夏に観たい!珠玉のホラー映画を4カテゴリーで紹介(『ザ・リング』)

幽霊屋敷、悪魔、怨霊、思春期のトラウマ…
真夏でも背筋が凍る多彩なホラー映画たち

2023/06/26 公開

来客や住人を狂わせる幽霊屋敷もの、大ヒットシリーズも誕生した悪魔もの

この家には何かがいる。人間ではない不気味な何かが…。ホラー映画の多彩なサブジャンルにおいて、そんな背筋も凍る恐怖を映像化した「幽霊屋敷もの」は、蒸し暑い夏の納涼にうってつけだ。

スタンリー・キューブリックが手掛けたホラーの傑作『シャイニング』

『2001年宇宙の旅』(1968年)、『時計じかけのオレンジ』(1971年)の巨匠スタンリー・キューブリック監督が手掛けた『シャイニング』(1980年)は、雪山のリゾートホテルを巨大な幽霊屋敷に見立てた一作。真冬のオフシーズンに管理人としてホテルに赴いた作家とその妻子が、館内にこびりついた得体の知れない悪意に脅かされていく。製作当時に開発されたばかりの撮影装置ステディカムを導入した移動ショットが圧巻で、廊下などに突如出現する幼い双子姉妹の幽霊は、映画史上最も恐ろしい心霊描写の一つとして名高い。名優ジャック・ニコルソンがまき散らす人間の狂気と相まって、一度観たら忘れられないインパクトがみなぎるアート系ホラーの名作だ。

有名過ぎる斧でドアを突き破るシーン(『シャイニング』)

第二次世界大戦末期、イギリスの島にぽつんと建つ洋館を舞台にした『アザーズ』(2001年)は、このジャンルの伝統を受け継ぐゴシックホラー。出征中の夫が不在の家で2人の子どもと暮らす主人公グレースが、奇怪な超常現象に見舞われ、神経をすり減らしていく。目には見えない何かから我が子を守ろうとする母親の極限心理を、ニコール・キッドマンが迫真の演技で表現。終盤にあっと驚く意外なひねりを炸裂させたスペインのアレハンドロ・アメナーバル監督の繊細な語り口も際立っている。

夫が不在の中、怪奇現象から子どもを守ろうとする母親の姿を描く『アザーズ』

今世紀を代表する幽霊屋敷ホラーの作り手と言えば、『死霊館』(2013年)とその続編『死霊館 エンフィールド事件』(2016年)を大ヒットさせたジェームズ・ワン監督だろう。実在の心霊研究家、エド&ロレイン・ウォーレン夫妻の事件簿を元ネタにした上記の2作品は、このジャンルの王道的な恐怖を現代の映画ファンに体感させた。今回放映されるシリーズ第3作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(2021年)は、それまでとは趣向を変え、実際に裁判沙汰になった1980年代初頭の怪事件を扱ったもの。殺人罪で起訴された青年が、法廷で「犯行は自分に取り憑いた悪魔のせいだ」と無罪を主張。それを裏付けるために悪魔の存在を証明しようとするウォーレン夫妻の苦闘を描き出す。

実在する心霊研究家の夫婦が立ち向かってきた心霊事件を映画化した人気シリーズの第3作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』

製作・原案のジェームズ・ワンからメガホンを託されたマイケル・チャベス監督が、オカルトとミステリーの要素を巧みに融合。心臓にダメージを負ったエド、霊視能力を生かして事件の真相に迫るロレインの夫婦愛のドラマも、異色の心霊捜査劇を劇的に盛り上げる。また、そんじょそこらの悪霊よりも「悪魔」をはるか格上の存在と定義するこのシリーズの方針は、本作でも貫かれている。

悪魔に取り憑かれて殺人事件を犯した青年の無実を証明できるのか(『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』)

Jホラーの象徴的作品をリメイクした怨霊もの、ホラーにジュブナイル要素を絡めた思春期もの

Jホラー、すなわち日本発の恐怖映画が世界中を席巻したのは2000年代前半のこと。その火付け役となった『リング』(1998年)が、『ザ・リング』(2002年)としてハリウッド・リメイクされたのは当時のJホラーブームを象徴するトピックだった。

