永山瑛太&満島ひかりが憎しみと悲しみに揺れる男女を熱演した演技力はまさに圧巻...坂元裕二脚本ドラマ「それでも、生きてゆく」

「東京ラブストーリー」、「初恋の悪魔」などの坂元裕二が脚本を書き、ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞などを受賞した名作「それでも、生きてゆく」(2011年制作)は、まさに今、見直されるべきドラマだ。

物語の軸となるのは、主人公の深見洋貴(永山瑛太)が中学生、双葉(満島ひかり)が小学生だった時、洋貴の同級生でもある双葉の兄が、洋貴の幼い妹を殺したという残酷な事件。その悲劇によって被害者側である深見家は両親が離婚し、父親(柄本明)と長男の洋貴、母親(大竹しのぶ)と次男(田中圭)に分かれた。一方、加害者側である三崎家は、人殺しの家族として世間から冷たい目で見られながらも、父(時任三郎)、母(風吹ジュン)、双葉と妹(福田麻由子)の4人で肩を寄せ合って暮らしてきた。
そんな正反対の立場にある2つの家族が、事件から15年の時を経て再会し、胸に秘めていた複雑な思いをぶつけ合うことになる...。
■被害者家族と加害者家族、それぞれが抱える孤独や苦しみ

大人になった双葉は、どこに引っ越しても職場などに兄の犯罪を密告される状態をなんとかしたいと思い、洋貴が父と共に経営する湖畔の釣り船店を訪ねる。洋貴は始め、双葉が妹を殺した文哉(風間俊介)の妹だとは気づかない。しかし、29歳まで孤独に生きてきた洋貴は、双葉に自分と通じるものを感じた。その直後、洋貴の父が、既に少年院から出所している文哉を殺してやりたいという悲痛な思いを打ち明け、病でこの世を去る。傷心の洋貴は父の代わりに文哉を捜そうとする。

洋貴と双葉、その家族たちは15年前の事件にとらわれ、人生を前に進められないでいる。その原因を作ったのは、他でもない、人を殺すという一線を越えてしまった文哉だ。しかし、文哉本人はその「取り返しがつかない罪」を見つめ、悔い改めているのか。坂元裕二が緻密に構成した脚本は、一見すると心がないように見える文哉の内面にも迫っていく。
ここで描かれるのは、少年犯罪の恐ろしさだ。
劇中の事件発生は1996年、文哉が「少年A」と呼ばれていることからも、1997年に世間を震撼させた中学生による連続児童殺傷殺人事件がモチーフのひとつだと思われる。脚本の坂元は、そこから「もし自分の子が殺されたら...」、「もし自分の子が他人の子を殺したら...」という想像を広げていったのではないか。そうして作られたであろう本作は、今話題となっている海外ドラマ「アドレセンス」にも通じる現代性を持っている。実際に、文哉が「(相手は)誰でもよかった」と言いながら7歳の少女を殺したように、未成年者が子供や女性という力の弱い者を狙って衝動的な犯行に及ぶ事件は、2025年の日本でも既に何件か起きているのだから。

そして、この難しいテーマに挑んだ俳優陣の演技が素晴らしい。永山は「妹が死んだのは自分のせいだ」という"原罪"を抱える洋貴役。洋貴は妹が殺された日に母親から面倒を見るように頼まれていたのに、妹を置いて遊びに行ってしまったことを悔やんでいる。しかも、妹を殺したのは自分の友人だったのだ。ふさがらない心の傷から血を流し続けていた彼が、文哉は反省していないと聞いて復讐心を抱き、文哉本人にぶつかり、やがて"赦し"の境地に至るまでの変化を繊細に演じている。その内面の揺らぎや呪縛から逃れたくなる人間らしさを表現する演技は、天才的だ。

満島演じる双葉は、洋貴の家族に対する罪悪感を抱きつつも、いざとなると「お兄ちゃん」である文哉をかばってしまう。しかし、その兄には「心がない」ので、怒りを露わにして兄に殴りかかり、目に涙を溜めながら懸命に人の道を説く。そんな場面で満島は、全身を使ったエモーショナルな演技を見せている。絶望に突き落とされた時の表情が真に迫っていて、ロミオとジュリエットのように、宿敵であるはずの関係であるのに洋貴を好きになってしまう双葉にも、演じているのが満島だからどっぷり共感できる。
本作のあと、永山は「最高の離婚」、映画「怪物」など、満島ひかりは「Woman」、「カルテット」に出演し、2人とも坂元作品の常連となった。

他にも、心に闇を抱える殺人者を演じた風間や、その犯人に渾身の怒りをぶつける被害者の母を演じた大竹も、忘れられないインパクトを残す。ドラマの制作から14年が経った今も、登場人物のように、心に深い傷を負う人たちは、現在進行形で生まれているのだ。
文=小田慶子
放送情報【スカパー!】
それでも、生きてゆく
放送日時:2025年6月20日(金)12:10~
チャンネル:フジテレビTWO ドラマ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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