今最も勢いのある若手演技派の一人、磯村勇斗に迫る!(『PLAN 75』)

ヒット作、社会派作品でも魅力を発揮!
躍進が続く磯村勇斗に注目せよ

2024/01/29 公開

2023年は『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-/-決戦-』、『最後まで行く』、『波紋』、『渇水』、『月』、『正欲』といった7本もの話題作に出演。第48回報知映画賞、第45回ヨコハマ映画祭、第36回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞の助演男優賞に輝いた磯村勇斗は、今最も勢いのある若手演技派俳優の一人である。

無邪気でフレンドリーなパブリックイメージを様々な役柄に引用

2017年に放送されたNHKの連続テレビ小説「ひよっこ」で有村架純が演じたヒロイン・みね子と恋に落ちるヒデ(前田秀俊)役でその名を全国的に知られるようになり、翌年の「今日から俺は!!」で脚光を浴びた磯村だが、その演技力が高く評価されたのは2021年の『ヤクザと家族 The Family』だ。抗争で命を落とした暴力団組織「柴咲組」の若頭の息子で、自身も半グレ集団のリーダーである翼を、増量した肉体と金髪タトゥーの見た目で作り上げるとともに、食堂を営む母親(寺島しのぶ)を気遣い、兄貴分の賢治(綾野剛)を慕う人懐っこいキャラを体現して観る者を魅了。賢治にあるひと言を言い放つクライマックスの彼に息をのんだ人も少なくないはずで、本作での好演をきっかけに出演のオファーが殺到するようになった。

2021年にはNHKの大河ドラマ「青天を衝け」で将軍・徳川家茂を熱演。劇場版『きのう何食べた?』(2021年)ではドラマ版から演じてきた愛らしくもやんちゃなジルベールを完全に自分のものにし、2019年スタートの人気ドラマ「サ道」では実際にサウナ好きでもある磯村自身の素のキャラが見え隠れするイケメン蒸し男を等身大で演じて話題に。

そう、磯村は無邪気でフレンドリーな、逆の言い方をするなら相手を油断させる自らのパブリックイメージを役柄によって「正」と「負」に使い分ける術を知っているに違いない。監督やプロデューサー陣も役柄によって何色にでも染まる彼の癖のない表情や佇まいに気づき始めたために、オファーが集中するようになったのだろう。

『東京リベンジャーズ』(2021年)で演じたアッくんは、それこそ磯村のイメージをそのままストレートに全開させたようなキャラだった。彼は10年前にタイムスリップした主人公・タケミチ(北村匠海)の高校時代の親友で、いつもつるんで遊んでいた「溝高五人衆」の一人。赤髪のリーゼントでワルを気取っているけれど、誰よりも明るくて子どもっぽくて、他人のことを気遣う優しい心を持つ男だ。そんなアッくんを、磯村はまるで実際に学生時代を謳歌するようにのびのびと快演した。

タケミチと自転車の2人乗りをしているシーンの楽しそうな笑顔も忘れられないが、それだけに続編二部作で待ち受けるアッくんの壮絶な運命には言葉を失った人も多いはずだ。

主人公の親友をのびのびと演じた『東京リベンジャーズ』

早川千絵監督の長編デビュー作『PLAN 75』(2022年)で演じたヒロムの場合も、社会の一般的な常識や価値観、感情や考えを持つ普通の男=多くの観客と同じ目線に立てる若手の俳優は誰なのか?といったところから磯村に白羽の矢が立ったキャスティングだったに違いない。

「プラン75」申請窓口で働く市役所職員を演じた『PLAN 75』

本作は、75歳以上の人が自らの生死を選択できる制度「プラン75」が施行された近未来の日本が舞台。磯村が演じたヒロムは市役所の「プラン75」申請窓口で働いていたが、高齢を理由にホテルの客室清掃員の仕事を解雇され、窓口にやってきた78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)と接するうちに件の制度に疑問を持ち始め、心を大きく揺らす。

そんなヒロムを私たちと見た目も身の丈も変わらない、飾りっ気のない磯村が演じ、苦渋の表情を浮かべるから、胸が締めつけられるし、考えさせられる。彼は未来への警鐘を鳴らす本作での役割を熟知し、まっとうしたのだ。

制度の在り方に疑問を持つキャラクターを等身大で体現した(『PLAN 75』)

『渇水』で磯村が演じた木田も、『PLAN 75』のヒロムと同じベクトル上にいる人物と言ってもいいかもしれない。芥川賞候補にもなった河林満の同名小説を『孤狼の血』シリーズなどの白石和彌監督の初プロデュースで映画化した本作。水道料金を滞納している家庭や店を回り、料金を徴収したり、水道を停める「停水執行」の業務に就いている市の水道局員・岩切(生田斗真)が、父親が蒸発し、母親(門脇麦)も帰ってこない家に取り残された幼い姉妹と出会い、料金未納の彼女たちの家の水を停めていいのか苦悩する姿が描かれた。

