人間離れした技や肉体美に惚れ惚れ！
観る者を圧倒するギリシア神話＆史劇の英雄たち

個性豊かな神々が愛憎劇を織りなすギリシア神話は、様々な英雄たちを生み出した。一方、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスがペルシア戦争を書き記した「歴史」にも、不可能に挑戦する数多くの英雄たちが登場する。神話と史実の違いはあるが、苦難を乗り越え栄光を手にする英雄たちの物語は繰り返し映画化され、いまだ人々の心を揺さぶっている。鍛え抜かれた肉体と鉄の意志で戦い続ける英雄たちが活躍する、アクション・スペクタクル映画の魅力を紐解いてみたい。

強大なペルシア帝国に勇敢なギリシア兵が立ち向かった史劇を映像化したバトルアクション

紀元前のギリシアの都市国家、スパルタを治めた実在の王レオニダス1世の激闘を描いたアクション巨編が『３００ ＜スリーハンドレッド＞』(2007年)だ。世界制覇を狙うペルシア帝国は大軍をギリシアに派兵。神官に戦争を禁じられたスパルタのレオニダス王(ジェラルド・バトラー)は、わずかな精鋭部隊だけでペルシア軍に立ち向かった。本作は300のスパルタ戦士が100万ものペルシア軍と3日間にわたり激闘を繰り広げた「テルモピュライの戦い」の映画化。「バットマン：ダークナイト・リターンズ」や「シン・シティ」などダークな作風で知られるコミック作家、フランク・ミラーの同名コミックが原作だ。

まず圧倒されるのは、「スパルタ教育」の語源となったスパルタの戦士育成術。物心つく頃より戦場での死が最高の栄誉と教え、7歳からは相手を殺してでも生き残る術を徹底的にたたき込む。アゴゲと呼ばれる英才教育で生み出されるのは、死を怖れず敵を倒すためなら手段を選ばない無敵の戦闘マシン。ヘラクレスの末裔と呼ばれたレオニダス率いる鋼の肉体を持った猛者たちが、押し寄せる敵を次々になぎ倒していく様は圧巻だ。監督はこれが長編2作目のザック・スナイダー。撮影は合成用ブルーバックで行われ、雄大な背景はCGで作成。歴史画のようなくすんだ色調、1コマ1コマ、画を積み重ねていくようなスーパースローモーションなど独特の映像美が幻想的な雰囲気を盛り上げる。愛する家族や国の未来を信じ、全身全霊で巨大な敵に立ち向かう魂のバトルが満喫できるヘビー級の作品だ。

『３００ ＜スリーハンドレッド＞』に続く続編『３００ ＜スリーハンドレッド＞ ～帝国の進撃～』(2014年)は、テルモピュライの戦いの直後に行われた海の戦い「サラミスの海戦」が描かれた。アテナイの将軍テミストクレス(サリヴァン・ステイプルトン)は、ペルシアの大艦隊を迎え撃つため各都市の連合軍を編成。数では劣るが優れた作戦で善戦するテミストクレスに、冷徹な女性司令官アルテミシア(エヴァ・グリーン)が牙を剥く。陸での肉弾戦を描いた前作から一転、今作の舞台は海。艦船同士の激突や剣を手に敵船に乗り込む白兵戦、火薬を使った爆撃など、前作とはまた違うスリリングなアクションが連続する。ギリシア勢が巧みな戦術でペルシア軍を翻弄する痛快さ、幼い頃に性奴隷にされたことからギリシア人への復讐に燃えるアルテミシアの生き様など、ドラマチックなストーリーも魅力である。

スナイダーは製作・脚本にまわり、監督はNetflixオリジナルシリーズ「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」のノーム・ムーロが担当。視覚効果を駆使した前作のビジュアルを受け継ぎながら、ペルシア帝国の壮大なロケーション、荒々しい海洋シーンなどスケール感ある見せ場を展開。前作とはまた違ったスペクタクルが存分に味わえる。

ブラッド・ピット＆ドウェイン・ジョンソンが最強の戦士を熱演！

トロイの木馬で知られるギリシア神話の「イーリアス」を映画化した、オールスターキャストのスペクタクル大作『トロイ』(2004年)。和平のため兄であるトロイの武将ヘクトル(エリック・バナ)とスパルタを訪れていたパリス王子(オーランド・ブルーム)は、スパルタ王妃ヘレン(ダイアン・クルーガー)と恋に落ち彼女をトロイに連れ帰ってしまう。スパルタ王の兄でミュケナイを治めるアガムメノン(ブライアン・コックス)はこれをトロイ征服の好機と捉え、ヘレンを取り戻すことを名目に、最強の戦士アキレス(ブラット・ピット)らのギリシア連合軍を結成して侵攻を開始する。ドラマチックな叙事詩を2時間40分の大作にまとめ上げたのは、『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)や『パーフェクト ストーム』(2000年)などスペクタクル大作の巨匠ウォルフガング・ペーターゼン。7万を超える兵士たちの合戦や400隻の大艦隊、有名な巨大な木馬による侵入劇などスペクタクルシーンが満載だ。

