江口洋介が体現する"会社員の矜持" 萩原聖人のにじむ葛藤、林遣都のまっすぐな切実さも光る山一證券破綻劇「連続ドラマW しんがり ~山一證券 最後の聖戦~」
1997年、四大証券の一角だった山一證券が自主廃業を発表した。社長が涙ながらに「社員は悪くありませんから」と語った会見は、ニュース映像などで目にしたことがある人も多いのではないだろうか。「連続ドラマW しんがり ~山一證券 最後の聖戦~」は、その山一證券破綻の裏側で、最後まで会社に残った社員たちの闘いを描く社会派ドラマだ。
主演を務めるのは江口洋介。「東京ラブストーリー」、「ひとつ屋根の下」(フジテレビ系)などで時代を代表する俳優となり、その後も「救命病棟24時」(フジテレビ系)シリーズをはじめ、正義感や責任感を背負う人物を数多く演じてきた。そこに、萩原聖人と林遣都が加わる。萩原は、青年期から繊細な芝居で注目を集め、どこか影を抱えた人物や、内面に複雑な感情を抱えた役をリアルに演じてきた俳優。林は、映画「バッテリー」での鮮烈なデビュー以降、まっすぐさと危うさを同時に感じさせる演技で存在感を放ってきた。
© 2015 WOWOW INC.
物語は、山一證券の常務・梶井達彦(江口洋介)が、業務監理本部、通称"ギョウカン"の本部長に就任するところから始まる。業務監理本部は、社内監査を担う部署でありながら、本社から離れた場所にあり、社内では"場末"とも呼ばれていた。そこへ証券取引等監視委員会の立ち入り検査が入り、社内には一気に不穏な空気が流れ始める。当時、金融業界では総会屋への利益供与問題が大きく取り沙汰されており、山一證券もその渦中にあった。梶井は、瀧本利生(萩原聖人)や吉岡譲(林遣都)らギョウカンのメンバーとともに、会社の中で何が隠されているのかを探っていく。やがて明らかになるのは、約2600億円にも及ぶ簿外債務の存在。名門証券会社は、自主廃業という避けられない結末へと向かっていく。
まず引き込まれるのは、江口が演じる梶井の静かな説得力だ。梶井は、声を張って周囲を動かすリーダーというより、相手の言葉を受け止めながら少しずつ状況を見極めていく人物だ。業務監理本部に着任した彼は、部下たちの反応を見ながら、会社の中で何が起きているのかを探っていく。言葉を選ぶまでの間、じっと相手を見る表情、わずかな違和感を逃さない視線。そうした細かな芝居から、会社員としての現実を知りながらも、真実から目をそらさない梶井の誠実さが伝わってくる。
それがとても江口洋介らしい。熱さはある。でも、その熱さを前面に押し出しすぎない。会社の不正を前にした怒り、現場で働く社員たちへの思い、上層部への疑念。そうした感情をすべて胸の奥に抱えながら、梶井は一歩ずつ進んでいく。江口が演じることで、梶井は単なる"正義の上司"ではなく、会社員としての現実を知りながらも、最後まで社員たちと向き合おうとする大人のリーダーに見えてくる。
特に印象的なのは、梶井が社員の声に耳を傾けようとする場面だ。会社が大きく揺らいでいる時、彼はまず、そこで働いてきた人たちの声を聞こうとする。そこには、きれいごとだけではない覚悟がある。会社はもう助からないかもしれない。それでも、そこで働いてきた人たちの人生までなかったことにはできない。江口の落ち着いた芝居によって、梶井の思いは理想論にとどまらず、現実を知る人間の覚悟として響いてくる。
© 2015 WOWOW INC.
一方、萩原が演じる瀧本は、物語に現場の苦さをにじませる存在だ。瀧本は、組織の中で働く人間が、上からの言葉を簡単には信じられないことも、声を上げることの難しさも知っている。だからこそ、梶井の言葉にすぐ感化されるのではなく、現場の空気を見ながら、慎重に状況を見極めようとする冷静さがある。
萩原の芝居で引き込まれるのは、感情を大きく爆発させなくても、瀧本の迷いや苛立ちが伝わってくるところだ。会社の中で何かが隠されているという不信感、真相に近づいていく怖さ、それでも目をそらせない責任感。そのどれもが、強い台詞ではなく、少し硬くなった声や短い沈黙、ふとした視線の動きに表れている。瀧本が抱えているものを説明しすぎずに見せる、その抑えた芝居に萩原らしさがある。
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そして林演じる吉岡は、本作の中で視聴者にもっとも近い立場にいる人物といえる。吉岡は、巨大企業の内側にある不正や、上層部の曖昧な態度を前に、素直に驚き、戸惑い、傷つく。会社に長くいればいるほど見えなくなってしまう違和感を、彼はまだまっすぐに感じ取ることができる。林は、吉岡の若さを単なる未熟さではなく、現実をまっすぐ受け止める力として見せている。吉岡は、会社の中で何が起きているのかをすべて理解しているわけではない。だからこそ、隠されていた問題を知った時の戸惑いや恐怖が、そのまま視聴者の感覚にも重なる。先輩たちの言葉に迷いながらも、目の前の出来事から逃げず、自分にできることを探そうとする。その表情の変化が、本作に若い社員ならではの切実さをもたらしている。
山一證券の破綻は、ニュースとして見れば大きな経済事件だ。しかし、吉岡の目を通すと、それは一人の若い社員が突然、自分の働く場所を失っていく物語にも見えてくる。林の演技は、視聴者とドラマをつなぐ入口になっている。難しい企業不祥事の話を、ひとりの人間の動揺や痛みとして受け取らせてくれるのだ。
"しんがり"とは、退却する軍の最後尾を引き受ける役目を指す言葉だ。勝利の先頭に立つのではなく、もっとも厳しい場所に残り、仲間を守る役目でもある。本作の社員たちも、会社が終わっていく中で、その最後尾を引き受けることになる。華々しい勝利が待っているわけではない。それでも、自分たちの仕事に最後まで向き合おうとする姿には、胸を打たれるものがある。
「しんがり ~山一證券 最後の聖戦~」は、過去の企業破綻を描きながら、今を生きる私たちにも問いを投げかけてくる。組織の中で働くとはどういうことなのか。会社のためではなく、人として守るべきものは何なのか。その答えを、江口、萩原、林の演技が丁寧に浮かび上がらせている。重厚な題材でありながら、最後に残るのは難しさではなく、彼らの表情に刻まれた"働く人間"の誇りだ。
文=川崎龍也
放送情報【スカパー!】
「連続ドラマW しんがり ~山一證券 最後の聖戦~」
放送日時:放送日時:2026年7月5(日)7:15~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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