国民的女優・吉永小百合が現在にも通ずる神々しさで映画「あゝひめゆりの塔」にもたらしたもの

10月31日(金)に映画出演124本目となる最新作「てっぺんの向こうにあなたがいる」が公開を控えている吉永小百合。国民的女優である吉永は、123本目の出演作となる映画「こんにちは、母さん」(2023年)では「第47回日本アカデミー賞」優秀主演女優賞を受賞するなど、今もなお演技に磨きがかかっている稀代の俳優だ。

⒞1968年日活株式会社
吉永といえば、初主演を務めた映画「キューポラのある街」(1962年)で「第13回ブルーリボン賞」主演女優賞に輝き、1960年代は「日活の看板女優」として、浜田光夫と共に日本映画界に一大旋風を巻き起こした。10代の時から日本を席巻した彼女は、当時から豊かな表現力と瑞々しい演技で日本中を魅了。そんな彼女の圧倒的なオーラが見られる作品が映画「あゝひめゆりの塔」(1968年)だ。
同作品は、日活青春スター総出演で明治百周年記念芸術祭参加作品として制作されたもので、石野径一郎の小説「ひめゆりの塔」を舛田利雄監督が吉永主演で映画化したもの。太平洋戦争末期の沖縄戦に看護要員として動員された「ひめゆり学徒隊」の悲劇を描いた戦争ドラマ。

⒞1968年日活株式会社
昭和18(1943)年、沖縄で級友たちと運動会を楽しんでいた沖縄師範女子部の与那嶺和子(吉永)は、師範男子の西里順一郎(浜田)と出会う。翌19年、戦局が悪化し、沖縄も戦場になろうとする中、陣地構築の作業に従事するようになった和子と順一郎は、互いに愛情を抱き始める。やがてサイパン島が陥落。小学校教員である和子の母・ハツ(乙羽信子)は、内地への疎開が決まった学童たちに同行するため輸送船に乗るが、撃沈され死亡してしまう。空襲が始まった10月には、全島に非常戦時体制が敷かれ、女子学生は臨時看護師として南風原陸軍病院へ、男子学生は鉄血勤皇隊として陸軍と行動を共にすることに。
同作は白黒映画なのだが、最初のシーンから吉永のキラキラとしたオーラに驚かされる。戦時下という古めかしく貧しさが漂う世界観の中においても、息をのむほどの神々しさで、見惚れてモノクロであることを忘れてしまうほど。しかも、その神々しさが不穏な空気が満ちていく作品世界とのギャップを生み、その対比が戦争ドラマの悲劇性を高めている。若く、未来があり、ハツラツとした女学生だからこそ、戦争という地獄に否応なしに巻き込まれていく姿が一層涙を誘う。

⒞1968年日活株式会社
また、存在だけでなく、瑞々しい演技によって表される喜怒哀楽がすばらしい。戦禍の中でも笑顔がこぼれる瞬間や、親しい人間が目の前で死んでいく姿を見守る苦しみの表情、凄惨な事態に直面した時の驚きと絶望と忍耐と悲哀がない混ぜとなった感情など、"普通ではない状況下"で"普通の女学生"を等身大で見事に演じ上げている。
美しさや存在感、オーラだけでなく、豊かな感情表現で悲劇のヒロインを瑞々しく演じる国民的女優の若かりし頃を見て、現在にも続く神々しさを堪能してほしい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
あゝひめゆりの塔
放送日時:2025年6月13日(金)00:15~ほか
放送チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
こちら