アニバーサリーイヤーにジャッキー・チェンのキャリアを振り返る(『ポリス・ストーリー/香港国際警察』)

アジアの枠を超え、世界的な大スターに!
70歳、ジャッキー・チェンの波乱万丈な映画人生をたどる

2024/04/01 公開

1954年生まれのジャッキー・チェンは、2024年4月7日に70歳の誕生日を迎える。ちなみに、ジャッキー映画の日本初上陸作品『ドランクモンキー 酔拳』の日本公開は1979年で、こちらは今年が45周年にあたる。さらに、ジャッキーの初主演作『タイガー・プロジェクト~ドラゴンへの道 序章~』(1974年)からは50周年。2024年はまさに、ジャッキーにとってアニバーサリーイヤーなのだ。

ブルース・リーの後継者として香港にとどまらず、アジアを代表するアクションスターとなり、70歳を目前に迎えながらもまだまだアクション映画の撮影を続けているジャッキー・チェン。その波乱万丈な映画人生の中でも、とりわけ大きな転換点となったのは「ハリウッド進出」だ。最終的には成功し、現在はハリウッドスターの仲間入りをしたジャッキーだが、その道程は決して順風満帆ではなかった。ハリウッド進出は、ジャッキーの映画史にどのような影響を与えていったのか?アジアのアクションスターから世界のアクションスターへと変化していく流れを、その前後の作品と共に振り返っていこう。

最初のハリウッド進出で挫折するも、『プロジェクトA』、『ポリス・ストーリー』が大ヒット!

ジャッキー登場以前の香港におけるカンフーアクション映画は「武侠映画」とも呼ばれ、カンフーに覚えのある人物が、カンフーの使い手である悪人に親や師匠を殺され、修行を積み、最終的にその仇を取るというものがほとんど。1800年代の清朝時代などを舞台とした背景も含めて、時代劇にカテゴライズされる暗めの作品が多かった。

ジャッキー初期の代表作『ドランクモンキー 酔拳』をはじめ、『スネーキーモンキー 蛇拳』(1976年)、『カンニング・モンキー 天中拳』(1978年)などの作品も時代劇にカテゴライズされるが、ジャッキーはそうした過去のカンフー映画に、コメディ要素やユーモアを取り入れることで、香港の映画業界を大きく変化させたことは有名な話だ。

初期の中国武術をモチーフにした代表作のヒット後、ジャッキーは監督業に進出し、『ヤング・マスター 師弟出馬』(1980年)で、コメディ調の作風に加え、道具や建物など周囲の環境を利用した立体的なアクションを取り入れることで、新たなカンフー映画のスタイルを確立する。そんなタイミングでジャッキーに持ちかけられたのが、映画スターとして次の段階に進むステップとも言えるハリウッド進出だった。

その最初の作品となった『バトルクリーク・ブロー』(1980年)では、監督・脚本をブルース・リーの代表作『燃えよドラゴン』(1973年)を手掛けたロバート・クローズが担当する。監督の知名度も含めて躍進の第一歩になるかと思われたが、ジャッキーの目指す方向性と監督の方針が合わず、興行的にも大ヒットまではいかないなどジャッキーにとって納得のいく出来ではなかった。

続いて、ハリウッド進出第2作であり、ジャッキー初の本格現代劇ともなる『プロテクター』(1985年)の撮影に入るが、こちらも監督のジェームズ・グリッケンハウスとアクションや演出の方向性で意見が合わなかった。アジア圏では自身が修正したものを上映する許可を得て再撮影を行い、オリジナル版とジャッキー・チェン改訂版の2バージョンが存在する作品となった(『プロテクター』の撮影は1981年に行われたが、『プロジェクトA』の撮影に入ってしまったために一時撮影が中断。『プロジェクトA』完成後にキャストやスタッフが再び集められて追加撮影が行われたため、公開の順番は『プロジェクトA』が先になっている)。

