キャストの歌声、名曲の素晴らしさにときめく
実写版『アラジン』がくれる夢のような時間

ガイ・リッチーが実写で紡いだ大人気ミュージカル

「アラジン」は、「千夜一夜物語」「アラビアンナイト」の名で知られるイスラム世界の説話集の一編から生まれたディズニーミュージカル。1992年にアニメとして製作され、ティム・ライスが作詞、アラン・メンケンが作曲した主題歌「ホール・ニュー・ワールド」は第65回アカデミー賞で歌曲賞を受賞した。

その聞き慣れた名曲はそのままに、「シャーロック・ホームズ」シリーズなどスピード感あふれるエンターテインメントが得意なガイ・リッチー監督が作品を実写映画化した。監督自ら脚本を手掛けた実写版は、船旅をする父親が子どもたちにアラジンの冒険物語を語り聞かせるところから始まり、人間味が前面に出たドラマが繰り広げられる。

アグラバー王国で、子猿のアブーと暮らす貧しい青年アラジン。根は正直者で心優しいものの生きるために盗みを働く彼は、ある日、市場で王城の侍女らしき女性と出会い惹かれ合う。ところがアブーが彼女の腕輪を盗んでしまい、それを返しに城に忍び込み衛兵に捕らえられたアラジンは、野心家の国務大臣ジャファーから、彼女が城を抜け出したジャスミン王女であることを知らされ、赦免の条件として洞窟から「魔法のランプ」を手に入れてくるよう命じられる。

歌声とエンタメ性を見事に掛け合わせた演出

両親がエジプト人で、生まれもエジプトのカナダ人俳優メナ・マスードが演じたアラジンは、オリエントな映画の世界によく似合うエキゾチックな佇まい。また、イギリス出身のナオミ・スコットが演じるジャスミンは清澄で美しい。さらに優しさを感じる歌声も魅力的で、ディズニー映画に欠かすことのできないメンケンのナンバーを歌うのにぴったり！

そして魔法のランプから登場する魔人ジーニーを演じるのは、グラミー賞受賞のラッパーでもあるウィル・スミス。彼のために書かれ、アラジンへ友だちになるためには準備万端、パワーたっぷり…と歌い上げる「フレンド・ライク・ミー」はウィルの歌唱とマッチ。巨人にも人並みのサイズにも変幻自在に体長を変えながらパワフルに歌って魅せ、ハリウッドのトップスターの貫禄を見せている。

リッチー監督お得意のスピーディで軽快な動きが見事に合うのは、やはり魔法のカーペットが登場するシーンだ。岩に挟まれたカーペットを助け出し、ジーニーを呼び出したアラジンは、魔法でアバブワ国の王子アリになってジャスミンを誘い、カーペットに乗ってアグラバー王国の空を翔け巡る。昼の青空や光り輝く夜景、星空の輝き。ここで使われている名曲「ホール・ニュー・ワールド」が語りかける幸せ。これこそ恋の歓びで生きることの素晴らしさ、としみじみ納得だ。

ジャスミンに見る現代的なプリンセス像

ディズニーアニメ『アラジン』から27年。ライス＆メンケンの楽曲のほかに『ラ・ラ・ランド』(2016年)や『グレイテスト・ショーマン』(2017年)のベンジ・パセック＆ジャスティン・ポールの詞を用いるなど新風を吹き込み、さらに「アラビアンナイト」の絢爛豪華さを表現するため、500人ものダンサーや俳優による大掛かりな群衆シーンを作っている。

ジャスミンの衣装は目くるめくような美しさだが、それにも増してこの映画で印象的なのが、彼女が凛々しく行動的で、現代的なプリンセスとして描かれていることだ。白馬の王子様を待ち望むよりも、自立して自分の国は自分で治めるという意志の強さを感じさせる。これから生まれてくるディズニープリンセスたちは、ジャスミンを見習い、頼もしく魅力的な女性になっていくことだろう。

文＝渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス＆ミステリー。最近はオーストラリア製本格ミステリー小説が原作の「渇きと偽り」がお気に入り。続編が書かれ、TVシリーズ化もされるそうで楽しみ。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。

＜放送情報＞
アラジン
放送日時：2022年12月8日(木)18:30～、24日(土)2:15～
チャンネル：スターチャンネル１

（吹）アラジン
放送日時：2022年12月11日(日)16:30～、15日(木)7:30～
チャンネル：スターチャンネル３

※放送スケジュールは変更になる場合があります