Jホラーブームの火付け役『リング』をハリウッドでリメイクした『ザ・リング』

ラベルのない1本の謎めいたビデオテープ。そこに記録された映像を観た者は必ず7日後に死に至るという設定と、ストーリーの骨格は日本のオリジナル版を踏襲しているが、独自のアレンジが随所にちりばめられている。のちに『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの監督を務めるゴア・ヴァービンスキーが、前衛的なシュールレアリズム映画を彷彿とさせる呪いのビデオのビジュアルを新たに創出。そして呪いの根源である怨霊の貞子(本作ではサマラという名の少女)が、テレビモニター内の井戸から現実世界に這い出てくるクライマックスの演出も一新された。じっとりとまとわりついてくるようなJホラーと、よりダイレクトな恐怖描写を好むハリウッドホラー。そんな怨霊の描き方の違いを比較してみるのも興味深い。

観ると一週間後に呪い殺されるというビデオの恐怖を描く(『ザ・リング』)

再びナオミ・ワッツが主演を務めた続編『ザ・リング2』(2005年)は、日本の『リング2』(1999年)とはまったく異なる内容のオリジナルストーリー。『リング』の中田秀夫監督がハリウッドに招かれ、「水」をモチーフにした恐怖表現や「母性愛」というテーマを探求した一作だ。

貞子ならぬ、サマラという少女の怨霊がテレビの画面から這い出てきて…(『ザ・リング2』)

最後に強くオススメしたいのは思春期ホラーだ。フィンランド映画『ハッチング-孵化-』(2021年)の主人公ティンヤは、緑に囲まれた美しい邸宅で両親、弟と共に暮らす12歳の少女。学校の体操クラブに所属する彼女は、ある日、森で見つけた大きな卵を自分の部屋に持ち帰るのだが…。やがて卵から孵化した奇怪な生き物が引き起こす惨劇は、SNSと教育に熱中する母親に抑圧されたティンヤの激しい感情の揺らめきとリンクし、観る者の想像を超えた方向にねじれていく。

奇妙なクリーチャーが巻き起こす惨劇を思春期の少女が抱える苦悩とリンクさせる『ハッチング-孵化-』

本格的な特殊メイクを投入し、生々しい心理描写とブラックな社会風刺を織り交ぜた映像世界はサプライズの連続。新人監督ハンナ・ベルイホルムの才気が全編にほとばしっている。

体操クラブに所属し、母親からの期待やライバルへの対抗心で心が蝕まれていくティンヤ(『ハッチング-孵化-』)

3人組の監督ユニット「RKSS」が放った『サマー・オブ・84』(2017年)は、郊外の住宅地を舞台にしたスリラー映画。地元を騒がす連続殺人事件の真相を突き止めようとする少年グループの危うい冒険を、思春期ものらしいノスタルジックな味わいで描く。大人への通過儀礼というには、あまりにも残酷な結末がコワい!

近隣で発生した連続殺人事件の犯人を捜す少年たちの冒険を描く『サマー・オブ・84』

文=高橋諭治

高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ+〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。

<放送情報>
アザーズ
放送日時:2023年7月1日(土)10:30~、9日(日)23:00~

イット・カムズ・アット・ナイト
放送日時:2023年7月6日(木)23:15~、22日(土)1:45~

サマー・オブ・84 [R15+]
放送日時:2023年7月7日(金)1:15~

ザ・リング [PG-12]
放送日時:2023年7月7日(金)23:15~

ザ・リング2 完全版
放送日時:2023年7月8日(土)1:30~

シャイニング [PG12]
放送日時:2023年7月8日(土)18:15~、12日(水)23:30~

死霊館 悪魔のせいなら、無罪。 [R15+]
放送日時:2023年7月8日(土)21:00~、14日(金)21:00~

チャイルド・プレイ(2019) [R15+]
放送日時:2023年7月8日(土)23:00~、19日(水)1:30~

ザ・リング/リバース
放送日時:2023年7月9日(日)0:45~

(吹)死霊館 悪魔のせいなら、無罪。 [R15+]
放送日時:2023年7月14日(金)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ

ハッチング-孵化-
放送日時:2023年7月15日(土)23:00~
チャンネル:スターチャンネル1

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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