1930年代のロサンゼルスを舞台に、ジャック・ニコルソン演じる私立探偵が政治的陰謀に巻き込まれていく『チャイナタウン』

殺人事件に巻き込まれた私立探偵の運命は…?
実際の水利権を題材にしたネオノワールな探偵映画『チャイナタウン』

2024/03/25 公開

私立探偵ジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)のもとに舞い込んだ、ミセス・モウレーを名乗る女性からの依頼。それは夫である水源電力局の施設部長、ホリス・モウレー(ダレル・ツワリング)の浮気を疑うものだった。そこで調査を始めたギテスは、ホリスが若い女性と逢っている現場をカメラに収める。ところがその写真が自分の知らないところでロサンゼルスタイムズの一面に載り、名誉毀損で訴えるとイヴリン・モウレー(フェイ・ダナウェイ)が乗り込んできたのだ。驚くギテス、それもそのはず、彼女は依頼を持ち込んできたイヴリンとは、まったく違う女性だったのだ。しかもその翌日、貯水池でホリスの溺死体が発見される…。

ある女性から夫の浮気調査を依頼された私立探偵のギテスだったが…

水利権をめぐる政治的な陰謀にジャック・ニコルソン演じる私立探偵が立ち向かう

1974年に公開された『チャイナタウン』は、1930年代のロサンゼルスを舞台にしたネオノワールな探偵映画だ。物語は先の得体の知れぬ依頼に端を発する水源電力局員の殺人事件を、素行調査を専門にしていた地元の私立探偵が追い、そこに強者が弱者を搾取する政治的な陰謀と、欺瞞に満ちた人間関係があることを明らかにしていく。

当時を徹底的に再現したプロダクションデザインや、レトロな色調を醸し出すライティング。それらを余すところなく捉えたジョン・アロンゾの撮影に、ジェリー・ゴールドスミスによる哀愁を帯びた音楽など、それらは完成した瞬間からクラシックの要素を満たし、観る者を惹きつけていく。ジャック・ニコルソンやフェイ・ダナウェイ、そしてジョン・ヒューストンといった名優や異色のキャストも、本作の完成度をひときわ高めるのに大きく貢献している。

この作品で設定されている犯罪は、映画ではあまり言及されることのない「水利権」を取り上げている。基となったのは、かつて河川の流水を占用する権利をめぐり、ロサンゼルス市と東カリフォルニア州オーエンズバレーの農業者が対立した騒動だ。1913年、シエラネバダ山脈東部のオーエンズ川からカリフォルニア州ロサンゼルスまでを導水する「オーエンズバレー水道橋」の建設によって、地元の農村地域が大きな損害を被ったのである。

このオーエンズバレー水道橋は、当時のロサンゼルス水道局のチーフエンジニアであるウィリアム・マルホランドが監督のもとに設計および建設し、後年、彼はその業績にちなみ、丘陵の通りに名を冠することとなった。それは「マルホランド・ドライブ」と呼称され、デヴィッド・リンチ監督の同名タイトルの映画(2001年)によって存在を知る人も多いだろう。しかしマルホランドはグレーゾーンに足場を置いて水利権と建設に立ち回ったとも言われており、偉人として評価の分かれるところだ。

実際に起きた水利権をめぐる対立を物語に組み込んだ

環境保護に対する問題も絡んだ物語をロマン・ポランスキーが映像化

本作の脚本を手掛けたロバート・タウンは、このマルホランドをキャラクター造形に活かし、ノア・クロスという胸の悪くなるようなドラマの黒幕を生み出している。こうしたアプローチが、ノスタルジックを基調とする探偵映画のジャンルに硬質なリアリティをもたらしたのだ。もとよりタウンは環境保護に対する関心が深く、同騒動をヒントとして作品を導き出そうとした。そしてこのアイデアを作家レイモンド・チャンドラーが描くハードボイルドな探偵創作の要素とマッチングさせ、『チャイナタウン』へと昇華させたのである。

加えてこの映画にとって幸運だったのは、監督にポーランドの俊英ロマン・ポランスキーを起用したことにある。当時彼は『水の中のナイフ』(1962年)、『反撥』(1965年)そして『袋小路』(1966年)といった偏執的なサスペンスで頭角を現し、悪魔崇拝のカルトによる女性の受難を描いた『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)でハリウッドでの名声を確かなものにしていた。そんな同作の後援者だったプロデューサーのロバート・エヴァンスが、ポランスキーの起用に采配を振るったのだ。

またポランスキーは演出のみならず、あらゆる要素を詰め込みすぎて複雑になっていたタウンの脚本を徹底的に整理。終末的なクライマックスはタウンのプランとは異なるものだったが、そのインパクトこそが作品を忘れ難いものにしている。ちなみにタイトルの『チャイナタウン』とは、劇中に中国的な様式が登場するわけではなく、このクライマックスの舞台となる場所であることと、探偵ギテスの前歴が同地区の警官だったことに由来する宿命的なものだ。

文=尾崎一男

尾崎一男●映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

<放送情報>
チャイナタウン
放送日時:2024年4月6日(土)4:30~、15日(月)7:00~
チャンネル:スターチャンネル2

※放送スケジュールは変更になる場合があります

▼同じカテゴリのコラムをもっと読む

殺人事件に巻き込まれた私立探偵の運命は…? 実際の水利権を題材にしたネオノワールな探偵映画『チャイナタウン』

殺人事件に巻き込まれた私立探偵の運命は…? 実際の水利権を題材にしたネオノワールな探偵映画『チャイナタウン』

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

マイリストから削除してもよいですか?

ログインをしてお気に入り番組を登録しよう!
Myスカパー!にログインをすると、マイリストにお気に入り番組リストを作成することができます!
新規会員登録
マイリストに番組を登録できません
##ERROR_MSG##

現在マイリストに登録中です。

現在マイリストから削除中です。