原作の1年前をベースに、不良たちが集まる鈴蘭男子高校での派閥争いが描かれる『クローズZERO』

映画オリジナルで構築された『クローズZERO』
抗争に揉まれるうちに、一匹狼が知っていくもの

2024/04/29 公開

原作の大事な要素はそのままに生み出されたオリジナルの「クローズ」

不吉で嫌われ者のカラス(CROW)のような不良少年ばかりが集まっていることから、巷では「カラスの学校」と呼ばれる「鈴蘭男子高校」を舞台に、群れることを拒んだアウトサイダーたちが熱き抗争を繰り広げる「クローズ」シリーズ。

不良マンガの代名詞ともいうべき超人気作ゆえに、連載中から映画化のオファーが殺到していたのだが、原作者の髙橋ヒロシはすべて断固拒否。それを髙橋の親友であり、俳優のやべきょうすけが、長い年月をかけて説得し、「主人公の坊屋春道を出さないのであれば」という無茶すぎる条件を飲んで実現させたのが、山本又一朗プロデューサー、三池崇史監督、小栗旬主演で制作された映画『クローズZERO』(2007年)と『クローズZERO II』(2009年)である。

髙橋は、鈴蘭にやって来た転校生・坊屋春道を主人公とする「クローズ」を1990年から1998年まで「月刊少年チャンピオン」にて連載。単行本全26巻のほか、「クローズ」に登場したキャラクターたちの本編では描かれなかった物語「クローズ外伝」全2巻と、「その後のクローズ」全1巻がある。さらに、鈴蘭高校を舞台にしたシリーズは、「クローズ」の次世代を描いた「WORST」全33巻、「WORST外伝」全1巻へと続く。

そして、映画『クローズZERO』の公開後には、劇中でやべきょうすけが演じた映画オリジナルキャラクター、鈴蘭OB・片桐拳の高校時代を描く「クローズ外伝 片桐拳物語」全1巻も刊行された。こちらは原案が矢部享祐(やべきょうすけの本名)。自分が演じたキャラを、自分で掘り下げて、原作者にマンガにしてもらう……夢のような展開だ。

3年で編入してきた源治。OBの拳のアドバイスをもとに鈴蘭で勢力を拡大していく(『クローズZERO』)

「クローズ」→「WORST」のように「代替わり」をさせることで、時が流れて、生徒たちの顔ぶれが変わっても、鈴蘭高校の男たちのかっこいいスピリットは変わらないことを描き続けたのが「クローズ」シリーズの魅力。この世界観を踏まえて「主人公・坊屋春道を出すのはNG」という無理難題を解決する方法とは─?苦労の末、『あずみ』『新宿スワン』シリーズのプロデューサーである山本又一朗は、坊屋春道が鈴蘭に転校してくる1年前という設定を考えつく。

多数の派閥が勢力争いを繰り返し、いまだかつて制覇した者は誰もいない鈴蘭高校。現在の最大勢力は3年の芹沢多摩雄(山田孝之)が率いる芹沢軍団だ。しかし、校内には全学年に様々な敵対勢力が控えている。そんな中、3年に編入してきたのが、鈴蘭制覇を狙う男・滝谷源治(小栗旬)。人付き合いが苦手で単独行動をとっていた源治は、ふとしたことから鈴蘭OBのチンピラ・片桐拳(やべきょうすけ)と知り合い、友情を深めていく。拳にアドバイスをもらいながら、源治は着々と仲間を集め、勢力を拡大していくのだが…。

脚本は『テルマエ・ロマエ』(2012年)の武藤将吾。源治をはじめとするメインキャラクターもストーリーもオリジナルでありながら、「クローズ」の映画としての違和感はまったくなし。各キャラクターの造形、行動原理、ストーリーの展開に至るまで、これぞ「クローズ」!と言いたくなる大事な要素が全編にちりばめられている。

鈴蘭の最大勢力「芹沢軍団」を率いる芹沢多摩雄(『クローズZERO II』)

坊屋は出ないけれど、原作ではメインキャラクターとなる海老塚三人衆・桐島ヒロミ(大東俊介)、本城俊明(橋爪遼)、杉原誠(小柳友)や、鈴蘭史上最強の男・リンダマンこと林田恵(深水元基)らが登場し、1学年若い姿を見せてくれるのもうれしいポイント。また、激しい雨が降りしきる中、ずぶ濡れになりながらの大乱闘シーンや、学校の放送室を使って全校生徒にメッセージを伝えるシーンなど、原作で印象的だった場面が形を変えて再現される様子にも原作へのオマージュが感じられ、ファンをニヤリとさせてくれる。

