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役所広司が体現した"静かな演技"の凄み...カンヌ最高賞「うなぎ」で見せた孤独と再生

2026/08/28

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「うなぎ 完全版」
「うなぎ 完全版」

ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」(2023年)で、東京の公衆トイレ清掃員・平山を演じ、第76回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した役所広司。2026年も、8月28日に公開される中島哲也監督の映画「時には懺悔を」や、宮藤官九郎脚本のNetflixシリーズ「俺のこと、なんか言ってた?」(10月世界独占配信予定)など話題作への出演が続いている。

そんな現在の役所広司を語るうえで、あらためて振り返りたい作品が、今村昌平監督の映画「うなぎ」だ。

1997年に公開され、第50回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞した本作。国内で既に確固たる評価を築いていた役所にとっても、初めてカンヌ国際映画祭の舞台を経験した重要な一作となった。

その後、「SAYURI」(2005年)や「バベル」(2006年)など海外作品にも出演し、国際的な評価を高めていった役所。そのキャリアを振り返ると、「うなぎ」には「PERFECT DAYS」にも通じる、言葉に頼らずとも人物の内面を伝える表現力が確かに刻まれている。

名優・役所広司の言葉を超えた
名優・役所広司の言葉を超えた"静"の演技に魅了される「うなぎ 完全版」

© Softgarage/松竹ブロードキャスティング/ケンメディア

本作で役所広司が演じた山下拓郎は、妻の不貞を知って妻を殺害し、8年間服役した後に仮出所した男。出所後は千葉県の利根川の河辺に小さな理髪店を開き、人付き合いを避けながら、飼っているうなぎを唯一の話し相手に暮らしている。

冒頭、血まみれのレインコートを着たまま警察署に自首してくる山下。まばたきもほとんどせず、どこを見ているのかわからない虚無の視線。このシーンにおける役所の「目」の演技には思わず息を呑む。

出所後も山下は人との距離を保ち、"沈黙の伴侶"としてのうなぎにだけ心を開く。理髪店を営みながら、周囲の人々と必要以上に関わろうとはしない。彼の声は低く、抑えられ、言葉数も少ない。感情を表に出そうとしない男の孤独が、その伏し目がちな視線と沈黙の取り方から伝わってくる。

「うなぎ 完全版」
「うなぎ 完全版」

© Softgarage/松竹ブロードキャスティング/ケンメディア

しかし、そんな山下の生活に変化をもたらすのが、自殺を図った女性・桂子(清水美砂)との出会いだ。山下に助けられた桂子が、彼の理髪店で働き始めることで、山下の「静」の演技にグラデーションが生まれ始める。

つとめて明るく振る舞う桂子に対し、山下は当初距離を置こうとする。それでも何度も手作りの弁当を差し出そうとする桂子や周囲の人々との交流を重ねるうちに、頑なだった表情や声にも少しずつ変化が生まれていく。

閉ざされた心にヒビが入り、抑えていた感情がふと滲み出てしまう瞬間だ。こうした極めて繊細な「仕草」の変化を積み重ねることで、罪悪感を抱えながらも、他者からの温もりにどう対処していいかわからない不器用な男の内面を、言葉に頼ることなく雄弁に伝えている。

「うなぎ 完全版」
「うなぎ 完全版」

© Softgarage/松竹ブロードキャスティング/ケンメディア

本作の面白さは、静かに生きようとする山下という男が、泥くさくエネルギッシュな周囲の人間たちとの「化学反応」によって次第に掻き乱されていく点にある。刑務所時代の知人・高崎保(柄本明)による嫌がらせ、桂子をめぐる人間関係など、自ら望んでいなくても、山下は次第に周囲の出来事に巻き込まれていく。

「うなぎ 完全版」
「うなぎ 完全版」

© Softgarage/松竹ブロードキャスティング/ケンメディア

そして、「うなぎ 完全版」では、劇場公開版117分に未公開シーンを追加した約134分のバージョンを楽しむことができる。周囲の人物たちのエピソードがより描き込まれていくことで、山下を取り巻く人々の人間くささと、そこに巻き込まれていく彼の姿を、より濃密に味わうことができる。

「PERFECT DAYS」で"何気ない日常を生きる男"の機微を世界に届けた、現在の役所広司。そんな彼が世界へ進出する前に見せた、罪と孤独を背負いながらも不格好に再生していく男の姿は、今あらためて見るからこそ新鮮に映る。

「うなぎ 完全版」
「うなぎ 完全版」

© Softgarage/松竹ブロードキャスティング/ケンメディア

役所は2021年の西川美和監督作「すばらしき世界」でも、13年の刑期を終えた元受刑者・三上正夫を演じている。

「うなぎ」と「すばらしき世界」は、どちらも刑務所を出た男が社会との接点を取り戻していく物語だが、人物像も演技のアプローチも大きく異なる。「うなぎ」の山下が感情を内側に抱え込むのに対し、「すばらしき世界」の三上は、社会の中でもがきながら感情をむき出しにする。その違いからも、役所広司という俳優の表現の幅を感じられる。

実際、役所本人も「すばらしき世界」の役づくりを振り返るインタビューで、「うなぎ」の撮影時に刑務所を訪れ、受刑者の歩き方を学んだ経験を明かしている。罪と絶望を背負い、それでも他者との関わりの中で少しずつ変化していく山下。その"再生"を大きな身振りではなく、視線や声、仕草の変化によって見せた役所広司の演技は、約30年の時を経た今も色あせない。

「PERFECT DAYS」で改めて世界から注目を集めた名優の歩みをたどるうえでも、「うなぎ」は見逃せない一作だ。

文=HOMINIS編集部

放送情報【スカパー!】

うなぎ 完全版
放送日時:2026年9月3日(木)24:00~ほか

チャンネル:映画・チャンネルNECO(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

出演:役所広司 清水美砂 柄本明 哀川翔 倍賞美津子 ほか

詳しくは
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