2022/10/01
【後編】選手層の厚いホークスから、どんな若手が突き抜けられるのか。上杉あずさが語る、ファームで独自の輝きを放つ"若鷹"が、陰で重ねる努力の跡
2016年からホークスの取材を始め、一軍だけでなくファームが本拠を構えるタマホームスタジアム筑後にも足繁く通うタレントの上杉あずさ。自身も女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」でプレーする"選手目線"を持ちつつ、女性ファンならではの視点でテレビやラジオ、WEBサイトで発信を続けている。後編では、そんな上杉ならではのホークスとファームの楽しみ方を聞いた。
■GMに「見立て違い」と言わしめた逸材
私はホークスの始球式で球速100km/hを目指してピッチャーの練習を始めて以来、「この人は股関節を意識して投げているのかな」などと体の使い方を見るようになりました。ハニーズでプレーし始めてからは、サインプレーや配球など作戦面が気になっています。野球を見ながら「もっと有意義な時間にしなきゃ」と思う一方、そういう気持ちが強くなりすぎると純粋に楽しめなくなりますね(笑)
だからファームの試合になると、自分が特に"推し"の選手には「今、チャンスだぞ。ここで結果を出せば一軍に上がれるぞ」という場面ではめっちゃ祈っています。もともと「母性本能がすごい」って言われるんですけど、頑張れっていう思いが根底にありますね。
ホークスのファームは層が厚いことで知られますが、今、私が特にオススメする選手は田上奏大選手です。2020年ドラフト5位で履正社高校から入団し、1年目が終わった後に育成契約になりました。
そのオフにめちゃくちゃ頑張って、今シーズンが始まった直後に再び支配下登録に。三笠杉彦GMに「我々の見立て違いだった」とまで言わしめた投手です。
■野球に向かう姿勢が美しい選手
彼は高校2年まで外野手で、「ピッチャーになった方がプロに入れるんじゃないか」というおじいちゃんの助言もあって高校3年の春先に志願して練習を始めました。そうしたら練習試合でいきなり151km/hを計測したんです。
ホークスのドラフトはいわゆる"隠し球"というか、「こんな選手を見つけてきたのか!」という候補をよく獲りますけど、田上選手もそんな選手で、叔父がホークスの選手だった田上秀則さんという縁もありました。
プロ入り当初は壁に当たりました。変化球の制球や牽制に課題があったけれど、ピッチャーになったばかりでは当然ですよね。球団はしっかり育てて大きくなって欲しいと考えて、一度育成契約にしました。
それからファームで今季の開幕投手を任されるなど無双し、チーム事情もあって4月に支配下復帰。シンデレラストーリーみたいですよね。
性格的にはびっくりするほど素直で、いい意味で親の顔を見てみたいと思うくらいです(笑)。練習では自分が決めたことに対して黙々と取り組み、インタビューでは真っすぐな瞳でブレずに語る姿に心を鷲づかみにされました。
真骨頂だなと思ったのは、4月後半に二軍に落ちてからファームでも勝てなくなったときのことです。春先に良かったのはどうしたんだろうと思うくらい、打ち込まれる試合が続きました。
取材する側からすると、そういう時期は避けて、結果が出始めてから話を聞きたいところです。今はやめておこうかなと悩みながら、タイミングを探っていました。
でも話を聞きにいくと、田上選手はいつもと変わらなかったんです。「今日のテーマは"こうやろう"と思って取り組みました。結果は打たれたけど、僕の中では一つ収穫があったんです」とか、「今日は全然ダメでした。だから、明日からこうやって練習しようと思うんですよね」と素直に受け止めていました。
結果に一喜一憂するのではなく、課題と向き合いながら克服していく。真っすぐな瞳で語られる前向きな言葉を聞いて、田上選手はプロで経験している全部に意味があるんだろうなって感じました。
そうやって聞いているうちに、私は自分の人生に置き換えるようになりました。今までなら「今日はついてないな」と思っていたのが、「田上選手なら何か収穫を見つけるんやろうな」って。それくらい野球に向かう姿勢がすごく美しい選手です。