映画化にあたっての変更点といえば、基本的に女性キャラクターが出てこない原作に対し、ヒロインとして逢沢ルカ(黒木メイサ)が登場することだろう。といっても、源治との甘い恋が描かれるわけではない。ルカは女子高生だが、いわゆるかわいいだけの女の子とは違い、地元のライブハウスでヴォーカリストとしてステージに立っているクールビューティーという役どころ。あくまでも、原作の硬派な世界観を崩さないことに徹しているのがさすがだ。

ライブハウスでの演奏シーンでは、髙橋が原作「クローズ」を描き始めた頃からのファンであり、原作にも登場するTHE STREET BEATSをはじめ、横道坊主、浅井健一など、様々なアーティストたちが劇中歌を披露。キャラクターたちの心情とリンクする熱い歌詞、すさまじい盛り上がりを見せるライブシーンも映画版の大きな見どころである。

第2作『クローズZERO II』では原作でもおなじみ、鈴蘭と因縁の深い不良高校・鳳仙学園と対決する

力だけでは人を束ねられないこと、一緒に血を流してくれる仲間の大切さ

2作共に監督を務めたのは、髙橋が「この監督に撮ってもらいたい」と思っていた三池崇史。脚本を現場でどんどん変えていくスタイルの三池が、敵役も含め、一見怖そうな各キャラクターたちにユーモラスな面をプラスし、より愛すべき人物に仕上げている。

そもそも「クローズ」シリーズは、コミックでも様々なキャラを主役に据えたスピンオフ作品が展開されているように、登場人物全員がそれぞれの物語の主人公になれるだけの魅力を持つ。映画版では、小栗旬、山田孝之、やべきょうすけをはじめ、高岡蒼甫、桐谷健太、上地雄輔、渡辺大、金子ノブアキ、三浦春馬、綾野剛、岸谷五朗、遠藤憲一、松重豊といった個性豊かなキャスト陣が集結。『クローズZERO』では第17回日本映画批評家大賞で小栗旬が主演男優賞、やべきょうすけが助演男優賞を受賞した。(ちなみに1作目のダーツバーのシーンでは、戦いに繰り出す源治たちを温かく見送る客役で、髙橋本人もカメオ出演している)

鈴蘭制覇や鳳仙学園との抗争に挑むうちに、源治は力以外の大切なことを学んでいく(『クローズZERO II』)

1作目、高3の春に鈴蘭へ編入した時から始まった滝谷源治の物語は、数えきれないほどのケンカを経て、2作目ラストの卒業をもって終わる。どんなに強い不良だって、いつか必ず学校を卒業し、社会人になる日が来る─という現実をしっかり描くのが髙橋ヒロシ作品だ。だからこそ、彼らの先輩にあたる大人たちもよく登場する。

鈴蘭の頂点を目指すことなんか、これっぽっちも興味がなかった原作の主人公・坊屋春道とは対照的に、映画の滝谷源治は最初から制覇することを目的に鈴蘭高校にやって来る。これはヤクザの組長である父親から「鈴蘭を制覇したら、組の跡目を継いでいい」という条件を出されたからだ。だが、自分のことしか考えていない孤高の男だった源治は、力だけでは人を束ねられないこと、一緒に血を流してくれる仲間の大切さを知っていく。

様々な人との交流や闘いを経て、源治や多摩雄らが成長していくさまも見どころ(『クローズZERO II』)

やべきょうすけ演じる鈴蘭OB・片桐拳が、岸谷五朗演じる同じく鈴蘭OBの源治の父親・滝谷英雄に「あいつがてっぺん取ったら、どうするんですか?組を継がせるんですか?」と真意を尋ねるシーンがある。その問いかけに「鈴蘭を制覇できるような人間だったら、きっとあいつは自分から跡目を降りる」と答える英雄のセリフのかっこよさ。男を鍛え、男を磨く神聖な場所・鈴蘭高校の物語には、時代を超えた男の美学が詰まっている。

文=石塚圭子

石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、様々な世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。

<放送情報>
クローズZERO
放送日時:2024年5月10日(金)8:15~、23日(木)18:45~

クローズZERO II
放送日時:2024年5月10日(金)10:45~、23日(木)21:00~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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(C)2007 髙橋ヒロシ/「クローズ ZERO」製作委員会 / (C)2009 髙橋ヒロシ/「クローズZEROⅡ」製作委員会 /

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