2024/07/07
阿部寛が自然の厳しさの中で臨場感溢れる演技を魅せた、映画「エヴェレスト 神々の山嶺」
世界最高峰のエヴェレストを舞台にした映画「エヴェレスト 神々の山嶺」(2016年公開)。原作は夢枕獏の傑作山岳小説で、監督は「愛を乞うひと」「必死剣鳥刺し」などで世界的に評価されている平山秀幸だ。本作は氷点下&標高5000m以上のロケ地での撮影になるため映像化不可能と言われていたが、スタッフの入念な準備をはじめ、岡田准一や阿部寛など俳優陣が低酸素トレーニングやアイスクライミングの訓練を受け、実現したという。そして壮大かつ過酷な自然を臨場感たっぷりに描いた山岳ドラマの超大作となった。
1993年、山岳写真家の深町誠(岡田准一)はエヴェレスト近くのネパール・カトマンズ(カトマンドゥ)の街で、数年前に遭難したはずの天才登山家・羽生丈二(阿部寛)に似た人物を見かける。羽生は谷川岳など国内有数の難所を攻略してきた天才クライマーで、若い登山家の中には命知らずの羽生に憧れる者もいた。だが、一方であえて難しいルートを選ぶことから山岳会のメンバーとの衝突が絶えなかった。日本へ帰国後、羽生の人生を調べ始めた深町は、知れば知るほど羽生という登山家に魅せられ、のめり込んでいく。彼はなぜ姿をくらましているのか、そしてカトマンズ(カトマンドゥ)にいるわけとは--。そんな中、深町は、かつて羽生とのクライミング中に墜落死した岸文太郎(風間俊介)の妹・涼子(尾野真千子)と出会う。涼子から羽生の人となりを聞き、深町は羽生の狙いはエヴェレストの最難関ルートである"南西壁の冬季無酸素単独登頂"ではないか?と結論付ける。その挑戦を「この目で見届けたい。カメラに収めたい。」そんな思いに駆られ、涼子と共に再びネパールへと飛ぶことに。だが、山の魅力にとりつかれ、神の領域へと足を踏み入れた男たちの前には幾重にも連なる試練が立ちはだかる。
実際にエヴェレストで撮影された本作は、なんと言ってもリアリティーが半端ない。吹雪のシーンではほとんど画面が真っ白になるほど視界が悪く、岡田や阿部の顔は雪焼けで黒ずんでいる。リスクを恐れず難しい挑戦をあえて選択しながらも、生きることへの執念はすさまじい。傷を負った深町を背負って氷山を登る場面の羽生の表情は鬼気迫るものがあった...。そして羽生から発せられる言葉は、茶の間でのんびり観ているこちら側にも突き刺さる。そんな世界を、阿部寛が見事に体現してくれている。
文=石塚ともか