任侠集団で育った山口久美子が、教師として不良生徒たちと共に歩んでいく姿を描く『ごくせん THE MOVIE』

超人気ドラマの劇場版『ごくせん THE MOVIE』
失敗を認めチャンスをくれる主人公に背中を押される

2024/03/25 公開

生徒にまっすぐ向き合う昔気質なキャラクターで老若男女から人気を獲得

ヤンキー(不良)を題材にした学園もののコミック=少年マンガ。そんなイメージを覆したのが、森本梢子の大人気少女マンガ「ごくせん」である。主人公の「ヤンクミ」こと山口久美子は、泣く子も黙る任侠集団、大江戸一家の跡取りの「お嬢」として育った熱血教師。「ごくせん」とは、つまり「極道先生」という意味だ。自身はいたってマジメだが、極道に囲まれて生きてきたため、肝の据わったところがある彼女が、不良の巣窟のような赴任先の男子校で、正体を隠しながらも、大事な生徒たちを守るために奮闘する。

仲間由紀恵主演で実写化された2002年放送の第1シリーズを皮切りに、2003年の「ごくせんスペシャル『さよなら3年D組…ヤンクミ涙の卒業式』」、2005年の第2シリーズ、2008年の第3シリーズ、2009年3月の「ごくせん卒業スペシャル'09 ヤンクミ最後の卒業式!」と、シリーズ3作+単発2作のドラマはすべて高視聴率を記録。

2009年7月には、ついに7年間におよぶ伝説のテレビドラマシリーズの集大成として、全作品に携わってきた『カイジ』シリーズの佐藤東弥監督による初の映画版『ごくせん THE MOVIE』が公開。本作は佐藤監督にとっても初めての劇場公開作品であり、興行収入34億円を超える大ヒットで有終の美を飾った。

原作の同名コミックは、2000年から2007年まで「YOU」で連載され、単行本全15巻で完結している。ほのぼのとした細かいギャグが全編にちりばめられた独特の作風。ユニークな切り口の設定の中、少女マンガらしからぬ、ちょっと風変わりな主人公が活躍する森本梢子作品の持ち味を存分に発揮した本作は、連載終了後も「YOU」や「別冊YOU」に番外編が掲載されるなど、多くのファンを獲得。2004年にはアニメ化もされ、好評を博した。

普段は教師らしい丁寧な言葉遣いのヤンクミが、身内や生徒の前で熱くなると、べらんめえ口調に変貌するのが印象的

原作は、新人教師のヤンクミが白金学院高校2年4組の担任になり、そのままクラスが持ち上がった3年4組の生徒たちを送り出すまでの物語。ヤンクミの私生活である極道側の跡目問題や人間模様も描かれていた原作に対し、実写版における極道色は、あくまでも義理人情に厚いヤンクミのキャラクターを裏打ちするための香りづけ的なスタンス。彼女の仕事場である高校をメインの舞台にした「学園ドラマ」として成立させているのが特徴だ。

当然、ドラマの第1シリーズは原作の設定やキャラクターを踏襲しているのだが、ドラマ人気があまりに高く、続編を望む声が多かったため、ヤンクミが新しい高校に赴任するという形でのオリジナルストーリーで、第2・第3シリーズが制作されることになった。第2シリーズの赴任先は黒銀学院、第3シリーズは赤銅学院。ヤンクミが受け持つクラスは、どの学校でも3年D組というのがお約束。『ごくせん THE MOVIE』で描かれるストーリーは、赤銅学院を舞台にした第3シリーズ&「卒業スペシャル」の後日譚となる。

生徒の危機には必ず駆けつけるヤンクミ。危険を顧みない彼女の姿に3年D組の面々も変化していく

ヤンクミ(仲間由紀恵)が高校教師になって7年。1年前から赴任している赤銅学院高校では、春に緒方大和(髙木雄也)、風間廉(三浦春馬)、本城健吾(石黒英雄)、市村力哉(中間淳太)、倉木悟(桐山照史)、神谷俊輔(三浦翔平)らが無事卒業し、ヤンクミは新たな3年D組の担任になった。ある日、黒銀学院時代の教え子・小田切竜(亀梨和也)が、赤銅学院に教育実習生としてやってくる。ヤンクミが成長した教え子との再会に胸を躍らせるなか、3年D組の高杉怜太(玉森裕太)、望月純平(賀来賢人)、松下直也(入江甚儀)、五十嵐真(森崎ウィン)、武藤一輝(落合扶樹)らが、暴走族とトラブルを起こしてしまう。一方、春に卒業した風間が覚せい剤の取引に関わったという事件も発生。その裏には驚くべき黒幕の存在があった──。