先輩の岩切と一緒に軽トラに乗り、業務に当たる水道局員の木田は、思ったことをそのまま口にし、年下にもかかわらず、妻子と別居中の岩切の世話を焼いたりする今っぽい青年。磯村が無邪気に体現する彼は、岩切にとっても、重苦しい本作の旅に同行することになった観客にとっても、唯一ホッとできる存在になっていた。

『渇水』では、停水執行の業務に当たる水道局員を無邪気に演じ、観客にとっての心の拠り所となった

本作で磯村に託されたものもまた、私たちが抱くに違いない普通の感覚だ。軽トラでの移動中に、幼い姉妹のことを気遣う木田は「太陽や空気と違って、水はなんで止めるんだろう?」という素朴な疑問をふと口にする。それに対して、「(オマエが)水道代を肩代わりするか?」と言い、仕事だからしかたがないと割り切って業務に当たっていた岩切。だが、彼の閉ざされた心さえも、木田は最終的にこじ開けてしまう。

その疑問の言葉に作為が感じられず、本当に普段の日常会話のように発せられたものだから、観る者の心にも鋭く突き刺さってくる。幼い姉妹と縁側でアイスキャンディを食べる姿も自然体で演じていた磯村が、映画が描く日本社会の問題点と私たちの距離をグッと近づけたと言ってもいいだろう。

親に見放された幼い姉妹を気遣い、一緒にアイスキャンディを食べる姿も自然体(『渇水』)

パブリックイメージを逆手に取った磯村勇斗の新境地

ここまで書いてきた『PLAN 75』や『渇水』とは違い、磯村のイメージを逆手に取ったキャスティングが際立っていたのが、辺見庸の同名小説を『舟を編む』(2013年)、『ぼくたちの家族』(2014年)などの石井裕也監督が映画化した『月』だ。実際に起きた障害者殺傷事件をモチーフにした本作で磯村が演じたのは、森の奥深くの重度障害者施設で働く、絵が好きな青年・さとくん。

公開間もない本作はまだ観てない人も多いと思うのでこれ以上は書くのを控えるが、さとくんは磯村が『PLAN 75』や『渇水』で演じてきた人物たちと表面上は似ているが、真逆のベクトルの上にいる存在。そのことだけは覚えておくといいかもしれない。

そしてもう1本。山本直樹の同名原作コミックを『アルプススタンドのはしの方』(2020年)などの城定秀夫監督が映画化した『ビリーバーズ』(2022年)も、漏れなく、磯村がバラエティなどで見せている好青年のキャラを上手く生かしていた。「ニコニコ人生センター」という宗教的団体に所属する、お互いを「オペレーター」(磯村)、「議長」(宇野祥平)、「副議長」(北村優衣)と呼び合う3人の男女が、無人島での共同生活を続けるうちにしだいに本能と欲望を露わにしていく。

無人島で奇妙な共同生活を行う新興宗教の信者たちを描く『ビリーバーズ』

本作も磯村のキャラを書くとネタバレになって、これから観る人の楽しみを奪うことになるので触れないが、ここでの起用のされ方もまた鮮やか。遊び心に溢れた城定ワールドの住人になっていて、時空を超える一連をワンカットで撮ったクライマックスではほかの作品にはない磯村の奇跡の怪演も見ることができる。

クセの強い、遊び心に溢れた城定ワールドに完全に溶け込んでいる(『ビリーバーズ』)

それにしても、磯村勇斗という俳優は底が知れない。あの笑顔の裏側にはまだ誰にも見せていない顔を隠しているのかもしれない。2024年も『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)の内山拓也監督&脚本の主演作『若き見知らぬ者たち』をはじめとした多彩な作品で、私たちを楽しませてくれるに違いない!

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>
渇水
放送日時:2024年2月2日(金)16:15~

東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-
放送日時:2024年2月18日(日)12:00~、20日(火)20:00~
チャンネル:WOWOWプライム

渇水
放送日時:2024年2月8日(木)15:00~

東京リベンジャーズ
放送日時:2024年2月17日(土)17:45~、25日(日)17:15~

東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-
放送日時:2024年2月17日(土)20:00~、25日(日)19:20~
チャンネル:WOWOWシネマ

PLAN 75
放送日時:2024年2月4日(日)16:40~、25日(日)21:00~

ビリーバーズ<R-15>
放送日時:2024年2月9日(金)22:45~、28日(水)22:15~
チャンネル:日本映画専門チャンネル

※放送スケジュールは変更になる場合があります

▼同じカテゴリのコラムをもっと読む

ヒット作、社会派作品でも魅力を発揮! 躍進が続く磯村勇斗に注目せよ

ヒット作、社会派作品でも魅力を発揮! 躍進が続く磯村勇斗に注目せよ

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

マイリストから削除してもよいですか?

ログインをしてお気に入り番組を登録しよう!
Myスカパー!にログインをすると、マイリストにお気に入り番組リストを作成することができます!
新規会員登録
マイリストに番組を登録できません
##ERROR_MSG##

現在マイリストに登録中です。

現在マイリストから削除中です。