あの「キム・タック」役から10年...ユン・シユンが絶妙に演じた「落ちぶれたアラサー男」に癒されるワケ

韓国で最高視聴率50％超を叩き出した「製パン王 キム・タック」(2010年)で一躍スターダムへと駆け上がり、近年も独身3兄弟の恋愛模様を描いたホームドラマ「ヒョンジェは美しい～ボクが結婚する理由(わけ)～」(2022年)で爽やかな好青年ぶりを印象付けたユン・シユン。

2016年の除隊後はそんな"好青年"のイメージを脱ぎ捨て、チャレンジングな役柄も続いていたが、2021年に韓国で放送された主演ドラマ「ユー・レイズ・ミー・アップ」(7月22日(月)よりKNTVにてTV初放送)では振り切ったラブコメ演技を披露し、"アラサー男"の弾けたキャラが話題となった。

「ユー・レイズ・ミー・アップ」でシユンが演じたのは、社会人としての自信だけでなく男としての自信もなくしてしまったアラサー男のド・ヨンシク。高校時代はクラスの人気者だったが、大学を卒業後、その立場は一変。公務員試験に落ち続け、31歳にして孤独な就職浪人6年目に突入した今では、男としてのプライドも木っ端みじんに砕け散り、劣等感の塊に陥っている状態だ。

セレブなカップルを見かけて自分とのあまりの差に惨めな気持ちになったり、成功した高校時代の同級生にアルバイト先で出くわして憐れみの目を向けられたりと、その度に「俺は役に立たない"ランク外"の人間だ」と自分を卑下するヨンシク。演じるシユンが見せる、切なさと諦めが入り混じって今にも泣きだしそうな表情に胸が痛くなる。

遂には積み重なった精神的ストレスのせいか勃起不全に...。唯一残っていた男性としての自信すらも失い、さすがのヨンシクもショックが隠し切れない。「一時的な現象だ。明日にはきっと...」と、動揺を抑えながら自分にそう言い聞かせるヨンシクの姿は、悲壮感に満ちてはいるものの何だか可愛らしくもある。男としてのプライドをかなぐり捨てた、この共感度満点なキャラクターは、ちょっぴりお人好しでチャーミングな役柄を演じ続けてきたシユンならではの持ち味が存分に発揮されている。

そんなヨンシクの前に現れる"心強い味方"が、高校時代の初恋相手(それもほぼ両想い)であり、今は泌尿器科医となったハイスペックな容姿端麗のヒロイン、イ・ルダ。演じるのは、アイドルグループ・EXIDのハニとしても活躍する女優アン・ヒヨンだ。

初めは互いを認識せず、勃起不全の患者とその担当医として対面する2人。体の隅々まで診察された後で、その担当医が高校時代の初恋相手・ルダだと気づくヨンシク。「あの時のヨンシクなの？」と、あからさまに驚くルダの視線が痛い。それもそのはず、冴えない風貌＆死んだ魚のような目をした今のヨンシクは、自身に溢れていた高校時代とはまるで別人。容赦のない展開ではあるが、シユンの何とも絶妙なコミカル演技に救われる気持ちで、ついつい見入ってしまう。

どん底を打ったあとの人間は強い。もう隠すモノもないヨンシクは、「再起させたい！」と張り切るルダの全面サポートのもと、男としての自信を取り戻す闘いを開始する。

そんなユン・シユン＆アン・ヒヨンのケミがまた絶品だ。
優秀で勝気なルダと心優しいヨンシクは、影響を与え合いながら二人三脚で治療に取り組んでいく。ヨンシクの自尊心を傷つける人間をルダが言い負かすシーンも痛快で、高校時代から変わらない大きな優しさで包み込むヨンシクにルダの方が逆に救われるシーンも。そして蘇る、かつての初恋...。2人のケミが生み出す、何とも温かい、愛情に溢れた空気感に癒やされること必至だ。

ルダとのロマンスはもちろん、ズタボロ状態だったヨンシクが自信を取り戻して再びカッコいい男に変わっていくサクセスストーリーとしても魅力的な「ユー・レイズ・ミー・アップ」。愛の力が成し遂げるヨンシクの復活劇を、最後まで見届けてほしい。

文＝酒寄美智子