北朝鮮のエリート刑事と韓国の熱血刑事が共助捜査を開始！
破格のアクションで魅せる『コンフィデンシャル／共助』

「愛の不時着」のヒョンビンが北朝鮮の刑事役を好演！

コロナ禍に配信され、韓流ブームの新たな波を起こすきっかけを作ったドラマ「愛の不時着」。ある日突然、パラグライダーで38度線を越えてしまった韓国人女性と最前線に勤務する北朝鮮の軍人との愛を描いたロマンティックなラブストーリーは、それまで韓国ドラマを見たことのなかった人も巻き込み、社会現象となるほどの話題を呼んだ。映画『コンフィデンシャル／共助』(2017年)は、同作に主演したヒョンビンが、同じく北朝鮮のストイックな男性を演じたアクションドラマだ。

北朝鮮内で密かに作られていた偽造ドル札の印刷工場に踏み込んだ特殊部隊出身の刑事リム・チョルリョン(ヒョンビン)。しかし、彼の目の前で上司チャ・ギソン(キム・ジュヒョク)が同僚である彼の妻を殺し、印刷に欠かせない銅版と共に姿を消してしまう。ギソンを追って逃亡先の韓国へと向かうチョルリョン。一方、捜査中のミスで停職処分を受けていた韓国の刑事カン・ジンテ(ユ・ヘジン)は、北からやってきたチョルリョンと組んでギソンを追うように命じられる。相棒であると同時に監視対象の彼を自宅に連れていったジンテは、妻ソヨン(チャン・ヨンナム)と娘ヨナ、義妹ミニョン(イム・ユナ)に彼を紹介する。

かつてヒョンビンは、「愛の不時着」で演じたリ・ジョンヒョクについて「原理原則に忠実で、『間違ったこと』の誘惑にも決して揺れない人物だが、自分の側の人だと思った人たちに対しては温かく思慮深く、時にはちょっと抜けたようなところも見せる」と語っていた。同作に先立って演じた『コンフィデンシャル／共助』のリム・チョルリョンもこの言葉と重なる人物だ。最愛の人を殺された痛みを胸に隠しながら、ギソンを追うチョルリョンは、コンビを組むことになったジンテのことを最初はなかなか信用せず、警戒心を緩めない。しかし、徐々にその素朴な人柄に気づき、ついには「兄貴」と心から呼ぶようになる。人間的な魅力に加えてチョルリョンは鍛え上げられた戦闘能力の持ち主で、手近にあった紙コップとトイレットぺーパーを使って荒くれ者たちを瞬く間に制圧し、ジンテを驚かせる。高速で走る車から体を乗り出しての銃撃戦も見応えたっぷりだ。

2005年のドラマ「私の名前はキム・サムスン」でブレイクして以降、韓国を代表するトップスターとして走り続けてきたヒョンビンは「シークレット・ガーデン」や「アルハンブラ宮殿の思い出」といったドラマだけでなく、時代劇『王の涙　イ・サンの決断』(2014年)、『スウィンダラーズ』(2017年)に出演するなど、映画俳優としても精力的に活動している。今作で演じたチョルリョンはそんな彼にとっても、当たり役と言えるだろう。

南北問題を孕んだ、絶妙なアクション・エンターテインメント

チョルリョンを見た瞬間に思わず「チョー、かっこいい」と声を上げてしまうジンテ役は、軽妙なセリフ回しが光る脇役として活躍後、2016年の『LUCK-KEY／ラッキー』に主演し、『タクシー運転手 ～約束は海を越えて～』(2017年)、『1987、ある闘いの真実』(2017年)、『マルモイ　ことばあつめ』(2019年)といった作品に出演してきたユ・ヘジン。刑事としてはやや頼りないが、家族のことを誰よりも愛する人間的なキャラクターになりきっている。

さらに、今作での好演によってコメディエンヌとしての才能を開花させたのが、ジンテの妻の妹ミニョンに扮した少女時代のユナ。居候している姉の家にやってきたチョルリョンをひと目見て気に入り、かいがいしく世話を焼くものの、彼が結婚していると知ってがっかりしてしまうというお調子者のキャラクターを愛らしく演じたことが、2018年に出演した『EXIT』での成功へとつながった。また、敵役となるチャ・ギソンを、2017年に突然の事故で亡くなってしまったキム・ジュヒョクが演じている。

70年にわたって休戦状態の続く韓国では、『シュリ』(1999年)や『JSA』(2000年)など、南北の人々の対立や交流を描く数々の映画が作られてきた。『コンフィデンシャル／共助』もそうした流れの中にある１本だ。2017年1月に公開された韓国では、アクション満載のバディ・ムービーとしての魅力に加え、ジンテや彼の家族たちとチョルリョンが生み出すほのぼのとした笑いが人気を呼び、780万人以上の観客を集める大ヒットとなった。

昨年は、チョルリョンが再びソウルにやってくる続編『コンフィデンシャル：国際共助捜査』も公開。おなじみの2人に加え、FBI所属の捜査官が合流し、よりパワーアップした捜査劇が繰り広げられた。FBI捜査官を「私の名前はキム・サムスン」でデビューしたダニエル・ヘニーが演じているのも、長く韓国ドラマを見ている人たちにはうれしいプレゼントだった。

この秋、『コンフィデンシャル：国際共助捜査』に続いて、ファン・ジョンミンと共演した『極限境界線　救出までの18日間』(10月20日公開)も日本で封切られるヒョンビン。『コンフィデンシャル／共助』では、隙のない動きで見せるアクションと、ポーカーフェイスの下に隠した優しい心が共存する彼の魅力が堪能できる。

文＝佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「韓国映画で学ぶ韓国の社会と歴史」（キネマ旬報社）、「作家主義　韓国映画」(A PEOPLE)など、訳書に「私書箱110号の郵便物」(アチーブメント出版／10月3日発売予定)がある。

＜放送情報＞
コンフィデンシャル／共助
放送日時：2023年10月9日(月)4:35～、26日(木)15:45～
チャンネル：ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります