『グリーン・ナイト』などの俊英、デヴィッド・ロウリー監督の独創性あふれる作品たちを紹介

リアルタイムでフィルモグラフィを追うことができる異才
デヴィッド・ロウリーが紡ぐ唯一無二の世界へ飛び込んでみよう!

2023/10/02 公開

アメリカ映画の俊英デヴィッド・ロウリー監督を今回はご紹介したい。

1980年ウィスコンシン州生まれのロウリー監督は、独特な輝きを放つ映画を作り続けていて、ジャンル論や演出論でその魅力を一面的に語ることができない。ヨーロッパ映画的な香りが漂いつつ、でもやっぱり伝統あるアメリカ映画なのだ、とうっとりせざるを得ない作品たち。どの映画も観終わると、不思議な多幸感と、人生と切り離せない別れの寂しさを感じる。比肩する者がいない映画監督といえる。

切ない夫婦の物語や名優ロバート・レッドフォードの引退作も

『セインツ-約束の果て-』(2013年)の舞台は1970年代のアメリカ・テキサス州。ボブとルースという男女カップルは強盗を繰り返している。ルースの妊娠を機に足を洗うことを決める2人だが、最後の銃撃戦でボブはルースを庇って逮捕されてしまう。4年後、娘を生んだルースは夫の出所を待ちながら慎ましやかに暮らしている。そこへ保安官が衝撃的なニュースを持ち込んでくる。ボブが出所を前にして脱獄したというのだ…。

強盗カップルを軸に様々な人の想いが交錯する『セインツ-約束の果て-』

アメリカ映画が得意とするクライムサスペンスだが、映画を観るとストーリー性はあくまでも遠景にあり、観客に提示されるのは豊かな抒情性だ。ルースを演じるルーニー・マーラの儚げな佇まい、ケイシー・アフレック演じるボブの焦燥感が張りついた顔。忘れられないシーンがいくつもある。

ルースを庇って、自ら刑務所へ収監されることになったボブ(『セインツ-約束の果て-』)

ロウリー監督との仕事がよほど楽しかったのだろう。マーラとアフレックが再びタッグを組んだ『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017年)は、いきなり意表を突く展開から始まる。冒頭、自動車事故で夫(アフレック)が死んでしまう。彼は死体安置所でむくりと起き上がると、白いシーツを被ったままの幽霊となり、妻(マーラ)が住む家に向かう。しかし、妻は幽霊となった夫の姿が認識できなくて…。

亡き夫が白いスーツを被った幽霊となって妻の前に現れる『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』

『セインツ~』では夫の帰りを待っていたマーラが、本作では完全なる未亡人となっており、幽霊として帰宅するアフレックとのすれ違いが切なく胸を打つ。ロウリー監督の持つ重要な主題の一つとして、「不意の別れ」や「いなくなってしまった大切な人をどうやって忘れることができるか」というものがある。本作ほど切ない別れを徹底的に描いた映画もない。

夫の存在を妻が認識できない様子が切ない…(『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』)

『さらば愛しきアウトロー』(2018年)は主演を演じた俳優ロバート・レッドフォードが、本作を最後に俳優業の引退を発表したことで有名。レッドフォードは、誰一人傷つけることなく無数の犯行を続けるベテランの銀行強盗を演じている。強盗の手法はスマートかつ紳士的なもので、追いかける刑事も次第に彼の虜になっていく。

レジェンド、ロバート・レッドフォードの俳優引退作となった『さらば愛しきアウトロー』

『セインツ~』同様に本作もクライムサスペンスではあるものの、ロウリー監督の演出は極上の恋愛映画を紡ぐような繊細さに達している。銀行で、街中で、カフェで、様々な場所で、ニッコリと微笑むレッドフォードの皺だらけの顔が何度もリフレインされ、鑑賞後も忘れられない。デビュー以来、無数の作品に出演してきたレッドフォードが、ロウリー監督の映画を引退作に選んだのも納得の出来だ。

チャーミングでスマートな老紳士強盗の佇まいに誰もが虜に(『さらば愛しきアウトロー』)

「アーサー王伝説」が題材の古典的文学作品もロウリー流に映像化

今回ご紹介するなかで最も異色なのが『グリーン・ナイト』(2021年)で、叙事詩的な中世ファンタジー映画だ。アーサー王の甥であるガウェイン(デーヴ・パテル)は、正式な騎士になれないまま怠惰な生活を送っている。ある日、円卓の騎士らが集まった場に異様な風貌の緑の騎士が現れ、首切りゲームを持ちかける。ガウェインはその挑戦を受け入れ、未知なる旅へと出発する。

アーサー王や円卓の騎士の前に現れた緑の騎士(『グリーン・ナイト』)

まるで壮大なRPGの物語のようだが、哲学的なやり取りと圧倒的な映像美が相まって、今いったい何を観ているんだろうとクラクラと目眩がしてくる。展開が難解に感じる人もいるかもしれないが、ロウリー監督が生んだ神話的ファンタジー世界に飛び込んでみるのも一興だろう。私たちは、アメリカ映画の歴史が産んだ異才の創作をリアルタイムで目撃することができる。それは思いがけなく素晴らしい幸運なのかもしれない。

半人前のガウェインが危険な冒険の先で手にするものとは?(『グリーン・ナイト』)

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)、『聖地X』(2021年)、『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』(2023年)など。

<放送情報>
グリーン・ナイト
放送日時:2023年10月15日(日)23:30~、24日(火)14:45~

セインツ-約束の果て-
放送日時:2023年10月17日(火)0:00~

A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー
放送日時:2023年10月18日(水)0:15~

さらば愛しきアウトロー
放送日時:2023年10月19日(木)0:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

グリーン・ナイト
放送日時:2023年10月18日(水)17:45~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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