等身大の女性が恋や仕事に奮闘する姿を描いた『ブリジット・ジョーンズの日記』

こんな生き方もアリじゃない?
等身大の女性を描く『ブリジット・ジョーンズの日記』の人生ストーリー

2022/09/26 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第19回に登場するのは、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)。イギリスの作家、ヘレン・フィールディングによる同名の世界的ベストセラー小説を映画化した作品で、主人公のブリジット・ジョーンズをアメリカ人であるレニー・ゼルウィガーが演じたことも話題となった。

本作は世界中で大ヒットし、等身大の女性を演じたゼルウィガーがアカデミー賞主演女優賞の候補になるなど批評面でも高評価を獲得。2004年に続編『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』、その約12年後には『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』も製作されている。特に第3作では、ブリジットのおなじみの日記帳がiPadに変わっており、社会の在り方も含めて時代に合わせた変化も感じさせる。今回はシリーズ3作品を総括する形で、恋や仕事に奮闘するブリジットや作品の魅力を小川と松崎が語っていく!

演技派のイメージが強いレニー・ゼルウィガーが、ドジっ子のブリジットをチャーミングに演じる(『ブリジット・ジョーンズの日記』)

レニー・ゼルウィガーやヒュー・グラント、コリン・ファースら名優が演じる魅力的なキャラクターたち

松崎「この作品の魅力は、なんといってもゼルウィガーですよね。『ザ・エージェント』でトム・クルーズの相手役に抜擢されて一躍有名になり、その後着々とキャリアを積んでからの『ブリジット・ジョーンズの日記』。少しぽっちゃりしたブリジットを演じるために体重を増やし、イギリス英語もマスターしただけでなく、役作りのために実際に出版社にも数か月勤めたそうで(ブリジットは出版社勤務)、もう完全にデニーロ・アプローチ(笑)。その甲斐あってか大ヒットシリーズになるわけです」

小川「当然ながら、テキサス生まれのゼルウィガーは完全なイギリス人女性でしたし、学生時代にハマって時折見返していた作品です。ただ、いま改めて観ると、時代錯誤な部分もあって、時代と自分の意識の変化も含めて面白いなと思いました。実際そこが魅力ではないんですが、ブリジットのドジでバカなところが女性として愛らしい、みたいな誤解を与えるほど抜けているなと感じたり(笑)」

松崎「たしかに。ドジしまくるし、冷静に考えるとヤバいこともしているけれど、なぜかモテまくるんですよね。観ている側からしたら、かなり本音をさらけ出しているので、『こんなにモテないだろう』と思ってしまうけれど」

小川「正直ですごくチャーミングなのでモテるのはわかるけれど、にしても全方位からモテてますよね。そこはラブコメだし、ある種、少女漫画的なファンタジーだけれど、おかしいとは思わないんですよね、不思議と」

松崎「この映画の少し前には、ドラマ『アリー my Love』もブームになっていたので、製作上でも影響があったのでは、と言われていますね」

小川「1990年代後半から2000年代って、ちょうど、男性主体で作られた女性観ではない、リアルな女性観を女性が描くドラマや映画が出てきたタイミングかもしれないですね」

職場の上司との恋愛を経て、幼なじみの堅物弁護士、マークと互いの気持ちを確かめ合うブリジット(『ブリジット・ジョーンズの日記』)

松崎「ヒュー・グラントが演じた職場の上司でもあるダニエル・クリーヴァーの女性を軽視した言動なんて、いまの時代にやってしまったら一発でアウト。だけど当時は、そこまでアウトな気持ちでは観ていなくて。女性側がセクハラと受け取らなければ、それはセクハラじゃないみたいなことがまかり通る時代だったというか…」

小川「いまでは受け入れられないことも、笑えるコメディ作品として流されていた時代ではありますね。こういう人いるよね、みたいに…。『ノッティングヒルの恋人』で純朴な青年を演じていた彼とは全く違うイメージで」

松崎「グラントも弁護士のマーク・ダーシーを演じたコリン・ファースも、1980年代前半のイギリス美青年ブームの時に出てきた俳優で、1作目の頃がちょうどアラフォーと呼ばれる年齢でした。美青年時代を経て、本作で中年のちょっと手前の年頃の役を演じて、いい感じで演技の幅を広げた印象はあります。また、原作者とグラントは友だちだったらしく、原作には彼が提供したネタも結構入っているとかいないとか」

小川「ドラマ『高慢と偏見』を演じたファースが、原作のダーシーのモデルでもあり、だから映画にキャスティングされたんですもんね。ダニエルとマークの、上流階級の男性同士のメタメタな喧嘩シーンは最高ですよね。喧嘩慣れしていない感じがすごくよくて(笑)」