自由奔放なアキレスを中心に展開する本作一番の見せ場が、トロイのヘクトルとの一騎打ち。正攻法なヘクトルと、跳ねたり体をひねったりトリッキーな動きをするアキレスの延々と続く戦いは、演じるブラッド・ピットとエリック・バナの熱演もあって見応え満点。壮絶な幕切れも手伝って、本作を代表するスリリングな見せ場になった。リアル志向のペーターゼンは、実写を主体にCGはサポート役にとどめて制作。ロケーション中心の撮影も含めて、大作らしい雄大な作品に仕上げている。作り込まれた絵作りの『３００ ＜スリーハンドレッド＞』シリーズと観比べてみるのも楽しい。

ギリシア神話の英雄と聞いて、最初に思い浮かぶのはヘラクレスではないだろうか。これまで映画やテレビで何度も描かれてきたヘラクレスだが、その中でもとびきりの異色作が『ヘラクレス』(2014年)だ。妻子を亡くし傭兵として仲間と各地を放浪していたヘラクレス(ドウェイン・ジョンソン)は、トラキアの王女ユージニア(レベッカ・ファーガソン)の依頼で反乱軍に立ち向かうため農民たちの教育係を任される。ヘラクレスといえば、ゼウスと人間の女性との間に生まれた半神半人の英雄だが、本作に登場するのはそんな「神話の英雄」を宣伝文句にして仕事を請け負ういわばニセモノ。そんな自称「神の子」がトラキアの反乱軍との戦いの中で真の英雄として覚醒する姿が描かれる。

本作にリアリティを与えているのは、なんといってもドウェイン・ジョンソンの肉体だ。筋肉の塊のようなぶっとい腕で巨大な棍棒を振り回し、次々に敵をなぎ倒す痛快さはさすがジョンソン。おなじみのスキンヘッドではなく、ロン毛をなびかせたワイルドな姿もかっこいい。また、9つの首を持つハイドラや3つ首のケルベロスを倒すなど「12の功業」を語るビジュアルも、歴代ヘラクレス映画の中でも群を抜く迫力で描かれる。仕込み杖を使うアムピアラオス(イアン・マクシェーン)や弓の達人・アタランテ(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)、ナイフの名手・アウトリュコス(ルーファス・シーウェル)ほか仲間たちとのコンビネーションも抜群で、荒くれ傭兵ものとしても見応えある快作だ。

力と技を兼ね備え数々の苦難を制する英雄たち。彼らが観る者の心を打つのは強いだけでなく、大切なものを守るため命を捨てて限界突破に挑む熱いハートの持ち主だから。時に神をも凌ぐパワーを発揮する英雄たちは永遠に不滅なのだ。

文＝神武団四郎

神武団四郎●映画ライター。「映画秘宝」「MOVIE WALKER PRESS」「シネマトゥデイ」などへの寄稿、パンフレットの執筆、編集など。編書に「別冊映画秘宝 絶対必見！SF映画200」(洋泉社)など。監修書に「テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトデザイン画集」(玄光社)、「メイキング・オブ・007／ノー・タイム・トゥ・ダイ」(玄光社)など。ゴジラよりコング派。

＜放送情報＞
３００ ＜スリーハンドレッド＞ [R-15]
放送日時：2023年8月5日(土)12:30～、22日(火)21:00～

３００ ＜スリーハンドレッド＞ ～帝国の進撃～ [R15+]
放送日時：2023年8月5日(土)14:45～、22日(火)23:15～

ヘラクレス(2014)
放送日時：2023年8月7日(月)23:00～、18日(金)10:30～

トロイ(2004) [PG-12]
放送日時：2023年8月19日(土)21:00～、25日(金)21:00～

（吹）３００ ＜スリーハンドレッド＞ [R-15]
放送日時：2023年8月18日(金)14:45～

（吹）３００ ＜スリーハンドレッド＞ ～帝国の進撃～ [R15+]
放送日時：2023年8月18日(金)17:00～

（吹）ヘラクレス(2014)
放送日時：2023年8月23日(水)12:30～

（吹）トロイ(2004) [PG-12]
放送日時：2023年8月25日(金)12:30～
チャンネル：ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります