吉岡里帆&柄本佑チーム、中村倫也&尾野真千子チームの対比で、アニメ業界で"奇跡"が起きる様を描く映画「ハケンアニメ!」

ハケンとは派遣ではなく覇権のこと。地上波で同じ時期に放送されたアニメ作品の中で最も高い視聴率を取った作品のことを「ハケンアニメ」と呼ぶという。映画「ハケンアニメ!」は、辻村深月の同名小説を吉野耕平監督が実写化。新人アニメ監督の斎藤瞳を吉岡里帆が、斎藤にとって憧れのカリスマ監督・王子千晴を中村倫也が演じ、TVアニメとしての成功というプレッシャーと、「良い作品を作りたい」というクリエイターとしての矜持の間で揺れる2人を中心に物語が展開し、高い評価を得た作品だ。1月22日(日)に日本映画専門チャンネルでTV初放送される。

斎藤(吉岡)が所属するのは大手のアニメ制作会社。王子(中村)の代表作に感動し、公務員から転職してきた斎藤は生真面目な性格で、残業の多い職場でコツコツ働き、28歳にして監督デビュー作「サウンドバック 奏の石」を作るチャンスを得る。斎藤をメディア対応などに駆り出して宣伝するのがプロデューサーの行城理(柄本佑)。本当は絵コンテを描くなどの作業に集中したいのに行城に連れ回される斎藤は、「サウンドバック」と同じ土曜の夕方に放送される王子の新作には負けられないと思い詰めるがゆえに、スタッフの中で空回りしてしまう。
一方、王子は8年ぶりの復帰作となる「運命戦線リデルライト」に取り掛かっていたが、制作途中に失踪。プロデューサーにして"伝説の制作進行"である有科香屋子(尾野真千子)はテレビ局側から責任を問われてピンチに。イベントで斎藤と対談する日、王子が姿を現わすのではないかと期待するが...。

新人監督とカリスマ監督の対比を通し、たくさんのスタッフが関わり、時に衝突しながらも細かい作業を繰り返して作品を完成させるアニメーションの舞台裏を知ることができる。「サウンドバック 奏の石」は「機動戦士ガンダム」や「新世紀エヴァンゲリオン」のようなロボットアニメであり、「運命戦線リデルライト」は近未来的な世界観の中で魔法の力を手に入れた少女たちがバイクに乗って疾走する。原作者の辻村が詳細な設定を作り、映像はProduction I.Gなど有名な製作会社が手掛けており、現実には存在しない作品とわかっていても思わず本編を見たくなってしまう。

吉岡はメガネをかけ髪はひっつめ、化粧っけがない姿で「誰かの心に刺さるアニメを作る」という夢に向かって奮闘する斎藤を熱演。そのひたむきな演技が胸を打つ。柄本は、いつもテンパり気味の斎藤をからかっているかのような行城を演じているが、意外な姿を見せるエンドクレジット後のおまけ映像は見逃せない。中村は、カリスマゆえにネットで飛び交うファンからの評価など重圧を背負ってしまった王子を繊細な表情と声で体現する。尾野は、行城に比べれば動じやすく打たれ弱い有科をリアルに演じる。まるで甘えん坊の弟と姉のような関係性を中村と尾野が演じているのが珍しい。
吉岡&柄本、中村&尾野、どちらのチームも、内面に表現せずにはいられないものを持っているクリエイターと才能ある監督を支えるプロデューサーの相互補完的な関係が描かれていく。そして、2つのチームが熾烈な視聴率争いを繰り広げる中、いくつかの奇跡が起こる。現実のアニメ業界はアニメーターの雇用形態が不安定で報酬も低いなどの問題があるが、それでも多くの人が夢を抱いて集まってくる理由がわかる快作だ。
文=小田慶子
放送情報【スカパー!】
ハケンアニメ!
放送日時:2023年1月22日(日)21:00~ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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