映画に朝ドラ、大河ドラマでの活躍も光る有村架純のこれまでを振り返る(『コーヒーが冷めないうちに』)

人気と実力を兼ね備えた国民的俳優
進化し続ける有村架純の歩みを振り返る

2023/09/25 公開

2017年のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」や2019年の「そして、生きる」、2021年公開の映画『花束みたいな恋をした』などの作品で、かわいらしさに裏打ちされた独自の魅力と存在感を示し、人気と実力を兼ね備える国民的俳優になった有村架純。憧れていた行定勲監督の『ナラタージュ』(2017年)への出演も果たし、「コントが始まる」などでのコミカルな芝居や、『前科者』(2022年)などのシリアスな芝居にも果敢にチャレンジ!『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』(2021年)では悲劇のヒロインを体現し、愚直なまでに慎重に、自分のペースでゆっくりだが、着実に芝居のバリエーションを増やし続けてきた彼女が、今年の「どうする家康」でNHKの大河初出演を飾ったのも記憶に新しい。

自身とかけ離れたギャル役を誰もが共感できるキャラクターとして体現した『映画 ビリギャル』

そんな有村の芝居の幅広さと異なる魅力を実感したいなら、『映画 ビリギャル』(2015年)と『コーヒーが冷めないうちに』(2018年)、『月の満ち欠け』(2022年)の3作品を観るといいだろう。

『映画 ビリギャル』は名古屋の女子高生の実話を書籍化し、ベストセラーになった「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」の映画化(監督は『花束みたいな恋をした』の土井裕泰)。有村が金髪パーマで耳にピアスをしたギャルのさやかを演じて話題を集めた。クランクイン当日の自宅を出る直前まで、自分とかけ離れたギャル役をつかめなくて苦しんだそうだが、劇中では役をつかみ取ったことがわかる確かな表情や芝居を目の当たりにすることができる。

有村が金髪にピアスをつけた派手目なギャル役に挑んだ『映画 ビリギャル』

有村はヒロインのさやかを、おバカだけどかわいくて、何事にも全力で楽しそうに臨む魅力的な女の子として着地させたのだ。とはいえ、ギャル語をタメ口で話し、クラブで踊り狂ったり、友だちとスーパー銭湯で談笑したり、名古屋の繁華街を自転車で駆け抜ける姿は新鮮!しかも、タイトなスケジュールだったため、都内のカラオケ店でのロケでは一日でブロンドから茶髪、黒髪へと変化するさやかのシーンを一気に撮影していたのだが、有村はそこでも彼女の成長と変化を繊細に表現している。偏差値を40上げるさやかに説得力をもたらし、観た人にもやる気を起こさせる力強いヒロインを作り上げていた。

小学生4年生程度の学力しかなかったさやかだが、塾講師の坪田と出会ったことで、受験勉強にのめり込んでいく(『映画 ビリギャル』)

抑えた演技で作品の本質を的確に表現した『コーヒーが冷めないうちに』と大人びた憂いを見せる『月の満ち欠け』

『映画 ビリギャル』は有村の能動的なアプローチが際立った映画だったのに対し、「4度泣けます」というキャッチコピーも話題になった、川口俊和の同名ベストセラー小説を映画化した『コーヒーが冷めないうちに』では彼女の受身の芝居に目をみはる。

有村が本作で演じた主人公の時田数は、過去に戻れる不思議な席がある喫茶店「フニクリフリクラ」で働いている。その噂の席に座るのは、言いたいことを言えないまま恋人(林遣都)にニューヨークに旅立たれてしまったキャリアウーマン(波瑠)、田舎から訪ねてきた妹を事故で失い、彼女の話に耳を傾けなかったことを後悔しているスナック経営の女性(吉田羊)、若年性アルツハイマーを患う妻(薬師丸ひろ子)に寄り添う男性(松重豊)など、それぞれに事情を抱える人たち。数は彼女たちの悩みを聞きながらタイムスリップの引き金となるコーヒーを淹れるのだが、彼女自身は多くを語らない。過去と向き合う人たちを見つめながら、微笑みや涙で揺れ動く内なる感情をほんの少しだけ露わにするのだ。

