阿部寛の事件を見つめる"眼光"と松嶋菜々子の"ゆらぎ"に酔い知れる映画「祈りの幕が下りる時」
数々の作品がドラマや映画、アニメ化され、今なお幅広いファンを魅了し続ける東野圭吾の世界。手がけるジャンルは、ミステリーをはじめ、重厚な人間ドラマやファンタジー、鋭いブラックユーモアまで、多岐にわたる。
そうした豊富な作品群のなかには、同じ主人公が登場するシリーズがいくつか存在する。「加賀恭一郎シリーズ」もそのひとつだ。とりわけ、シリーズ8作目の「新参者」を原作とした同名連続ドラマは、阿部寛演じる刑事・加賀恭一郎の人物像を広く印象づけ、多くの視聴者をトリコにした。
スペシャルドラマや前作の劇場版を経て、「新参者」シリーズ完結編となったのが、映画「祈りの幕が下りる時」である。
東京・葛飾区のアパートで女性の絞殺体が発見された。捜査線上に浮かび上がったのは、舞台演出家の浅居博美(松嶋菜々子)。だが、彼女には鉄壁とも言えるアリバイがあった。
やがて犯行現場から、日本橋を囲む12の橋の名前が書き込まれたカレンダーが見つかる。加賀がその手がかりをたどると、幼い自分を残して家を出た彼の母親につながって...。
ドラマの劇場版は、得てして、登場人物の関係性や世界観の理解が必要となり、初見では足を踏み入れにくいものである。しかし本作は違う。予備知識がなくとも、事件の緻密さと主人公の強い存在感によって、自然と物語へと引き込まれていく。
そんな本作の魅力を決定づけたのが、加賀恭一郎を演じた阿部寛の存在だろう。原作では容姿の描写こそあれど、読者が思い描く人物像はそれぞれ異なる。ドラマ化には、ファンからの反発も当然あっただろうし、違和感を覚えた人もいたはずだ。だが、阿部寛はそうした固定観念を見事に塗り替えてみせた。今では「加賀恭一郎=阿部寛」として原作を読み進める人も多いことだろう。
なかでも印象的なのは、その鬼気迫る眼光である。普段の穏やかな顔つきから一転、事件を見つめる瞳は極めて鋭く、犯人をじわじわと追い詰めていく。そこには執念や覚悟、そして簡単には言い尽くせない感情が宿っていて、ゾッとすることすらある。加賀の目には一体、何が映っているのか。
一方、そんな加賀と対峙する博美を演じるのは松嶋菜々子。警察を前にしても微動だにしない博美は、やっかいな難敵と言える。しかし、卓越した推理力と捜査力で迫る加賀によって、その完璧な仮面に少しずつ亀裂が生じていく。凛とした美しさが揺らぐ瞬間や、彼女の過去が明かされた後に見せる表情など、松嶋の細やかな演技は圧巻。観る者の心を掴んで離さない。
物語終盤、この物語の鍵となる加賀恭一郎と浅居博美が背負う「過去」に触れたとき、「祈りの幕が下りる時」が単なるミステリーでは終わらないことに気づく。切なさと温かさが入り混じる余韻が、静かに、そして深く残る――。
文=浜瀬将樹
放送情報【スカパー!】
映画「祈りの幕が下りる時」
放送日時:2026年8月22日(土)23:15~ほか
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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