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満島ひかり、惰性で生きていた女性が発奮するまでの心情をじわじわと伝える演技が絶妙!映画「川の底からこんにちは」

2025/07/30

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昨年公開されて話題となった映画「ラストマイル」で主演を務め、注目を集めた満島ひかり。実力派俳優として活躍している満島のキャリアを振り返ると、ターニングポイントとなったのは2010年前後。2009年公開の主演映画「愛のむきだし」を始めとする作品で、第31回ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞など数々の賞を受賞し、脚光を浴びた。また、2011年にはNHK連続テレビ小説「おひさま」の出演などで、その力量を多くの人に知らしめた。

当時の満島の出演作を語る中で外せないのが、主演映画「川の底からこんにちは」(2010年公開)だ。「愛のむきだし」に続き、満島は本作ほか1作品で第32回ヨコハマ映画祭の主演女優賞、またモントリオール・ファンタジア国際映画祭で最優秀女優賞を受賞している。

本作で満島が演じるのは、周囲に流されがちで、妥協と惰性で生きている女性・木村佐和子。5年前に東京に出て来て働いていたが、父が入院したことをきっかけに故郷に戻り、発奮して実家のしじみ工場を立て直すというヒューマン・コメディとなっている。

■惰性で生きてきた佐和子の変化を空気まで体現した満島ひかり

満島ひかりが実家のしじみ工場を立て直す女性を演じたヒューマン・コメディ
満島ひかりが実家のしじみ工場を立て直す女性を演じたヒューマン・コメディ

(C)PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、TOKYO FM、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)

物語の当初の佐和子は、覇気がなく、自堕落な雰囲気が漂っている。上司に命令されて子どもの粗相を処理している時に倒れ込んでしまったり、給湯室での同僚との会話でズレた返答をしたり、どこか抜けている上、心なしか暗い空気も漂っている。

連れ子のいる恋人・健一が部屋にいる時は発泡酒をすすり、健一とその娘・加代子と一緒に動物園に行っても、楽しんでいるようには見えない。そんな姿からは、佐和子がこれといった希望もなく、惰性で生きている人物であることが伝わってくる。物語の中で佐和子は、自分自身を「中の下の女」と評するが、それ故の"諦め"のようなものがじわじわと伝わってくるのだ。

しかし、父が入院したとの知らせを受けた時から、かすかに変化が現れる。動物園からの帰りのバスで涙を流し、そんな自分に驚いたり、上司が「クズばっかだな」と吐き捨てるように言った時は、心の底に何かが引っかかっているようなまなざし、表情となる。そういった微妙な変化を表す満島の力量はさすがだし、それを効果的に見せるシナリオも秀逸と言えるだろう。

■佐和子が覚醒する時の満島の演技は圧巻!

(C)PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、TOKYO FM、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)

健一、加代子と共に実家に戻ってからも、佐和子は少しずつ変化していく。自分と同じく母親がいない加代子に「一緒に寝よっか」といったり、かつて実家を出るきっかけとなった父が入院しているところへ川辺で咲いていた花を持っていったりと、彼女の中にあるさまざまな想いが表に出てくる。

そして、健一が佐和子と加代子を置いて出ていった時に、心の底の想いが一気に吹き出す。自分を守ろうとした父の前で強く、力のこもったまなざしを見せ、それまで佐和子を邪険に扱っていた工場のおばちゃんたちにも、ものすごい勢いで本音をさらけ出す。その時の佐和子はまるで別人で、目を剥き、声を荒げ、野獣になったような凄まじさだ。

そんな佐和子を見ておばちゃんたちも心を開き、物事は良い方向へと動き出す。危機的状況だった工場は持ち直し、やがて健一も戻って来る。まだ自分の気持ちをうまく出せないながらも、「頑張る」という意思を強く示したことによって、佐和子は周囲を巻き込み、前へと進んでいく。

妥協を続け、惰性で生きていた佐和子から、前を向いて進む佐和子へ。心の底の変化をゆっくりと見せつつ、弾けるような大きな変化へと繋がる流れをドラマチックに見せた満島の演技は必見だ。満島ひかりという女優が大きく飛躍した本作だからこそ、その演技に注目しながら、ぜひじっくりと鑑賞してほしい。

文=堀慎二郎

放送情報【スカパー!】

川の底からこんにちは
放送日時:2025年8月18日(月)3:30~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

詳しくは
こちら

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