ラストシーンの清々しい表情が印象的!当時19歳の林遣都が自立前の青年を繊細に演じる!

2022年に3年ぶりのニューアルバムを発表し、健在ぶりを示したシンガー・ソングライターの佐野元春。その佐野を11年前にフィーチャーしたドラマ「コヨーテ、海へ」(2011年WOWOW)。演出を手掛けた堤幸彦監督は佐野のファン。2007年発表の佐野のアルバム『COYOTE』を基に自らストーリーを作り脚本を書き(似内千晶との共同脚本)、ニューヨークとブラジルで海外ロケを敢行して、このロードムービーを作り上げた。
主人公のハルを演じるのは、撮影当時19歳だった林遣都。ハルは父親の秋男(佐野史郎)が持っていた古いモノクロの写真を携え、単身ニューヨークへ。その写真に写っている教会を訪ね、そこで日系アメリカ人のデイジー(長渕文音)と出会う。ハルの父は1950~60年代にアメリカ文学界で人間性の解放と融和を訴えた「ビート・ジェネレーション」の作家たちにあこがれ、作家たちの縁の場所を訪ねていたのだ。一方、現在の秋男はブラジル南部の港町ポルト・アレグレへ行き、大西洋に突き出す堤防へと向かっていた。
林遣都はこのとき、既に『バッテリー』(2007年)、『風が強く吹いている』(2009年)などで映画主演を重ね、大きな黒目がちの瞳と美しい顔立ちはもちろん、運動神経抜群でスポーツ選手の役ができる逸材と注目されていた。本作はドラマ初主演作で、父親と腹を割って話すことのできない自立前の青年を繊細に演じている。ニューヨークはこの撮影で行ったのが初めてだったという。
「頭に残っているロケ先での景色はやっぱり、離れたところから見たマンハッタンですね。デイジーさんが『This is NY』と言った景色です。なんか、日本を抜け出して『僕は世界を旅してるんだ!』って思いました。こういうお仕事に巡り合って、こういう人たちに巡り合って、こんなところに来たんだよっていうのを、両親に伝えたいって感じましたし、開放感みたいなものもありましたね」(WOWOWドラマ公式サイト)
堤監督が一眼レフカメラでドキュメンタリー風に撮影した映像の中、林は10代らしい等身大の表情を見せる。ハルは初めてのニューヨークを旅すると同時に、まったく知らなかったビート・ジェネレーションの文化に触れ、彼らが大都会の中で人間らしい生を求めていたことを知り、さらにサラリーマンとして勤勉に働いてきた秋男が実はその思想に強く共感していたことを知る。旅に出る前は理解できなかった父親を少し身近に感じられるようになったラストシーンの清々しい表情が印象的だ。
劇中では『COYOTE』の収録曲が全編で流れる。ハルが雪のニューヨークに降り立った場面で流れる「荒地の何処かで」や、北村が日本から見て"地球の反対側"にあるブラジルの堤防にたどりついたときに流れる表題曲「コヨーテ、海へ」が印象的だ。この曲のために作られたドラマだけに「目指せよ、海へ」というフレーズが映像とシンクロし、大きな海原の向こうまで人生が続いていくことを感じさせる。
文=小田慶子
放送情報【スカパー!】
堤幸彦×佐野元春「コヨーテ、海へ」
放送日時:2022年5月6日(金)8:30~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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