2024/06/10
舘ひろしが連続ドラマW主演で哀愁漂う刑事を演じた、「連続ドラマW 60 誤判対策室 (全5話)」
「60 誤判対策室」(2018年・WOWOW)は、舘ひろしが初の連続ドラマW主演を務めたサスペンスだ。本作で舘が演じるのは、無実の人間を冤罪に陥れた過去を持つベテラン刑事。スマートでダンディーなイメージを覆す、やるせなさと執念深さをあわせ持つ男の姿を見せている。
定年間際の刑事・有馬英治(舘ひろし)は、死刑囚の冤罪の可能性を調査する組織「誤判対策室」で、やる気のない日々を過ごしていた。有能だったものの無実の人間を冤罪に陥れ自殺に追い込んだ過去を持つ彼は、とある事件に関する情報を入手し、取りつかれたようにその事件を調べ始める。やがて事件の犯人とされた確定死刑囚・古内博文(康すおん)が無実である可能性に気づいた有馬は、古内の死刑執行が迫る中で冤罪を立証しようと奔走する。
本作でまず目を引くのは、都会的でスマートなイメージとは程遠い、くたびれた男に扮した舘の姿だ。うつろな瞳で無精ひげを生やし、泥酔して路地をふらつき、ついにはゴミ捨て場に倒れ込む。刻まれたしわに悲哀がにじむとはよく言ったものだが、哀愁という一言では片付けられないような、見る者をハッとさせる物悲しさがそこにある。
それは、彼が演じる有馬という人間のこれまでの人生を代弁しているのだろう。冤罪の一件によって名ばかりの部署に飛ばされた有馬は、家庭を顧みない仕事人間だったがゆえに娘からも疎まれている。自分が仕事に捧げてきた40年は何だったのか...」と舘が絞り出すセリフの一つひとつが重く、そしてやるせない。
枯れきった日々を送っていた有馬だが、やがて本格的に調査に取り組むようになると、打って変わって有能な刑事の片鱗を見せる。そんなシーンを演じる舘からは、ダンディーな味や彼特有の色気がにじみ出てしまっている点も心憎い。一方で調査を進める中では、泥臭く走り、わめき、しがみつくなど、観ているこちらの胸がひりつくような執念深さを見せている点が印象的だ。
全5話という短い物語の中で、舘が演じる有馬は実に様々な一面を見せる。くたびれた男ながらもやる時はやる、という二面性が魅力的に思える有馬だが、ことはそう単純ではない。それは本作のメインテーマである冤罪と、舘演じる有馬の抱える贖罪にある。有能な刑事としての顔、取り返しのつかない罪を抱えた男の顔、家族と向き合わなかった父の顔......。全5話という短い物語の中で、舘が演じる有馬は実に様々な一面を見せる。
そして後半では、有馬が死刑囚の古内と自分自身を重ね合わせ対比させるような場面も登場し、有馬という人間は紋切り型の言葉では捉えきれない、奥深い多面性を帯びていく。本作で舘が体現した複雑な人物像は、人を裁くことの重さや本当の正義といった深遠な問いを投げかけている事で、よりいっそうの味わいとリアリティをもたらしたと言えるだろう。
文=元永真