日本が世界に誇る不世出の映画スター、松田優作(『俺達に墓はない』)

40歳の若さで逝った伝説…
映画スター、松田優作の俳優としての生き様

2024/03/25 公開

今年生誕75周年を迎える、日本が世界に誇る不世出の映画スター、松田優作。その人気は死後35年経った今も衰えるどころかさらなる輝きを放ち、世代や性別を越えて多くのファンを魅了し、後世の映画クリエイターたちに影響を与え続けている。人気ドラマ「太陽にほえろ」(1972~86年放送)の殉職シーンで脚光を浴び、その後、映画界へと歩を進めて主演を飾った松田には、その年代ごとに色合いの違う代表作があるのも特徴だ。

作家性の強い野心作に出演してきた性格俳優としての一面

70年代後半から80年代半ばにかけては角川映画の大作『人間の証明』(1977年/監督:佐藤純彌)や薬師丸ひろ子主演の『探偵物語』(1983年/監督:根岸吉太郎)などの話題作に出演する一方、監督の作家性や捻りが感じられる野心作に次々に出演。

薬師丸ひろ子演じる殺人事件に巻き込まれた女子大生に協力する私立探偵を演じた『探偵物語』

傍若無人なのにどこかコミカルな私立探偵を快演した『乱れからくり』(1979年/監督:児玉進)、ハードなアクションと共に松田の遊び心たっぷりのアドリブが炸裂する『俺達に墓はない』(1979年/監督:澤田幸弘)、自ら原案を手掛け、私立探偵の真似事をしている売れないロックシンガーになりきった『ヨコハマBJブルース』(1981年/監督:工藤栄一)などなど、どの作品も松田の魅力と持ち味を最大限に生かす仕上がりになっていた。

江戸時代から続く玩具メーカー一族内で起こった連続殺人に巻き込まれる探偵を演じた『乱れからくり』

なかでも、気鋭の森田芳光監督とタッグを組んだ『家族ゲーム』(1983年)、『それから』(1985年)の松田優作は鮮烈だ。

前者では薄笑いを浮かべながら、まともに挨拶もしない教え子・茂之(宮川一朗太)に目にも止まらぬ速さでビンタをくらわす、三流大学に7年も通っている庭教師・吉本を怪演。茂之の合格を祝うラストの横並びの食事シーンで、いきなりマヨネーズを撒き散らし、パイ投げを仕掛けてお互いに向き合わない茂之の家族をぶち壊す松田の姿は今もなお映画ファンの脳裏に焼きついている。

かと思えば、夏目漱石の名編を映画化した後者では、忠実に再現された明治末期の世界観の中で、生きるためだけに働くのは非人間とする「高等遊民」の主人公・代助を繊細な芝居で体現。最低限の表情の変化と佇まいに密会を重ねる三千代(藤谷美和子)への愛と戸惑いを漂わせ、鈴木清順監督が小説家、泉鏡花の世界観を独自の映像美で視覚化した『陽炎座』(1981年)の松田と共に、稀代の性格俳優の奥行きの深さを印象づけた。

これぞ松田優作の真骨頂!役作りに対するこだわりが凄まじいアクション映画たち

とはいえ、「松田優作」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、間違いなくアクション映画で躍動する彼の姿だ。それを決定づけたのは、この手のジャンル映画を得意とする村川透監督と3度タッグを組み(しかも、メインテーマの作曲は『犬神家の一族』や『ルパン三世 カリオストロの城』などの大野雄二!)、孤高の殺し屋・鳴海昌平を演じた「遊戯」シリーズなのは言うまでもない。

『最も危険な遊戯』(1978年)は、巨大企業の抗争に巻き込まれた鳴海がたった1人で戦いに挑んでいく姿を描いたそんな伝説のシリーズ第1作。だが、松田は本作で早くも、昼と夜の顔を使い分け、相棒のスミス&ウエッソンM29-マグナム44を片手に、ターゲットを確実に仕留める成功率100%の殺し屋を完全に自分のものにしている。

相棒のスミス&ウエッソンM29-マグナム44を構える姿が様になっている(『最も危険な遊戯』)

裸の上半身にホルスターを着けて射撃の練習をするシーンで『タクシードライバー』(1976年)のロバート・デ・ニーロを想起させる鍛え抜かれた肉体を見せつけ、情婦とのラブシーンではセクシャルな香りを漂わせてみせた。さらに、憎めないお茶目な一面を覗かせたかと思えば、「太陽にほえろ」で演じたジーパン刑事のように、犯人の車を延々走って追いかけるシーンまであるからファンはニンマリ。10人前後の誘拐犯たちをアッという間に撃ち殺す廃病院のシーンで、ハードでクールな松田の虜になった人も少なくないはずだ。

『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロのような射撃練習のシーン(『殺人遊戯』)

第2弾の『殺人遊戯』(1978年)ではそんな松田のアクションがさらにパワーアップ!5年ぶりに東京に戻ってきた鳴海のマグナムが再び火を噴き、長回しの撮影で捉えた彼と巨大組織との銃撃戦に息をのむが、本作では前作よりコミカルなシーンがふんだんに盛り込まれていて、アドリブもないまぜの松田のセリフに遊び心が感じられて楽しい。

