松坂桃李が嘘と現実の間を突き詰める...3作品で主演演じる「月刊 松坂桃李」

全3回で構成される「月刊 松坂桃李」は見ているうちに、奇妙な感覚に陥るような作品だ。
本作では、主演を務める松坂と、豪華俳優陣が共演した三つの作品を"月替わり"で紹介するもの。#1では松居大悟監督による「横★須★賀 探偵事務所」、#2では沖田修一監督による「ダンディ・ボーイ。」、#3では齊藤工監督による「何もきこえない。」が描かれる。
いずれも松坂桃李が長年温めてきた原案がもととなっており、スタッフ陣がどう映像化させていくかが見どころ。さらには、その裏側を画面上にも映し出している。

©2024 WOWOW INC.
最初に断っておかなければならない最大の真実が、本作はドキュメンタリー風ドラマ(モキュメンタリー)となっていること。撮影風景やインタビューカットがメイキングとして含まれているが、そこも含めてドラマ作品となっている。だから、ノンフィクションのように描かれている部分すら実際はフィクションなのである。
その前提を把握してないと、特に混乱してしまうのが最初の#1だ。松坂とスタッフ陣は探偵の物語を撮影していくわけだが、撮影の裏側での松坂桃李もぶっ飛んでいるのである。
リアルを追い求めてスタントシーンで実際に打撃を食らったり、2週間風呂に入っていなかったり......。さらには、突然のディテールの変更などでスタッフたちを困惑させていく。
ここまで来ると明らかな虚構だと理解できるのだが、「松坂桃李」を演じているのがほかでもない松坂自身なのだから、どこからが嘘で、どこからが本当かわからなくなってくる。ドラマにかける情熱から提案する言葉に偽りはなく、前述のような素っ頓狂(すっとんきょう)なことは言わないにせよ、実際の現場でもこのように動いているのではと想起させられる。それほどまでに作品の中での松坂は自然体なのだ。
こと#2と#3に関しては、作品全体としてフィクション感が強まっていく。
#2では「ほっこり」をテーマとして、制作にほっこりコーディネーターを参加させ、それに困惑しながらも適応していく周囲を描いている。撮影環境が特殊となったこともあり、松坂はより普段の松坂に近づいたのではないか。最初に行われた研修会によって「こんにゃく」と呼ばれながら、ほっこりと向き合っていく松坂は、奇怪なドラマに出演することとなってしまった世界線の彼だと言えるだろう。
#3ではAI監督バーグが登場。齊藤工監督との共同監督でありながら、AIに振り回される現場となっており、表現を機械から教わるという皮肉も利いている。「何もきこえない。」において松坂はAI役でもあるため、奇抜な世界観の中でも確固たる存在感を放っている。

©2024 WOWOW INC.
全3回において共通しているのは、最後に作品の予告編が流れることだ。わずか数分間に過ぎないのだが、松坂はもちろんのこと、確かな実力を持つ俳優陣が出演しているので、凄まじい完成度を誇っている。いずれも特殊なストーリーではあるのだが、だからといって決して"偽物"とは決めつけられない仕上がりで、映画に真剣に取り組む松坂の演技力と熱量があるから、「本編も見てみたい」という感情が自然と浮かんでくる。
なお、各作品の"本当の裏側"であるネタバレ動画が番組公式SNSで公開されている。それを見れば、本編を深く楽しめることは確実だ。ただ、それを視聴した上であえて言いたい。そこに映る松坂の姿と、作品の中での松坂の姿にほとんど差がないのである。「月刊 松坂桃李」は彼の俳優としての計り知れなさを逆説的に証明する作品となっているのだ。
文=まっつ
放送情報【スカパー!】
月刊 松坂桃李 #1~3
放送日時:#1 2025年5月9日(金) 23:00~
#2 2025年5月16日(金) 23:15~
#3 2025年5月23日(金) 23:30~
放送チャンネル:チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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