ニューヨーク市警の刑事が、香港とニューヨークの麻薬ルートを壊滅させようと奔走する『プロテクター』

また、主演ではないが、アメリカと香港の合作映画となる『キャノンボール』(1981年)、『キャノンボール2』(1983年)にも出演し、ハリウッドスターとも共演するものの、大きな爪痕を残すまでに至らなかった。

一方で、アメリカでの撮影が思うようにいかないなか、香港では下積み時代からの仲間であるサモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウと手を組み、渾身の超大作アクション映画となる『プロジェクトA』(1983年)を手掛けることに。オープンセットやスタジオでの大型セットを使い、様々なシチュエーションでのバトルを提示する完成度は、カンフー映画を時代劇の枠から完全に脱却させ、新しい時代のアクション映画として、香港映画界にさらなる可能性を提示した。

続いて、本格的な現代劇アクションとしてスペイン・バルセロナを舞台に、再びハン、ピョウと手を組んだ『スパルタンX』(1984年)を成功させ、新時代のアクション映画としてしっかりと定着させるに至った。

そして、ここからジャッキーの新たなアクション映画時代が本格的に始動する。1985年には、ハン、ピョウの力を借りず、監督・脚本・主演・武術指導をジャッキー自身が務めた『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年)を製作。ジャッキー主演の刑事映画としては、すでに『プロテクター』が撮影されていたが、ジャッキー本人にとっては不本意な出来映えだったため、そのリベンジ的な思いを抱いて挑んだ作品でもあった。

斜面に立つバラックを使用した大規模なカーチェイス、疾走する2階建てバスを使った市街地アクション、そしてクライマックスでのショッピングセンター全体を使った肉体を限界まで酷使する格闘シークエンスまで一気に駆け抜けるドライブ感は、当時のジャッキー映画の集大成ともいえる仕上がりになっている。そのため、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』は、『プロジェクトA』と並んでジャッキー映画の最高傑作として推すファンも多い。

ジャッキーが監督・脚本・主演・武術指導を務めた代表作『ポリス・ストーリー/香港国際警察』

こうして、主戦場を再び香港に戻して活動したジャッキーは、『サンダーアーム/龍兄虎弟』(1986年)、『プロジェクトA2 史上最大の標的』(1987年)を続々と発表。その後、ハン、ピョウとのタッグが復活した『サイクロンZ』が1988年に公開される。本作は、『プロジェクトA』、『スパルタンX』に加え、『五福星』(1984年)、『七福星』(1985年)で共演してきた、当時の香港映画を支える盟友3人による最後の揃い踏みとなった作品。アクション描写に加えて、恋愛劇や法廷劇が加えられるなど、シナリオ面でも力が入った1本となっている。

ジャッキーがサモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウと共演した最後の作品『サイクロンZ』

集大成的作品『酔拳2』を経て、『レッド・ブロンクス』、『ラッシュアワー』でハリウッドの顔に

『プロジェクトA』の続編『プロジェクトA2 史上最大の標的』を経て、ジャッキーは自身の出演作のシリーズ化に力を入れるようになる。そして、大ヒットを記録した『ポリス・ストーリー/香港国際警察』の続編『ポリス・ストーリー2 九龍の眼』(1988年)、『サンダーアーム/龍兄虎弟』の続編の『プロジェクト・イーグル』(1991年)が公開され、その間に挟まれる形で名作香港映画を数多く送り出してきた映画制作会社ゴールデン・ハーベストの20周年記念作となる『奇蹟 ミラクル』(1989年)が発表されている。

周囲の道具や設備を利用したジャッキーらしいアクション(『ポリス・ストーリー2 九龍の眼』)

この作品は、フランク・キャプラ監督の名作として知られる『一日だけの淑女』(1933年)を、キャプラ自身が1961年にセルフリメイクした『ポケット一杯の幸福』を原作に、舞台を20世紀初頭の香港に変えて描いた作品。一部では有名な話だが、ある時期までの香港映画には台本が存在せず、撮影当日に監督による演出で内容が伝えられ、それに合わせて役者は演技をしていた。その理由は、台本があるとそれが盗まれて、オリジナルよりも先に盗作が撮影されてしまうからだという。