『男はつらいよ』シリーズの源公役で知られる佐藤蛾次郎に足を踏まれて鳴海が痛がるシーンも笑っちゃうけれど、このくだりは松田ののちのヒット作でもあるドラマ「探偵物語」でも再現されているから、本人も気に入っていたに違いない。松田自身が歌う挿入歌「夏の流れ」もシブくて、ハードボイルドな映画のムードを高めていたものだ。

それに対して、第3弾の『処刑遊戯』(1979年)では「笑い」を一切封印。謎の組織に拉致され、拷問を受けた鳴海の反撃をシリアスなアクションで徹底して描いている。これは「今度は『サムライ』(アラン・ドロンが無口な殺し屋を演じた1967年のフランス映画)で行こう!」という松田のひと言で決まったとされるスタイルだが、洗練された迫力の銃撃シーンが連続し、「遊戯」シリーズの最後を締めくくるのに相応しい作品になっていた。

拷問を受けた孤高の殺し屋、鳴海昌平の復讐を徹底してシリアスに描いた『処刑遊戯』

どんな役にも全身全霊でなりきる。本物を演じる。とことんそこにこだわる松田優作の役者魂は、すでにこの頃から息づいていたのかもしれない。

「遊戯」シリーズに続いて、村川監督とタッグを組んだ角川映画『蘇える金狼』(1979年)では、原作者の大藪春彦が産み落とした会社の乗っ取りを謀るダークヒーロー、朝倉哲也に命を吹き込むために、松田はハワイで実弾による射撃訓練に臨んだ。

会社の乗っ取りを謀るダークヒーロー、朝倉哲也を完全に憑依させた『蘇える金狼』

さらに大藪のもう一つの名編を村川監督との5度目のタッグで映画化した『野獣死すべし』(1980年)では、犯罪に手を染める主人公・伊達邦彦の狂気を表現するために、松田は10kg以上減量し、頬がこけて見えるように上下4本の奥歯を抜き、山ごもりまでする徹底ぶりだったというから驚く。

役作りのため、10kg以上減量し、上下4本の奥歯を抜き、山ごもりまでした『野獣死すべし』

だが、松田にしてみれば、それが当たり前のやり方。そこまでやらなければ気が済まなかったに違いないし、そのこだわりの密度は作品を重ねるごとに、どんどん濃くなっていったことは想像に難くない。

結果、同名コミックを映画化したSFバイオレンス映画『ア・ホーマンス』(1986年)では作品の方向性を巡って衝突、降板した小池要之助監督に代わる形で監督デビュー。自身が考える世界観とタッチを凝縮させるなかで、新宿の二大組織の抗争に巻き込まれていく記憶喪失の謎の男、「風」の人物像を作り上げてみせた。

降板した小池要之助監督に代わってメガホンをとり、松田にとって最初で最後の監督作となった『ア・ホーマンス』

こうして、内なる役者の本領をどんどん覚醒させていった松田は、エミリー・ブロンテの名作を日本の鎌倉時代に舞台を移して映画化した吉田喜重監督の野心作『嵐が丘』(1988年)で、ついにある領域にまで到達したかのようだった。取り憑かれたように役と一体化したその姿は圧巻。一人の女性(田中裕子)を一途に愛する主人公・鬼丸の狂気を、能の立ち居振る舞いで体現した彼が放つ迫力と崇高な空気に魂が震えたものだ。

さらに『華の乱』(1988年)では、深作欣二監督の下、与謝野晶子(吉永小百合)と出会ったことで生と死の間を彷徨う作家、有島武郎の大らかに見えてガラスのように危うい「生」を、すでに病魔に侵された状態だった自らの肉体で体現。

そして、リドリー・スコットが監督した1989年の『ブラック・レイン』でついにハリウッド映画デビューを飾るわけだが、松田が命を削って挑んだ本作の凶悪犯・佐藤浩史の狂気、キレッキレの殺戮シーンが世界中の映画ファンを震撼させ、主演のマイケル・ダグラスや高倉健をも凌駕するインパクトを放っていたのは誰もが知るところだろう。

しかも、その圧倒的なオーラが色褪せてないのがスゴい。40歳の若さで、流星のように映画界を駆け抜けた松田優作。その衝撃は、これからもずっと後世の人たちの刺激と指標になるに違いない。

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>
俺達に墓はない
放送日時:2024年4月1日(月)23:00

探偵物語(1983)
放送日時:2024年4月2日(火)22:45~

CLUB DEJA-VU ONE NIGHT SHOW 松田優作・メモリアル・ライブ
放送日時:2024年4月3日(水)23:00~

SOUL RED 松田優作
放送日時:2024年4月4日(木)23:15~

優作について私が知っている二、三の事柄
放送日時:2024年4月5日(金)1:00~

最も危険な遊戯
放送日時:2024年4月5日(金)23:05~

殺人遊戯
放送日時:2024年4月6日(土)22:30~

処刑遊戯
放送日時:2024年4月7日(日)22:40~

乱れからくり
放送日時:2024年4月8日(月)23:15~

ヨコハマBJブルース
放送日時:2024年4月9日(火)23:15~

ア・ホーマンス
放送日時:2024年4月10日(水)23:15~

蘇える金狼(1979)
放送日時:2024年4月11日(木)22:45~

野獣死すべし(1980)
放送日時:2024年4月12日(金)23:30~、30日(火)4:15~
チャンネル:WOWOWシネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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