松崎「最初はもっと真っ当な喧嘩シーンになるはずだったらしいけど、現場で話し合ううちに、あの形になったらしいです。パンチが的確にヒットしていない感じとかもすごくおもしろいと思いました。ブリジットをめぐる彼らのキャラクターは、小川さんにはどう映りましたか?」

小川「感情をほとんど表現しないマークと、遊び人のダニエル。ステレオタイプな描かれ方ではあるものの、演者がチャーミングなのでキャラクターも魅力的に見えちゃいます。感情表現が苦手なマークは、日本人にも通じるところがあるなと思い、だから日本人女性と結婚したのかなと想像したり」

ヒュー・グラント演じる遊び人のダニエルもブリジットのことが忘れられずにいて…(『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』)

40代になったブリジットの奮闘を通して、多様な生き方があることを示す

松崎「役者のおかげでチャーミングに見えるのは、ブリジットも同じですよね。かわいくて愛らしいけれど、特にパート2では常軌を逸している印象があります。キャラだけでなく映画としても」

小川「パート2のドジっぷりは、やや度を越してますよね」

松崎「『サウンド・オブ・ミュージック』や『007』シリーズのパロディをやっちゃったり」

小川「タイに行く必要もあったのかという(笑)。(前作のヒットで予算が増えたからか)無駄にラグジュアリーだなと思ったけれど、マークがいかにブリジットを愛しているか、彼女のためなら世界中を飛び回れるという表現をするためのタイだったんでしょうね」

ブリジットのハチャメチャぶりが目立つ第2作『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』

松崎「パート3は前作からだいぶ時間が経って、40歳を迎えたブリジットの物語が描かれます」

小川「大人の女性として、成熟した40代のブリジットが見られたのはうれしかったですね。変わらずチャーミングだったけれど、おバカキャラなまま歳を重ねて、仕事も楽しんでいて、自分の意志で人生を選択していて」

松崎「順調なキャリアも歩んできたみたいですよね。ただ、私生活では独身のままで、そのことに少し不安も感じています。そんな時に、かつての恋人だったマークと新たに出会ったイケメンのIT企業社長と同時期に関係を持ち、想定外の妊娠をしてしまう」

小川「結婚相手を求めるヒロインの物語だったパート1や2とは異なり、独身=不幸ではないし、結婚しても離婚する可能性もあるし、未婚女性が子どもを授かって育ててもいい、といった多様な選択肢を初めて描いている気がしました。一生添い遂げると思った人と子どもを作るのではなく、なりゆきでセックスして妊娠しちゃったというのもリアリティがありますよね。おとぎ話みたいに王子様と結婚して一生幸せに暮らしました、という世界が現実的かと言われたら、まぁそうではないですから」

40代になったブリジットの物語が描かれる第3作『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』

松崎「そういった社会背景も盛り込んだことで、パート3ではラブコメ色が薄まった感もあります」

小川「ラブコメとしてはというよりも、ブリジットという一人の女性の成長ドラマとしてはすごくよかったと思います。どっちの子どもかではなく、自分が産みたいと思った子どもを一人でも育てていくという覚悟に、彼女の中の自信も感じることができました。また、必ずしも恋愛から始まっていない出産や結婚は、マッチングアプリが出会いの場となった現代のリアリティなのかなとも思います」

松崎「小川さん的にはリアルに捉えられる描写は多かったですか?」

小川「特にパート3は、より現実的になっていると思います。仕事優先で生きてきたけど、妊娠がわかってから、友人に言われて自分は子どもが欲しかったのかもと気づく流れとか、リアリティがある気がしました。ここまできたら、50代のブリジットも見たくなりますね」

ひょんなことから妊娠するブリジットだが、父親が誰だかわからない(『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』)

松崎「今後も続編を作るんじゃないか、なんて言われていますしね」

小川「人間だから老いるのは当然ですし、彼女の今後の人生がどうなるかも気になります」

松崎「たしかに、50代、60代と続いていったら楽しそうですね」

ステレオタイプに縛られない、多様な生き方を示してくれるブリジット(『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』)

構成・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
ブリジット・ジョーンズの日記
放送日時:2022年10月6日(木)23:00~、23日(日)1:45~

ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月
放送日時:2022年10月7日(金)23:00~、23日(日)3:30~

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期
放送日時:2022年10月9日(日)0:00~、23日(日)5:30~
チャンネル:WOWOWシネマ

ブリジット・ジョーンズの日記
放送日時:2022年10月30日(日)23:00~

ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月
放送日時:2022年10月31日(月)0:45~

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期
放送日時:2022年10月31日(月)2:45~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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