それゆえに、近所の美大生(伊藤健太郎)と恋に落ち、子どもを授かった数が封印していた悲しい過去と向き合い、抑えていた感情を爆発させるクライマックスに目が釘づけになる。「ある人」の真意を知り、前を向くことができるようになる数としてそこに存在する有村。「コーヒー一杯の時間でも心は変わる」という本作のテーマをしっかり代弁していたのが印象的だった。

タイムトラベルできる席がある不思議な喫茶店が舞台の『コーヒーが冷めないうちに』

そして、憂いを帯びた少し大人っぽい有村を見ることができるのが、2017年の第157回直木賞に輝く佐藤正午の同名ベストセラー小説を映画化した『月の満ち欠け』だ。

愛する妻の梢と娘の瑠璃を事故で同時に失い、悲しみに暮れるビジネスマン・小山内(大泉洋)のもとに見知らぬ男・三角(目黒蓮)が訪ねてくる。彼は事故の当日、瑠璃が面識のないはずの自分を訪ねようとしていたこと、自分が小山内の娘と同じ「瑠璃」という名前を持つ女性と許されざる恋をしていたことを話し出すのだが…。

許されざる恋に苦悩する瑠璃を演じた(『月の満ち欠け』)

有村は三角が恋に落ちるそんな瑠璃を、『ストロボ・エッジ』(2015年)、『夏美のホタル』(2016年)で演技の基礎を叩き込まれ、絶大な信頼を寄せる廣木隆一監督のもとで体現。大人の色香を漂わせている。なかでも三角の部屋でくつろぐ瑠璃が、オノ・ヨーコとジョン・レノンの楽曲「Remember Love」を口ずさみ、三角がその姿を愛おしそうに8mmフィルムカメラに収める美しさと儚さが同居したシーンにはグッと引き込まれる。8mmの粗い映像に浮かび上がる有村の表情とややかすれた声が、瑠璃の狂おしい心情を伝えていて、胸をかき乱されるのだ。

さらに、本作をこれから観る人のために詳しくは書かないが、終盤で見せる有村の苦悩に歪んだ表情や恐怖に脅えた顔にも息をのむことになる。瑠璃はなぜここまで追い詰められなければならなかったのか?そんな想いとともに、ラストの美しい笑顔がいつまでも脳裏に焼きついて離れなくなるに違いない。

だが、今はまだ彼女の通過点に過ぎないし、私たちにはこれからさらに進化し続ける稀有な俳優の歩みを見守ることができる幸せが約束されている。有村架純は、次はどんな高みを目指すのか?どんな表情や芝居で驚かせてくれるのか?楽しみでならない。

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>
映画 ビリギャル
放送日時:2023年10月5日(木)19:00~

コーヒーが冷めないうちに
放送日時:2023年10月6日(金)19:00~

月の満ち欠け
放送日時:2023年10月7日(土)20:00~、15日(日)10:15~
チャンネル:WOWOWシネマ

月の満ち欠け
放送日時:2023年10月8日(日)23:00~、13日(金)16:45~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

▼同じカテゴリのコラムをもっと読む

人気と実力を兼ね備えた国民的俳優 進化し続ける有村架純の歩みを振り返る

人気と実力を兼ね備えた国民的俳優 進化し続ける有村架純の歩みを振り返る

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

マイリストから削除してもよいですか?

ログインをしてお気に入り番組を登録しよう!
Myスカパー!にログインをすると、マイリストにお気に入り番組リストを作成することができます!
新規会員登録
マイリストに番組を登録できません
##ERROR_MSG##

現在マイリストに登録中です。

現在マイリストから削除中です。