そうした背景があったからか、香港映画には単純な物語が多く、ストーリー性よりもアクションが重視される傾向が強かった。しかし、ジャッキーは脚本軽視の状況を変えるべく、自身がメガホンをとるようになってからは、アクション映画でもストーリー性があるものを作ってきた。その流れの大きな成果ともいえるのが『奇蹟 ミラクル』だった。

田舎から職探しに来ていた青年が、詐欺に遭って全財産を失い、失意の中で老婆から一輪の花を買ったところ不思議な幸運に恵まれていき、ギャングのボスの後継者となっていく、とある「奇蹟」の物語。見せ場としてジャッキー映画らしいアクションシーンも多数用意されているが、原作を大切にしたストーリー重視の展開や凝ったカメラワークを取り入れるなど、記念作品らしく力が入っており、ジャッキー映画にとっても一つのターニングポイントとなったと言えるだろう。

1930年代の香港を舞台に、ひょんなことから暗黒街の顔役になってしまった男のドラマが展開される『奇蹟 ミラクル』

その後、性格がまったく異なる双子役を一人二役で演じた『ツインドラゴン』(1992年)に続き、シリーズ3作目となる『ポリス・ストーリー3』(1992年)を製作。この作品では、ジャッキーと並んでハリウッドで認められ、アジアを代表する女優となったミシェル・ヨーが相棒役として出演。彼女もジャッキーに引けを取らない危険なアクションを披露している。また劇中では、疾走する列車とバイクを絡めたシーンや、命綱なしで撮影されたヘリコプターからぶら下がるアクションなど過激なスタントシーンが多数盛り込まれており、円熟期に入ったジャッキーのアクションはさらに研ぎ澄まされていくことになる。

そして、1994年には、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』以降の10年間のジャッキー映画の集大成とも言える『酔拳2』(1992年)が公開される。タイトルこそ『酔拳2』となっているが、主人公が酔えば酔うほど強くなる酔八拳を使うという程度で、まったく独立した作品となっている。

酔えば酔うほど強くなる酔拳の使い手の活躍を描く『酔拳2』

『酔拳2』では、中国に実在し、ジェット・リー主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』(1991年)など多くの香港映画で題材とされている中国武術の大家ウォン・フェイフォンを主人公に据え、イギリスをはじめとした西欧列強の進出が激しくなってきた清朝末期を舞台に、中国の若者によるレジスタンス運動を描いており、物語性が強い作品となった。現代を舞台にしたスタントから一転し、原点回帰とも言えるジャッキーの身体性を活かした少数対多数の戦いや、クライマックスでの足技使いとの激しいバトルなど、フィジカル面でのアクション描写では、円熟味を増した演出や撮影と相まってジャッキー映画史上屈指の仕上がりと言える。

実在した香港の国民的ヒーロー、ウォン・フェイフォンが主人公(『酔拳2』)

こうして、90年代を香港映画とカンフー映画の発展に尽力してきたジャッキーは、約10年の時を経て、満を持して再びハリウッドへと進出する。それが1995年公開の『レッド・ブロンクス』だ。ニューヨークのブロンクスを舞台に、伯父の結婚式に出席するためにアメリカを訪れた香港の刑事が、ダイヤ密売シンジケートの戦いに巻き込まれる物語は、銃撃戦やカーチェイスに頼らない、ジャッキーのフィジカルに特化したアクションの見せ方をハリウッドに知らしめた。

結果、『レッド・ブロンクス』は大ヒットを記録。ジャッキーが見せた、周囲の環境も利用して戦う生身の格闘アクションは、ハリウッドのスタントマンたちに多大な影響を与え、現在のハリウッドのアクション映画の基礎を変えることになる。トム・クルーズのアクションやアメコミ映画の格闘シーンも、源流を辿るとジャッキーのスタントへとつながっているのだ。

この時期からジャッキーは、香港とハリウッドの2か所を拠点として活躍するようになっていく。1997年には、盟友のハンが監督を務めることで再びタッグを組んだ『ナイスガイ』が公開。香港製作の作品だが、ジャッキーの世界的な知名度のアップに伴いアメリカでも公開され、ハンのアメリカ進出のきっかけにもなった。

