英国男優ブームの火点け役！
ヒーローから偉人まで演じるベネディクト・カンバーバッチの存在感に迫る

ハリウッドにおける英国男優たちの活躍ぶりが注目されて久しいが、近年その代表格と言われるのがベネディクト・カンバーバッチだ。特に、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の人気キャラクター、ドクター・ストレンジ役では今年公開のシリーズ第2作『ドクター・ストレンジ／マルチバース・オブ・マッドネス』が大ヒット。その一方で、主演映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021年)では2度目のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。名実ともに世界の映画ファンを虜にするカンバーバッチの足跡を振り返りながら、その魅力に注目してみたい。

「SHERLOCK／シャーロック」をきっかけに、ハリウッド大作にも出演

1976年、英国ロンドン生まれのカンバーバッチは、名門ロンドン音楽芸術学院を経て、舞台俳優としてキャリアをスタートした。数々の舞台を踏みながら、ドラマや映画に出演して活躍の場を広げていた彼を一躍スターダムにのし上げたのは、2010年から始まったBBCのTVシリーズ「SHERLOCK／シャーロック」だ。

現代のロンドンを舞台にアップデートされた名探偵シャーロック・ホームズを演じて大ブレイク。高い演技力に、183cmのスラッとした体躯からそこはかとなく漂う英国紳士の品の良さ、しかも一見クールだが、素顔はお茶目でチャーミングというギャップで特に女性ファンの心を掴んだ。ちなみに日本では、「SHEROLCK～」をきっかけに英国男優ブームに火が点いたと言っても過言ではないだろう。

そして、この「SHERLOCK～」でカンバーバッチ自身の快進撃が始まる。同作を視聴していた巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が、ハリウッドではまだ知名度の低かったカンバーバッチを『戦火の馬』(2011)に抜擢し、「彼はまるでフェラーリのようだ。演技力のある俳優は異なる物語、映画、撮影手法の要求に合わせられるんだ」と称賛。その言葉通り、高い演技力でその後も八面六臂の活躍を見せていく。

J・J・エイブラムス監督からオファーされた『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)で初のハリウッド大作に出演。肉体改造にも取り組んで挑んだ「世紀の悪役」が世界中で絶賛されて、一気にメジャーな存在になっていく。次いで「SHERLOCK～」での名コンビ、ワトソン役のマーティン・フリーマン主演のファンタジー「ホビット」三部作にも出演。カンバーバッチはピーター・ジャクソン監督に自ら邪竜スマウグ役を切望した。メイキング映像を見ると、CGで描かれるスマウグにリアリティを与えるため、パフォーマンスキャプチャー用の専用スーツを着た彼が腹ばいになったり、様々な表情作りも行い、低音で深みのある声で狡猾さを表現。第二部『ホビット　竜に奪われた王国』(2013年)でのフリーマン演じる主人公ビルボと対峙するシーンは、劇中で最大の見せ場になっている。

天才や変わり者などクセのあるキャラクターを巧みに演じ、脇役でも存在感を発揮！

カンバーバッチと言えば、「SHERLOCK～」をはじめ、それ以前にも若き日のホーキング博士をBBCのテレビ映画で演じているなど、天才や孤高のカリスマといった役どころが十八番。しかも、性格に問題ありの偏屈なキャラクターを実に見事に作り上げて、観る者を引き込む。初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『イミテーション・ゲーム／エニグマと天才数学者の秘密』(2014年)や「ドクター・ストレンジ」シリーズもそうだ。

そして、『エジソンズ・ゲーム』(2019年)では発明王エジソンを演じている。実業家ウェスティングハウスと競った電流戦争の実話の映画化。偉人伝でおなじみのエジソンとは違い、傲慢で功にこだわるなど人間臭さを表現し、新鮮なエジソン像を見せてくれる。ちなみに、エジソンを支える秘書役に扮するのは「スパイダーマン」シリーズのトム・ホランド。MCUでも共演しており、『スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)での2人の関係性を知っていると、なかなか興味深い。

