フレディ・マーキュリーの音楽へのひたむきな姿勢が炸裂する『ボヘミアン・ラプソディ』

フレディ・マーキュリー、燃え尽きた45年の生涯を
名曲の数々と共に描く極上の音楽映画『ボヘミアン・ラプソディ』

2022/12/26 公開

ラミ・マレックが挑んだ偉大なヴォーカリストの再現

1985年、20世紀最大のチャリティーコンサート「ライヴ・エイド」で、「クイーン」のフレディ・マーキュリーは熱気ほとばしるパフォーマンスを務め上げ、生中継を通して世界10億の人に見られたという。その直前、彼はバンドの仲間たちに自分がエイズに冒されたこと、死が迫っていることを告げたが、暗い影を振り払うような精悍なステージを披露した。本作では、そんなフレディの音楽へのひたむきな姿勢が炸裂する。

完全再現と讃えられたライヴ・エイドには、ボブ・ディラン、ポール・マッカートニーらも参加していた

1970年代初頭、ファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)は、ファンだったバンド「スマイル」のヴォーカルが脱退したことを知り、スマイルのギタリスト、ブライアン・メイ(グウィリム・リー)とドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)に歌声を聞かせ自らを売り込んだ。こうしてのちの「フレディ・マーキュリー」は同じく新加入のベーシスト、ジョン・ディーコン(ジョセフ・マッゼロ)と共に新生バンドをスタートさせる。

劇中のパフォーマンスでの歌声は大半がフレディ本人のものだが、ところどころにフレディを演じたラミ・マレックの声もミックスされている。ラミはこの熱演で第91回アカデミー賞主演男優賞に輝き、トップスターにのし上がって『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)にも出演。徹底した役作りで苦悩と栄光に満ちたフレディになりきった彼を見ていると、なんだか愛おしい。

誰も思いつかないアイデアを結実させた名曲

「クイーン」と改名し、アルバムを自主制作したバンドは、レコーディングの様子を目撃したEMIのA&R、ジョン・リード(エイダン・ギレン)にスカウトされ、1974年にはフレディが作詞・作曲した「キラー・クイーン」が大ヒット。EMIの重役はこのヒット曲路線での作曲を命じるが、バンドは同じことの繰り返しを嫌い、フレディはオペラを取り入れたロックの制作を思いつく。

やがてフレディが仲間たちと完成させた斬新な構成の「ボヘミアン・ラプソディ」は6分の長尺で、重役連中は「長すぎてラジオで流せない」と猛反発。怒りのフレディはラジオ番組にゲリラ的に出演し楽曲を届け、マスコミには叩かれたものの新たな大ヒットを勝ち取る。

「愛という名の欲望」「ドント・ストップ・ミー・ナウ」など珠玉のナンバーも次々登場

こうした楽曲の誕生秘話が、メンバーが制作に没頭する姿やぶつかり合う様子と共に描かれている。このリアルな過程の描写は、ブライアン&ロジャー本人が音楽プロデューサーとして本作の製作に参加していることも大きいだろう。

孤独と苦悩に苦しむフレディを救ったもの

クイーンがスターダムを駆け上り、ツアーで多忙を極めるなか、フレディの苦悩は深まっていく。ゲイである自分とは異なり、家族を持ち、子どもたちを愛する他のメンバーとの溝は広がり、半ば一方的にソロ活動を始めるも楽曲作りは難航。バンド初期に出会い恋に落ちた女性メアリー(ルーシー・ボーイントン)には、自分がバイセクシュアルであることを告白するが、「あなたはゲイよ」とはっきりと指摘される。

その後もフレディにとって大切な人であることは変わらぬものの、彼女が他の男と付き合うのを見るのは寂しい。そんな折、心から愛せる相手ジム・ハットン(アーロン・マカスカー)と出会うが、「君が本当の自分を取り戻すことができたらその時また会おう」と告げられてしまう。孤独に苦しむフレディは酒に溺れ、ドラッグに蝕まれていく。

ロンドンの人気ブティックの店員だったメアリーは、フレディの良き理解者に

だが、「そんなことではだめ、あなたの本当の居場所はクイーンで、メンバーこそがファミリー」とメアリーはフレディを励ます。恋は途切れても、彼女にとってもフレディは大切な人。そんな思いをくみ取り、交際相手の子どもを授かったメアリーを祝福するフレディの姿に希望を感じさせられる。

この結果、クイーンへの復帰を熱望したフレディは不満を募らせていた仲間を説得。再び迎え入れてくれた仲間たちとライヴ・エイドのステージに立つ。そんなドラマを見ていると、自分がクイーンを好きだったことを懐かしく思い返してしまう。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。最近気に入っている『ホイットニー・ヒューストン IWANNA DANCE WITH SOMEBODY』の脚本家は「ボヘミアン・ラプソディ」と同じアンソニー・マクカーテン。曲の聞かせ方が巧くてつい引き込まれる。日本経済新聞、週刊朝日、ぴあなどで映画評を執筆。

<放送情報>
ボヘミアン・ラプソディ
放送日時:2023年1月7日(土)21:00~、13日(金)21:00~

(吹)ボヘミアン・ラプソディ
放送日時:2023年1月13日(金)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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