農夫が作った野球場に、ある野球選手が現れ物語が展開していく『フィールド・オブ・ドリームス』

野球を愛する人々の思いを映す『フィールド・オブ・ドリームス』は
夢をあきらめるな、と語りかけてくる

2023/08/28 公開

「声」に導かれて、意外な行動に出た男性の物語

「それを作れば彼はやってくる」──どこからともなく聞こえてきた「声」に命じられ、アイオワ州にトウモロコシ畑を持つレイ・キンセラ(ケビン・コスナー)は、畑を潰して野球場を作った。以前から苦しい経営状態だったこともあり周囲の誰もが反対するなか、唯一の味方である妻と幼い娘だけが彼の背中を押した。

「声」に導かれ、突然野球場を建設した男が、ある事件をきっかけに野球界から退かざるを得なくなった元名野球選手と出会い、人生を大きく変えることになっていく。あらすじを読むと一見サクセスストーリーのようだが、「自分にしか聞こえない・見えない言葉」や「家族にしか見えない野球選手の姿」など、物語はさながらSF映画のような雰囲気を纏っている。

レイ役には、高校時代に野球選手を目指しながら背が伸びなくてあきらめ、急に伸びたのは大学生になってからだったというケビン・コスナー。『さよならゲーム』(1988年)に続いて2作目の野球映画出演となった。そして、今年5月に亡くなったレイ・リオッタが、もう一人の主人公とも言える、実在の野球選手ジョー・ジャクソンを、若々しい魅力を発揮しながら演じている。

主演のケビン・コスナーは、実際に野球選手への道を手放した過去を持つ

本作は、テレビ出身のフィル・アルデン・ロビンソンが監督と脚色を担い、父と息子の心のつながりと、今もなおアメリカ人の記憶に残る「ブラックソックス事件」の実話に触れながら描いたドラマだ。「ブラックソックス事件」とは、ホワイトソックスの名選手「シューレス・ジョー」ことジョー・ジャクソンを含む計8人の選手たちが八百長事件を起こし、野球界を永久追放された事件のこと。これをきっかけにホワイトソックスは「ブラックソックス」と揶揄されることになってしまった。大陪審では有罪が下ったものの、刑事裁判では全員が無罪に。それでも、永久追放処分となってしまった彼らに向け、ファンの子どもが「ウソだと言ってよ、ジョー!」と叫んだ、というエピソードは、メジャーリーグ史上最も有名な言葉として残り、事件から100年以上が経った今でも繰り返し語られている。

野球選手に「なれなかった」人々を優しく包む場所

ある時、レイの幼い娘カリンは、夕闇迫る野球場に人影を見つけるのだが、そこにいたのは、そんな失意のうちに生涯を終えたジョー・ジャクソンと彼の仲間たちだった。彼らは新たにできた球場で野球を楽しむが、ジョーはすでに故人であり、その姿はレイ一家にしか見えない。

「彼の痛みを癒せ」という声を聞いたレイは、テレンス・マン(ジェームズ・アール・ジョーンズ)という小説家のもとへ。テレンスもまた、かつて野球選手を志しあきらめてしまった人間で、彼の影響で若き日のレイは、メジャーリーグを目指すという夢を託した父ジョン(ドワイヤー・ブラウン)に反発し、家を飛び出していた。亡くなった父に妻と娘の顔を見せられなかったことを後悔し続けているレイは、テレンスを連れ出し、野球観戦へ。訪れたフェンウェイ・パーク球場で、新たなメッセージを受け取る。

テレンス、アーチーも、やがてレイの野球場へ

次に向かったのは、アーチー・グラハム(バート・ランカスター)という、ワールドリーグに出場した過去を持つ男性が住むミネソタ。アーチーは故郷に帰って医師になっていたが、レイが訪れた時にはすでに亡くなっていた。アーチーはテレンスやレイ、ジョンと異なり、野球選手から退いたことを後悔していないというキャラクター。アーチーが一試合だけワールドリーグに出場しながら選手をやめることになったエピソードにはしみじみ、いいなぁ、と思う。野球を続けたい、でも目の前で起きた出来事を考え、選手はあきらめて新たな一歩を踏み出す。その結果彼は、故郷の町に帰り医師としての人生を送っていたのだ。

レイの野球場には、野球をしたいのにできなかった人々、あきらめることになった人々が集う。それらの人々のためにレイの「心の声」は彼に球場を作ることを命じたのではないか。そしてこの映画は、夢をあきらめるな、と語りかけているのではないだろうか。

大好きな野球をあきらめた人々の、野球への愛情が胸を打つ

そしてグラウンドに現れた人物と、レイは向かい合う。2人でキャッチボールをする姿は、アメリカの人々の心にある原風景とでも言えばよいか。野球選手にはならなかったけど、野球が大好き、というレイ・キンセラのためにこの映画はあるのかもしれない。レイを見守る妻と娘のあたたかな眼差しが心にしっかりと刻まれる。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。このところ英国ナショナル・シアターの舞台を撮った映画が面白く今年のトニー賞受賞の「レオポルドシュタット」がステキ。でも『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」も良かった。トムさま最高です!日本経済新聞、中日新聞、ぴあなどで映画評を執筆。

<放送情報>
フィールド・オブ・ドリームス
放送日時:2023年9月4日(月)21:00~、19日(火)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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