国内外で絶賛され、ハリウッドリメイクも決まっている『新しき世界』

極限の男たちがたどり着く権力争いの果てとは…
演技派スターが激突する韓国ノワールの進化系『新しき世界』

2023/08/28 公開

犯罪組織の後継者争いに巻き込まれる潜入警官の苦悩

韓国のバラエティ番組やトーク番組を見ていると、映画の名台詞が登場することが多い。それだけ映画が多くの人に愛されてきた証拠だろう。巨大暴力組織の跡目争いと、そのなかで絶体絶命の危機に陥る潜入警官の苦悩を見つめる『新しき世界』(2013年)も、そんな名台詞で知られる1本だ。

8年前、ソウル地方警察庁捜査企画課のカン・ヒョンチョル課長(チェ・ミンシク)にスカウトされ、韓国最大の暴力組織ゴールド・ムーンに潜入した警察官イ・ジャソン(イ・ジョンジェ)。幹部チョン・チョン(ファン・ジョンミン)の片腕として頭角を現し、組織の中でも一目置かれる存在となっていた。そんなある日、会長が交通事故で急死。後継の座をめぐってチョン・チョンと亡き会長の右腕イ・ジュング(パク・ソンウン)との間で駆け引きが始まる。その機に乗じて後継者争いへの介入を画策したヒョンチョルは「新世界プロジェクト」と名付けた作戦を実行するためジャソンに新たな指令を出す。組織から抜ける日が遠のいたことに落胆しつつもチョン・チョンに関する情報をヒョンチョルに伝えるジャソン。やがて、チョン・チョンも異変を察知し……。

韓国でも数多く作られてきた「やくざもの」の1本だが、大企業化し、互いを「理事」と呼び合うような組織の中で血みどろの抗争が起きるというギャップが新鮮だ。監督はキム・ジウン監督の『悪魔を見た』(2010年)、リュ・スンワン監督の『生き残るための3つの取引』(2010年)といった作品で「抜き差しならない男たちの関係が書ける」脚本家として知られるようになったパク・フンジョン。2本目の監督作となった『新しき世界』では、自身が抱いてきたギャング映画に対する憧れを具体化したという。暴力組織に潜入した警察官の葛藤という点では、香港映画『インファナル・アフェア』(2002年)を思い出す人も多いだろう。

組織のナンバー2であるチョン・チョンの行動が、ジャソンを翻弄し続ける

そんななかで異彩を放つのは、華僑という背景を持ち、中国語を交えて話す、チョン・チョンというキャラクター。裸足にスリッパ履きという姿で登場するなど、ユーモラスな言動の奥に残忍な顔を隠しているという人物像が強烈なインパクトを与えた。彼が「ブラザー!」と呼んで可愛がる弟分ジャソンをどこまで信頼しているのかがなかなかわからないところも、従来の「潜入もの」とは違ったスリルを感じさせる。そして、この映画で最も有名になったのが、チョン・チョンと対立するイ・ジュングが口にする「死ぬのにはいい日だ」という台詞。哀愁を感じさせるメロディが印象的なテーマ曲と共に、多くのパロディを生み出している。

敵か味方かわからない極限の男たちを、3人の演技派が熱演!

潜入捜査に嫌気がさしていたジャソンを、激しい抗争に飲み込まれていく

パク・フンジョン監督はこの作品の後に手掛けた『The Witch/魔女』(2018年)で、それまでの韓国映画では見たことのない、冷徹でパワフルな女性キャラクターを誕生させ、シリーズ化。また、Netflixのオリジナル映画『楽園の夜』(2019年)でも、ほろ苦い人間模様を描き切った。今年は6月に韓国で公開された『貴公子』に続き、最新作『暴君』も封切り予定と、活躍が続いている。

組織の義兄弟に扮するイ・ジョンジェとファン・ジョンミンの競演もしびれる!

最後まで敵、味方がわからないスリリングな展開に加え、それまで一度も共演のなかった実力派3俳優の好演も話題を呼んだ今作。モデルから俳優へと転身し、90年代からトップ俳優として駆け抜けてきたものの、2000年代に入ってやや低迷していたように見えていたイ・ジョンジェは『ハウスメイド』(2010年)、『10人の泥棒たち』(2012年)に続く今作で完全復活。前半ではかなりナイーブに見えるジャソンが、後半へと進むにつれてすごみを増していくところに注目してほしい。一方、出演作ごとにまったく違う人物になりきるファン・ジョンミンは、独特の口調が印象的なチョン・チョンを生き生きと演じ、青龍賞で主演男優賞に輝いた。タバコに火をつけたり、酒を飲んだりといった細かい仕草のなかにチョン・チョンという複雑な人物を見事に浮かび上がらせている。おしゃべりなチョン・チョンと無口なジャソンの言葉を超えた信頼関係も胸に染みる。イ・ジョンジェとファン・ジョンミンはその後、『ただ悪より救いたまえ』(2020年)で再共演。こちらでは悪縁で結ばれた仇同士に扮し、息を飲むほどの死闘を繰り広げている。

捜査のためなら手段を選ばないヒョンチョル役を、チェ・ミンシクが圧倒的な存在感で演じている

潜入させた部下のジャソンを操ってゴールド・ムーン壊滅を狙うヒョンチョル役は『悪魔を見た』、『悪いやつら』(2011年)のチェ・ミンシク。腹の底の見えないしたたかさを、さすがの貫禄で見せている。ちょうど10年前の作品ではあるが、イ・ジョンジェが「イカゲーム」、ファン・ジョンミンが「ナルコの神」、チェ・ミンシクが「カジノ」と、それぞれが配信ドラマの話題作に出演しながら変わらず第一線にいることに改めて驚かされる。

さらに今作は、イ・ジュング役のパク・ソンウンを世に知らしめる作品にもなった。誰もが認める後継者候補だったジュングが、予想もつかない行動を見せるチョン・チョンと、着々と計画を進めるヒョンチョルに翻弄されていく姿を哀愁たっぷりに演じている。

発表当時、韓国ノワールの進化形と評された『新しき世界』。映画が進むにつれて、自分自身が何を望んでいるのかさえもわからなくなっていく男たちの権力争いの果てはどこなのか。見届けてほしい。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む」(青弓社)がある。

<放送情報>
新しき世界
放送日時:2023年9月2日(土)10:45~、11日(月)13:40~
チャンネル:スターチャンネル2

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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