ハ・ジョンウ、ハン・ソッキュら演技派が共演する『ベルリンファイル』

秘密諜報員たちの攻防戦が緊迫感たっぷりに展開
ベルリンを舞台に壮絶なスパイ戦を描く『ベルリンファイル』

2023/10/23 公開

巨大な陰謀に巻き込まれていく南北諜報員の闘い

デビュー以来、スピーディでエネルギッシュなアクション演出を見せてきたリュ・スンワン監督が、かつて東西対立の最前線だったベルリンを舞台に窮地に追い込まれた南北諜報員の絆を描く『ベルリンファイル』(2013年)。韓国を代表する俳優たちの緊張感ある演技から目が離せない。

ハ・ジョンウがキレのいいアクションで魅せる!

朝鮮人民共和国(北朝鮮)の英雄という過去を持ち、国家からの絶大な信頼を受ける秘密要員「ゴースト」としてベルリンで任務にあたっていたピョ・ジョンソン(ハ・ジョンウ)。しかし、ロシアとアラブの絡んだ不法武器取引に失敗してしまう。事態を重く見た本国から彼を監視するためにやってきたトン・ミョンス(リュ・スンボム)から、妻で通訳者のリョン・ジョンヒ(チョン・ジヒョン)に二重スパイの容疑がかかっていると聞かされた彼は、妻の容疑を晴らそうと動き出す。一方、武器取引の現場を密かに見守っていた韓国国家情報院要員のチョン・ジンス(ハン・ソッキュ)も独自の調査を始めていた。

今作の前に監督した『生き残るための3つの取引』(2010年)を上映するためベルリン国際映画祭を訪れたリュ・スンワン監督が、ベルリンという街に刺激を受け、制作を始めたという『ベルリンファイル』。撮影はドイツのベルリンだけでなく、古きよきヨーロッパの雰囲気を残すラトビアでも行われたという。近年は韓国映画も海外での長期ロケを行うことが珍しくないが、この映画が作られた2012年当時はまだまだ少なく、慣れない環境で苦労したリュ・スンワン監督も、ストレスによってかなり痩せてしまったと、あるインタビューで語っている。しかし、完成した作品は、冷静で頭脳明晰、戦闘能力も抜群の主人公ジョンソンが妻ジョンヒと共に生き残ろうと奮闘するスリリングなストーリーと、体を張ったアクションがマッチした見応えのある仕上がりとなっている。

ジョンソンは、二重スパイ疑惑で捕らわれた妻を助けようとするが…

ごく一部の人間しかその正体を知らない「ゴースト」として活動する寡黙なジョンソンを演じているのは『神と共に』シリーズ(2017~18年)のハ・ジョンウ。アクションはもちろん、妻ジョンヒや奇妙な絆で結ばれたジンスとのさりげないやりとりに人間味が感じられる。不審な行動を見せたため裏切り者と疑われるジョンヒ役は、この作品の後、『暗殺』(2015年)でもハ・ジョンウと組んだチョン・ジヒョン。そちらでは、男性たちを上回るような身体能力を誇るスナイパーに扮していただけに、『ベルリンファイル』ではおとなしめなキャラクターだったのが少し残念だ。また、時代の流れに取り残されそうな韓国のベテラン要員を、南北スパイの悲恋を描いた『シュリ』(1999年)に主演したハン・ソッキュが演じており、「もしかしてあの主人公の14年後?」と思えてしまうのもおもしろい。韓国映画快進撃の幕開けを告げた『シュリ』のハン・ソッキュに、『猟奇的な彼女』(2001年)のチョン・ジヒョン、『チェイサー』(2007年)のハ・ジョンウと並べてみると、この作品のキャスティングの豪華さに改めて驚かされる。さらに、軍幹部である父親の命を受け、ベルリンへとやってくるトン・ミョンスを、監督の実弟であるリュ・スンボムが不敵に見せている。今年話題を読んだドラマ「ムービング」でも狂気を孕んだ殺し屋に扮した彼の存在も観逃せない。

アクションだけに留まらない、リュ・スンワン監督の手腕

ハン・ソッキュが、韓国のエージェントを存在感たっぷりに演じている

2000年に、数年かけて撮っていた短編を組み合わせた長編『ダイ・バッド 死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか』でデビューしたリュ・スンワン監督。映画少年がそのまま大人になったような自由奔放で情熱的な作風で、ユニークなアクション映画を次々と生み出してきた。2008年には、1976年の『悪人よ、地獄行き急行列車に乗れ』をリメイクした『史上最強スパイMr.タチマワリ ~爆笑世界珍道中~』を発表。日本語の「立ち回り」から転じた名前を持つ秘密要員をドラマ「浪漫ドクター キム・サブ」シリーズのイム・ウォニが熱演。70年代映画のような独特でコミカルな口調とキッチュなテイストがクセになる作品だった。

「007」のパロディや西部劇風味もあるコメディ『史上最強スパイMr.タチマワリ ~爆笑世界珍道中~』

その後、『生き残るための3つの取引』、『ベルリンファイル』と、シリアスなテイストの作品を発表した後、本連載でも紹介した快作『ベテラン』(2014年)が大ヒット。さらに2021年には、1990年末から1991年にかけて起きた実際の事件を映画化した『モガディシュ 脱出までの14日間』を監督。故国から遠く離れたアフリカのソマリアで内戦が激化したことによって孤立した南北の大使館員たちが、互いの命を守るために団結し突破口を探していく姿を描くため、モロッコでの長期ロケを行なった。海辺の街に90年代のモガディシュを再現し、モロッコと韓国のスタッフが力を合わせ、韓国映画史に残る大規模な銃撃戦やカーチェイスのシーンを成功させたという。撮影中にもしかしたら、同じく海外で撮影した『ベルリンファイル』のことも思い出していたかもしれない。

2021年の韓国映画No.1ヒットを記録した『モガディシュ 脱出までの14日間』

韓国では最新作『密輸』がこの夏一番のヒット作となったリュ・スンワン監督。70年代を舞台に、女性たちが活躍する作品とのことで、日本での公開が楽しみだ。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「韓国映画で学ぶ韓国の社会と歴史」(キネマ旬報社)、「作家主義 韓国映画」(A PEOPLE)など、訳書に「私書箱110号の郵便物」(アチーブメント出版)がある。

<放送情報>
モガディシュ 脱出までの14日間
放送日時:2023年11月6日(月)16:00~、12日(日)12:30~
チャンネル:スターチャンネル1

史上最強スパイMr.タチマワリ ~爆笑世界珍道中~
放送日時:2023年11月8日(水)10:10~、18日(土)6:30~

ベルリンファイル
放送日時:2023年11月9日(木)18:40~、15日(水)7:00~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)モガディシュ 脱出までの14日間
放送日時:2023年11月4日(土)9:50~、19日(日)15:00~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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