュー・カイとのロマンスが話題を呼んだ人気女優リー・イートンが安欣と互いに好意を抱く幼なじみを演じており、2人のスターの共演も見どころだ。

中国きっての実力派俳優として、話題作を立て続けにヒットへと導いているチャン・イー。その重みのある演技を目の当たりにすれば、多くの巨匠に愛される理由が分かるはずだ。

文＝HOMINIS編集部