心に傷を負いイギリスの田舎町へやって来た女性に襲いかかる恐怖を描く『MEN 同じ顔の男たち』

オリジナル作品を次々とヒットさせる確かな手腕!
映画ファンが信頼を寄せるA24とブラムハウスの歩みに迫る

2024/01/29 公開

かつて昭和の時代には華やかなりし「スター」が大衆を映画館に呼び込み、ミニシアターの隆盛期にはオンリーワンの作家性を持つ「監督」が感度の高いシネフィル層を引きつけた。しかし平成、令和へと移り変わるにつれ、上記のような動機で映画を選ぶ観客はすっかり減少。配信プラットフォームの登場によって、手軽に鑑賞可能な作品本数が飛躍的に増えた昨今は、「何をどう選んで観たらいいのかわからない」という悩みを抱える向きが少なくない。

そんなご時世に映画ファンの絶大な支持を得ている、2つの映画会社がある。本記事のお題である「A24」と「ブラムハウス・プロダクション」だ。アメリカのいわゆる独立系の映画会社である両社は、作品のクオリティの高さとユニークさにおいて、すでに業界内で揺るぎない地位を確立。ハリウッド・メジャー各社がアメコミやベストセラー本の映画化、シリーズものやリメイク、リブートといった「確実に稼げる」大作プロジェクトに集中投資しているのとは対照的に、大手が敬遠しがちな斬新なオリジナル企画を次々と実現させている。今や映画界における「信頼のブランド」となった両社のこれまでの歩みと、手掛ける作品の特徴を紹介していこう。

オスカー候補の常連!確かなブランド力で映画ファンを唸らせるA24

ダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、ジョン・ホッジスの3人が2012年に共同で創設したA24(当時の社名はA24フィルムズ)は、なによりフィルムメーカーの個性を尊重する映画会社として知られている。初期には『スプリング・ブレイカーズ』(2012年/ハーモニー・コリン監督)、『ブリングリング』(2013年/ソフィア・コッポラ)、『複製された男』(2013年/ドゥニ・ヴィルヌーヴ)などの尖ったアートハウス系作品を配給して実績を積んだ同社が、世界的に脚光を浴びたのは2016年の第89回米アカデミー賞授賞式でのこと。大本命の『ラ・ラ・ランド』(2016年)を押しのけ、A24が製作・配給を行った『ムーンライト』(2016年/バリー・ジェンキンズ)が作品賞の栄誉に輝いたのだ。

セクシャルマイノリティの主人公の少年期、青春時代、青年期の3つの時代を描く『ムーンライト』

その後の快進撃は目覚ましい。『レディ・バード』(2017年/グレタ・ガーウィグ)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年/ショーン・ベイカー)、『ファースト・カウ』(2019年/ケリー・ライカート)、『カモン カモン』(2021年/マイク・ミルズ)といった著名な国際映画祭や全米賞レースで注目される良作をコンスタントに世に送り出し、2023年の第95回アカデミー賞では『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年/ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)が作品賞を含む7部門を制覇。『ザ・ホエール』(2022年/ダーレン・アロノフスキー)では、ブレンダン・フレイザーが主演男優賞を受賞した。来る第96回アカデミー賞でも、下馬評の高い『パスト ライブス/再会』(2023年/セリーヌ・ソン)にスポットライトが当たりそうだ。

フロリダの安モーテルで暮らす人々の営みを6歳の少女の視点から映し出す『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

ポスタービジュアルなどのアートワークを重視するA24は、「お洒落でセンスがいい」作品イメージを打ち出すのが実に巧い。LGBTQ、移民、フェミニズムといった時代と共鳴するリベラルなテーマを扱うことを好み、先鋭的な音楽やファッションに興味があるサブカル層にもアピール。なかにはシュールで、いささか難解な作品もあるが、それらも観客の好奇心や想像力を掻き立てて止まない。日本でも大反響を呼んだ『LAMB/ラム』(2021年/ヴァルディミール・ヨハンソン)がその好例だ。

ホアキン・フェニックス演じるラジオジャーナリストの男性と9歳の甥っ子との数日間の共同生活を描く『カモン カモン』

加えて、A24はホラー映画にも力を入れており、『ヘレディタリー/継承』(2018年)、『ミッドサマー』(2019年)のアリ・アスター、『ライトハウス』(2019年)のロバート・エガース、『MEN 同じ顔の男たち』(2022年)のアレックス・ガーランドなど、現代ホラーの旗手というべき作り手たちとの継続的なコラボレーションを実施。最近では、オーストラリアの人気YouTuberである双子兄弟ダニー&マイケル・フィリッポウの長編デビュー作『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2022年)を全米スマッシュヒットに導き、アメリカ国外にも視野を広げて才能を発掘する眼力の確かさを改めて証明した。