オーストラリアを舞台に、腕利きの料理人がマフィアと戦うサモ・ハン・キンポー監督作『ナイスガイ』

そして、ハリウッドでの確かな成功をつかんだのち、マシンガントークの黒人刑事がハマるクリス・タッカーと共演した『ラッシュアワー』が1998年に公開される。真面目で武術の達人でもある香港警察の警部と、ジョークと強引な捜査で事件を解決しようとする問題刑事による人種も経験も異なるコンビの活躍は、『レッド・ブロンクス』を超えるヒットを記録。香港を舞台にした『ラッシュアワー2』(2001年)、ジャッキー演じるリー警部と同じ孤児院で育ち、宿敵となるケンジ役で真田広之が出演する『ラッシュアワー3』(2007年)まで、シリーズ3作が作られることになった。

クリス・タッカーとの凸凹コンビが大活躍する大ヒットシリーズの第1作『ラッシュアワー』

その後もジャッキーは『シャンハイ・ヌーン』(2000年)、『シャンハイ・ナイト』(2003年)や『80デイズ』(2004年)、『ベスト・キッド』(2010年)などのハリウッド映画に出演しつつ、香港・中国映画にも出演。近年ではアクション映画以外の作品への出演も増え、オリジナル版『ベスト・キッド』(1984年)で主演を務めたラルフ・マッチオと共演を果たすシリーズの新作も準備中。5月31日には主演50周年記念作『ライド・オン』の日本公開も決定している。

そして、そんなジャッキーの活躍の裏側を描くドキュメンタリー映画を最後に紹介しておこう。『カンフースタントマン 龍虎武師』(2021年)はブルース・リーの時代から始まり、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェンらアクションスターたちの陰で活躍したスタントマンたちにスポットを当てたこの作品は、香港アクション映画における撮影の過酷さ、そして香港が中国に返還されてから四半世紀が経った現在、香港映画界がどのような状況に置かれているのか?爽快でド派手な作品の裏側と合わせて知ることで、ジャッキーの歩んだ足跡がさらに深く理解できることは間違いない。

文=石井誠

石井誠●1971年生まれ。アニメ、アメコミ、アクション、ミリタリーなどのジャンル系映画を好むホビー系映画ライター。「シネコンウォーカー」、「MOVIE WALKER PRESS」、「映画秘宝」、「月刊ニュータイプ」、「アニメージュプラス」などで執筆。著書に「安彦良和 マイ・バック・ページズ」(太田出版)などがある。

<放送情報>
ラッシュアワー【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月7日(日)15:30~、15日(月)9:45~

ラッシュアワー2【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月7日(日)17:30~、15日(月)11:45~

ラッシュアワー3【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月7日(日)19:15~、15日(月)13:30~

酔拳2【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月7日(日)21:00~、16日(火)13:30~

奇蹟 ミラクル[4Kリマスター版]【日本語吹替補完版】
放送日時:2024年4月7日(日)23:00~、17日(水)13:30~

ナイスガイ【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月8日(月)3:00~、19日(金)9:30~

プロテクター【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月8日(月)5:00~、16日(火)11:15~

サイクロンZ[4Kリマスター版]【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月8日(月)6:45~、18日(木)13:30~

ポリス・ストーリー/香港国際警察 [4Kリマスター版]【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月8日(月)8:45~、17日(水)11:30~

ポリス・ストーリー2 九龍の眼[4Kリマスター版]【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月8日(月)11:15~、18日(木)11:15~

ポリス・ストーリー3[4Kリマスター版]【日本語吹替版】
放送日時:2024年4月8日(月)13:30~、19日(金)11:30~

ポリス・ストーリー/香港国際警察[4Kリマスター版]
放送日時:2024年4月15日(月)21:00~、28日(日)9:00~

ポリス・ストーリー2 九龍の眼[4Kリマスター版]
放送日時:2024年4月28日(日)11:00~

ポリス・ストーリー3[4Kリマスター版]
放送日時:2024年4月28日(日)13:15~

チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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