■ドラフトで最後に名前を呼ばれた男
もう1人のオススメは、仲田慶介選手という育成ルーキーの外野手です。福岡大学から入った選手で、田上選手と似ていて"努力の人"。去年のドラフトで指名された128選手のうち、128番目に名前を呼ばれて話題になりました。
スカウトの人に聞いたら、「マジで普通よ。言っちゃ悪いけど、あの子の野球センスとか能力は割と普通なんよ。でも、あんなに努力できるヤツ、見たことない」と話していました。実際、練習で1球1球を大事に打ち込む姿を見ていてすごく感じるものがあります。気づいたら仲田選手を目で追ってしまうくらい、限られた練習時間をいかに充実させるかと取り組んでいます。
私が初めて話を聞いたのはドラフト前でした。大学野球の秋のリーグ戦が行われている頃で、腰に少し痛みを抱えながら無理して出ていました。でも、それでケガをしたら、プロになれたとしても故障からのスタートになる。逆にケガを避けるために試合に出なかったら、「何かあるのでは」と指名を回避されるかもしれない...。本人はすごく悩んでいて、私が取材に訪れたときに相談されました。
ちゃんと話すのは初めてだったのに、私の仕事を知っていてくれて、信頼してくれたのは嬉しかったです。何としてでもプロになりたい、という執念が伝わってきました。いろんな学生選手を取材してきたけど、そこまで感じたのは初めてでしたね。結果的にホークスに指名されて、私も嬉しかったです。
■小久保二軍監督も認める"努力の人"
仲田選手は身長175cmと決して大きくなく、使い勝手が良ければチャンスをもらえると考えて大学入学後にスイッチヒッターになりました。プロになった今も毎日、左右で同じ量を振っています。
足は普通に速い方で、そこから「瞬足になりたい」と足を速くするためのトレーニングを入団前には重点的に行ないました。チャンスがあるなら何でもやるという選手です。ホークスのファームで内野手が足りなくなり、「できるか?」と聞かれたときもチャンスと受け止めて、今はセカンドで出場機会を増やしています。執念の塊です。
実際、ホークスの中でも努力を重ねる姿は目立っています。若い選手から、「仲田さん、夜中の12時ぐらいにバットを持って室内練習場に行っていました」と聞きました。二軍の小久保裕紀監督は厳しい指導で知られますが、仲田選手に対しては「練習しすぎてケガされたら困る」と言うくらいです。
そうした仲田選手や田上選手の姿を見ていると、私も奮い立たされます。2人にはかなわないけれど、自分も頑張ろうってなりますね。
■ファームから見てきて、人生で幸せな瞬間
ホークスは、千賀滉大選手や甲斐拓也選手を筆頭に、育成出身の選手が羽ばたいていくことで知られています。一軍の大舞台でみんなに注目されて輝きを放つ前の選手を先に見られるのは、ファームの一番の楽しみです。努力して育っていく姿にはドラマがありますよね。
ファンの人と仲良くなって話すと、「私、甲斐が育成のときから目つけとったとよ」と言うマダムもいます。「自分、あの頃から見ていたよ」というのはファンの人たちにとって喜ばしいことでしょうね。「入団したときもすごくファンサービスが良かったけど、一軍に行っても変わらないね」って思い出話も楽しくなる。だから、今のうちから見ておきたいなって思うのがファームです。
どちらかと言うと男性ファンは「あの子はいいピッチャーになるばい」というような、将来性の視点で見ている人が多い気がする一方、女性ファンは野球の純粋な面白さに加え、野球以外の仕草や挨拶の仕方も含めて応援したくなる選手を見つけていると思います。それが「母性本能」ですかね(笑)。そうやって好きになった選手が一軍に行くと、勝手に家族みたいな気持ちで「良かった」って喜べます。
育成選手が支配下登録になる瞬間は、私にとって人生の中で幸せなタイミングです。ファームは、その喜びを感じられる場所ですね。これからも"若鷹"たちを追いかけていきたいと思っています。
インタビュー/構成=中島大輔 企画=This、スカパー!
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