「ごくせん」がこれほど多くのファンに支持された最大の理由は、やはり主人公・ヤンクミの異色かつチャーミングなキャラクター像にある。ジャージにメガネ、2つに結んだおさげ髪という、原作そのままの色気のないビジュアル。腕っぷしがめっぽう強く、教え子を守るためなら、自らの危険を顧みず、たった一人で敵地へ颯爽と乗り込んでいくカッコよさ。なかでも曲がったことが大嫌いな昔気質なヤンクミの生き方は、年長者からのウケも絶大で、老若男女・三世代が一緒に観られる作品といわれたのも納得の安心感を与えてくれた。

ヤンクミを「お嬢」と呼び慕う大江戸一家の舎弟の面々も愛すべきキャラクター

普遍的なテーマを、何度も何度も繰り返すブレのなさ

ヤンクミは、本作の実写化でプライムタイムの連ドラ初主演を果たした仲間由紀恵にとっても、最高の当たり役となった。ちなみに劇中では常にメガネ&おさげ髪のため、せっかくの彼女の美貌を生かす唯一の見せ場として(?)、実写版のヤンクミの戦闘シーンでは必ず、いつのまにかメガネと髪を結んだゴムが外されており、サラサラロングヘア姿で戦っている。結んだままの方が邪魔にならないはず!──というツッコミどころもご愛嬌である。

のちのイケメンブームの火付け役となった作品として、当時はまだ無名に近かった若手俳優が生徒役で多数出演していたのも「ごくせん」の魅力の一つ。映画版では、第2シリーズの黒銀学院の卒業生・小田切竜を演じた亀梨和也をはじめ、小田切の同級生役だった速水もこみち、小池徹平、小出恵介が出演するほか、第1シリーズの白金学院の卒業生として、小栗旬、石垣佑麿、成宮寛貴も登場するなど、伝説の卒業生たちが大集合!年齢を重ねた彼らそれぞれが自分の道を歩んでいる姿から、7年という時間の重みをしっかりと感じさせてくれる。第3シリーズの赤銅学院の卒業生で、映画版でも重要な役割を担う風間廉役、当時10代だった三浦春馬のフレッシュな存在感も印象的だ。

黒銀学院高校3年D組のトップだった問題児・小田切は、劇場版で教育実習生に!

「偉大なるマンネリズム」という言葉があるが、実写版「ごくせん」が目指したものが、まさにそれ。ヤンクミが荒れている私立の男子校に赴任し、不良の吹き溜まりとされるクラスの担任になり、生徒たちに起こる様々な事件を、筋を通して解決するというおなじみの展開。しかも、時代ごとの社会や教育の現場が抱える新しい問題を題材に取り入れるというよりは、仲間を作ること、家族と支え合うこと、夢を持つこと、ケンカと暴力の違い、お金を稼ぐ意味、本当の幸福……といった昔からの普遍的なテーマを、何度も何度も繰り返し、伝え続けることに徹したというブレのなさがすごい。

全シリーズ通して、「私の大事な教え子」が口癖だったヤンクミ。言葉にすると暑苦しいけれど、彼女の行動から、生徒たちはそれが真実であることをわかっている。「長い人生、笑えない時だってあるだろ。そんな時は、あきらめないで踏ん張ればいい。やっちまった失敗を本気で後悔して、イチからやり直す勇気さえあれば、人は幸せになれる」。セカンドチャンスを心から信じるヤンクミの言葉は、若者だけでなく、疲れた大人の心にも沁みる。

文=石塚圭子

石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、様々な世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。

<放送情報>
ごくせん THE MOVIE
放送日時:2024年4月2日(火)21:00~、14日(日)12:45~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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