唯一無二の存在感で主役を射止める一方で、脇役でもいい仕事をするカンバーバッチ。スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの原作を映画化した『裏切りのサーカス』(2011年)では、二重スパイを捜す若手スパイ役で登場。ゲイリー・オールドマン、コリン・ファースら英国を代表する実力派俳優が揃うなか、当時はまだ若手ながらも独特な存在感を放っていた。金髪というのもちょっとレアだ。

また、『8月の家族たち』(2013年)にも注目してほしい。ピューリッツァー賞とトニー賞をW受賞した傑作戯曲を映画化したヒューマンドラマで、父親の失踪をきっかけに久々に再会した母と三姉妹の悲喜こもごもの人生が描かれる。ジョージ・クルーニーが製作に参加し、メリル・ストリープとジュリア・ロバーツという二大ハリウッド女優が母娘役で初共演、脇もクリス・クーパー、ジュリエット・ルイスら豪華な顔ぶれだ。

カンバーバッチが演じるのは、気弱で本音をぶつけ合う女たちの前では頼りない男。だが、そんな彼がオルガンでラブソングを弾き語りする。ピリピリとした劇中のドラマにおいて、そのやさしい歌声と柔らかい笑顔が深い印象を残している。

さらには、名匠サム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』(2019年)にも出演。大御所から若手まで錚々たる英国俳優たちが集結した戦争大作で、カンバーバッチは前線を指揮する連隊長役でクライマックスに出演。わずかな出番でもそのオーラで場を引き締めるなど、脇であっても足跡を残すカンバーバッチ、さすがだ。

冷戦時代にスパイにスカウトされた英国人セールスマンを演じた『クーリエ：最高機密の運び屋』(2020年)や、9.11同時多発テロをめぐるアメリカの深い闇を描いた『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021年)などを経たカンバーバッチは、最新作『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』において、19世紀末から20世紀にかけてネコを題材にしたイラストで人気を博し、夏目漱石の「吾輩は猫である」にも影響を与えたと言われる英国の画家ルイス・ウェインを演じる。これまでのカンバーバッチ主演の映画にはあまりないラブストーリーで、どんな魅力を見せてくれるのか楽しみにしたい。

文＝前田かおり

前田かおり●映画、海外ドラマライター。現在、「日経エンタテインメント！」「SCREEN」「ELLE gourmet」「シネマトゥディ」「映画ナタリー」のコラム、インタビュー記事のほか、劇場パンフレットなどで寄稿。好きなジャンルはサスペンス、医療、法廷もの。激渋な英国オヤジや韓国のイケオジたちに偏愛。

＜放送情報＞
エジソンズ・ゲーム
放送日時：2022年11月19日(土)21:00～、25日(金)21:00～

（吹）エジソンズ・ゲーム
放送日時：2022年11月25日(金)12:30～

裏切りのサーカス [R15+]
放送日時：2022年11月3日(木・祝)18:45～、19日(土)16:15～

1917 命をかけた伝令
放送日時：2022年11月6日(日)16:15～、19日(土)18:45～

８月の家族たち
放送日時：2022年11月19日(土)23:00～
チャンネル：ザ・シネマ

モーリタニアン 黒塗りの記録
放送日時：2022年11月17日(木)9:45～
チャンネル：WOWOWプライム

スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム
放送日時：2022年11月19日(土)11:15～

クーリエ：最高機密の運び屋
放送日時：2022年11月20日(日)3:30～
チャンネル：WOWOWシネマ

ホビット　竜に奪われた王国 [吹替版]
放送日時：2022年11月13日(日)13:30～

ホビット　決戦のゆくえ [吹替版]
放送日時：2022年11月13日(日)16:30～
チャンネル：WOWOWプラス

スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム
放送日時：2022年11月12日(土)16:00～、17日(木)14:15～
チャンネル：スターチャンネル１

（吹）スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム
放送日時：2022年11月1日(火)7:00～、6日(日)18:15～
チャンネル：スターチャンネル３

※放送スケジュールは変更になる場合があります