小泉孝太郎が「眼の壁」で体現する"巻き込まれていく男"の緊張感 清張ミステリーで際立つ静かな執念
ミステリードラマ「精神分析医 氷室想介の事件簿」シリーズで主演を務める一方、高嶋ちさ子とMCを務める「プラチナファミリー」でも、相手の話を丁寧に受け止める柔らかな進行で存在感を見せている小泉孝太郎。そんな小泉が主演を務める連続ドラマW 松本清張「眼の壁」が、7月18日(土)にWOWOWプラスで放送される。本作は、松本清張の同名小説を連続ドラマ化した全5話の社会派サスペンスだ。
物語の舞台は1990年。資金繰りに苦しむウキシマ電業製作所の経理課長・萩崎は、部長の関野徳一郎(甲本雅裕)とともに融資交渉に奔走していた。ようやく資金のめどが立った矢先、関野が2億円の手形詐欺に遭い、そのまま姿を消してしまう。会社は体面を守るために事件を隠そうとするが、萩崎は父親代わりでもある関野を救うため、新聞記者の友人・村木満吉(上地雄輔)の力を借りて真相を追い始める。
©2022 WOWOW/ファインエンターテイメント
小泉が演じる萩崎竜雄は、会社の中でまじめに働いてきた経理課長だ。組織の空気を読み、自分の立場をわきまえながら、目の前で起きたことを冷静に受け止めようとする。だが、父親代わりでもある関野を見捨てることはできない。会社員としての理性と、恩人を救いたいという個人的な思いの狭間で揺れる萩崎を、小泉は感情を押し殺すように黙り込み、相手の言葉を聞きながら少しずつ表情を曇らせていく。その抑えた芝居が、萩崎の中で膨らんでいく焦りや怒りをじわじわと伝えている。
小泉の芝居には、相手の言葉をきちんと受け止める誠実さがある。穏やかな声や、感情を荒立てずに状況を見極めようとする佇まいは、萩崎という役柄とよく重なっている。父の恩人でもある関野が事件に巻き込まれ、会社は体面を守るために事実を伏せようとする。萩崎の動機は、関野を救いたいというまっすぐな思いだが、真相を追ううちに、会社の保身や金の流れ、権力とのつながりが少しずつ見えてくる。真相に近づくほど萩崎の中で大きくなっていく不安や焦りを、前のめりになりすぎない芝居で丁寧に見せているのだ。
©2022 WOWOW/ファインエンターテイメント
泉里香演じる上崎絵津子との場面では、萩崎の警戒心と引き寄せられる感情が同時に見えてくる。絵津子は手形詐欺事件の鍵を握る人物でありながら、その言葉や表情から本心を簡単には読ませない。萩崎は彼女に近づくことで真相へ一歩踏み込んでいくが、同時に、自分がより大きな何かに巻き込まれていることも感じ始める。小泉は、絵津子をただ疑うのではなく、相手の言葉を受け止めながら慎重に距離を測る萩崎を演じており、そのやり取りが本作のサスペンスに艶やかな緊張感を加えている。
松本清張作品の面白さは、ひとつの事件を追ううちに、その背後にある社会の仕組みまで見えてくるところにある。『眼の壁』もまた、2億円の手形詐欺から始まりながら、会社の体面や組織の保身、金の流れへと物語が広がっていく。ただ、萩崎の出発点にあるのは、社会悪を暴きたいという大きな正義感ではない。父の恩人でもある関野を救いたい、真相を知りたいという個人的な思いだ。だからこそ、小泉は萩崎を強い主人公として見せすぎず、目の前の違和感をひとつずつ確かめながら進んでいく男として演じている。その等身大の佇まいがあるから、事件の奥行きが増していくほど、萩崎が巻き込まれていく怖さもより身近に迫ってくる感覚がある。
穏やかで実直な人物の中に、どうしても譲れない思いがある。小泉が演じる萩崎は、その魅力がよく生きた主人公だ。手形詐欺の真相を追う物語でありながら、『眼の壁』で強く残るのは、組織の論理に飲み込まれそうになりながらも、関野を救いたいという思いだけは手放さない萩崎の姿である。本作は、松本清張ミステリーならではの重厚なサスペンスと、小泉の静かな芝居が生む緊張感をあわせて楽しめる作品だ。
文=川崎龍也
放送情報【スカパー!】
連続ドラマW 松本清張「眼の壁」
放送日時:2026年7月18日(土)18:00~ほか
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽(スカパー!)
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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