役所広司、山田孝之らの好演が名作の名をさらに高める！時代劇の金字塔のリメイク「十三人の刺客（2010）」

1963年に公開され、今もなお多くのファンに支持される時代劇映画の金字塔「十三人の刺客」。非道な振る舞いを繰り返す徳川将軍の異母弟で明石藩藩主・松平斉韶が老中となるのを阻止するため、命を受けた島田新左衛門を始めとする13人の刺客が斉韶を討つという物語だ。物語の中で描かれるそれぞれの生きざま、死にざま、30分にも及ぶ決戦シーンなど、時代劇としての魅力が詰まっており、コアなファンも多い。

そんな名作時代劇の名をさらに高めたのが、2010年に公開された同名のリメイク版。監督は三池崇史で、主演は役所広司が務めた。

撮影時には山形県の庄内映画村オープンセットに広大なセットを作ったり、クライマックスの殺陣も40分を超えるなど、壮大なスケールで名作をリメイクした本作は、第34回日本アカデミー賞で優秀作品賞ほか多数の賞を受賞。海外での評価も高く、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭などで賞を受賞している。

■主演・役所広司の豊かな演技の中に垣間見える"侍としての覚悟、人としての強さ"

本作で注目したいのは、やはり主演の役所だろう。人物の内面まで仔細に伝える演技力は誰もが知るところで、活躍も世界的だ。2023年公開の映画「PERFECT DAYS」で第76回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞したことは記憶に新しい。今年もさまざまなCMや、映画「雪の花　－ともに在りて－」などに出演し注目を集めている。

「十三人の刺客（2010）」で役所が演じる主人公・島田新左衛門も、実に魅力的な人物となっている。

物語の最初、新左衛門は幕府の老中・土井大炊頭利位(平幹二朗)に呼び出されるのだが、その際にさまざまな表情を見せる。最初は気さくな雰囲気だが、斉韶について語る時は強い熱を感じる表情、声となる。息子とその嫁を斉韶に惨殺された尾張藩・牧野靭負(九代目松本幸四郎)の話の後には怒気が漂い、斉韶に残酷な仕打ちを受けた女性と対面した時は、高ぶるあまりこわばった顔となる。そして静かな落ち着いた声で、斉韶暗殺の命を受け入れるのだ。

狙いが将軍の弟である斉韶なだけに、死を覚悟しなければならないほどの大命。しかし、悲壮になることなく表情豊かで変わらないところに、新左衛門の侍としての覚悟や人としての強さが垣間見える。

そんな新左衛門のもとに多くの侍が集うのも納得が行くし、新左衛門を強さと人間味が溢れる人物に仕上げた役所の演技はさすがといえる。役所は本作で、第34回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞している。

■動じない表情の奥に青白い炎が感じられる新六郎を演じた山田孝之

本作でもう1人、注目したいのが、新左衛門の甥・島田新六郎を演じた山田孝之。近年も人気コミック初の実写映画化「聖☆おにいさん THE MOVIE ～ホーリーメンVS悪魔軍団～」(2024年公開)で出演と同時にプロデューサーも務めたり、劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像」(2025年公開)にゲスト声優として出演するなど、多岐にわたって活躍中だ。

新六郎は賭場のシーンで初登場。端正な横顔はハッとするほどに綺麗だ。しかしその後、座敷でどんちゃん騒ぎを繰り広げるなど、荒んでいる様子が伺える。そして新左衛門と鉢合わせし、差し向かいで酒を酌み交わした時に、新左衛門の言葉に触発されて刺客に加わる決意をする。

新六郎は新左衛門とは対象的に、あまり表情が動かない。遊郭の帰りに襲われた時や、妻のお艶に別れを告げる時さえも顔色ひとつ変えない。しかし、その動じない瞳と表情の奥には青白い炎が燃えているように感じられ、そこから新六郎という人物の決意と強さが伝わってくる。
そして新六郎は冷たい人物というわけではなく、途中で仲間に加わった木賀小弥太(伊勢谷友介)に「無理せず逃げろ」という時には、瞳に情が漂う絶妙の表情になったりもする。役所が演じた新左衛門とはいい意味で好対照で、強い存在感を放つ人物となっている。

役所、山田はもちろん、新左衛門をサポートする倉永左平太を演じた松方弘樹、圧巻の活躍を見せる凄腕の浪人・平山九十郎を演じた伊原剛志、平山の弟子として奮戦する小倉庄次郎役の窪田正孝、斉韶を守るために新左衛門の前に立ちはだかる鬼頭半兵衛役の市村正親、そして怪演が話題となった斉韶役の稲垣吾郎など、本作ではそうそうたるキャストが競うように、素晴らしい演技を見せてくれる。

名優たちの好演によって、さらに名作としての名を高めた「十三人の刺客（2010）」。時が経っても色褪せないその魅力を、ぜひじっくりと味わってほしい。

文＝堀慎二郎