孤島にある灯台を舞台に、2人の灯台守がしだいに精神に異常をきたしていく『ライトハウス』

ホラー&スリラーに特化しながら、良質な作品を発表し続けるブラムハウス

ブラムハウス・プロダクションズは元ミラマックスのジェイソン・ブラムが2000年に設立したホラー&スリラー専門の製作会社だ。同社の躍進のきっかけは、『パラノーマル・アクティビティ』(2009年)の全米大ヒット。イスラエル人のオーレン・ペリが初監督を務めたこのPOV形式のホラーは、当初12館のみの限定上映だったが、口コミが広がって拡大公開され、封切り5週目にボックスオフィス1位を獲得。わずか製作費1万5000ドルで、北米興収1億ドル超を叩き出した。

もともとホラー&スリラーは若手監督の登竜門であり、低予算でもアイデア次第で大バケする可能性を秘めたジャンルだ。ブラムハウスのCEOを務める敏腕プロデューサー、ジェイソン・ブラムのすごいところは、決して粗製乱造に走らず、常に一定の品質をキープしていること。コストパフォーマンスを考慮しながら、アイデアと質の両面を追求するビジネスモデルでヒット作を連打し、同社は「恐怖の工場」と呼ばれるほどの人気レーベルにのし上がっていった。

人種差別主義者の暴走によってアメリカが無法地帯になってしまう『フォーエバー・パージ』

とりわけ優れたアイデアが際立つ代表例が『パージ』(2013年/ジェームズ・デモナコ)だ。社会の治安を保つために1年にひと晩だけ、殺人などのあらゆる犯罪が合法化された近未来を背景にしたこのスリラーは、センセーショナルな設定とひねりの効いたプロットが好評を博し、たちまちシリーズ化。最終作『フォーエバー・パージ』(2021年/エベラルド・ヴァレリオ・ゴウト)まで全5作が製作された。ジェームズ・ワン監督、リー・ワネル脚本という『ソウ』シリーズのコンビが放った心霊ホラー『インシディアス』(2010年)も、全5作のシリーズに発展した。

悪霊に取り憑かれた家族の恐怖を描く人気シリーズ第1作『インシディアス』

数あるブラムハウス印の作品のなかでも、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017年)は特筆すべき成功を収めた。人種差別という極めてセンシティブなテーマを恐怖に転化させたこの異色作は、賞レースでも旋風を巻き起こし、第90回アカデミー賞で脚本賞を受賞。実は、同社はしばしば社会派的な要素を含むホラーを手掛けており、同じくピールが監督した『アス』(2019年)、『ザ・ハント』(2020年/クレイグ・ゾベル)、『ソフト/クワイエット』(2022年/ベス・デ・アラウージョ)のほか、スパイク・リー監督の非ホラー映画『ブラック・クランズマン』(2018年)も製作している。

黒人青年が白人の恋人の実家に招かれるが、そこで異変を感じ始める…(『ゲット・アウト』)

また、ブラムハウスは芸術的な作家性を押し出すA24とは異なり、『透明人間』(2020年/リー・ワネル)、『エクソシスト 信じる者』(2023年/デヴィッド・ゴードン・グリーン)のような古典ホラーの現代的なリメイク、続編の製作にも意欲的。さらに、『ヴィジット』(2015年)、『スプリット』(2017年)では鬼才M・ナイト・シャマランと組み、メジャースタジオでの創作に行き詰まっていた彼の復活を後押しした。

女子高生3人組が、人格が次々に入れ替わっていく多重人格者の誘拐犯との会話を試みながら脱出を図る『スプリット』

AI人形の暴走を映像化した『M3GAN ミーガン』(2023年/ジェラルド・ジョンストン)も記憶に新しいブラムハウスの勢いは、とどまるところを知らない。同社の製作作品で史上最高の全世界興収を記録した最新作『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(2023年/エマ・タミ)の2月9日公開を控え、ジェイソン・ブラムの初来日も決定。この切れ者が率いる恐怖の工場は、ますます映画界での存在感を高めそうだ。

文=高橋諭治

高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ+〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。

<放送情報>
ヘレディタリー/継承 [PG12]
放送日時:2024年2月8日(木)1:00~、15日(木)21:00~

ライトハウス [R15+]
放送日時:2024年2月10日(土)8:15~、15日(木)17:00~

ムーンライト [R15+]
放送日時:2024年2月14日(水)23:00~、26日(月)2:15~

MEN 同じ顔の男たち [R15+]
放送日時:2024年2月15日(木)19:00~、28日(水)1:45~

ミッドサマー [R15+]
放送日時:2024年2月15日(木)23:15~、20日(火)3:15~

カモン カモン
放送日時:2024年2月16日(金)2:00~、27日(火)4:00~

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
放送日時:2024年2月16日(金)15:00~
チャンネル:ザ・シネマ

スプリット
放送日時:2024年2月3日(土)15:00~、7日(水)15:50~

インシディアス
放送日時:2024年2月3日(土)17:00~、7日(水)14:00~

ゲット・アウト
放送日時:2024年2月3日(土)19:00~、6日(火)15:50~

フォーエバー・パージ
放送日時:2024年2月3日(土)21:00~、6日(火)14:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)フォーエバー・パージ
放送日時:2024年2月4日(日)21:00~、8日(木)13:00~

(吹)スプリット
放送日時:2024年2月10日(土)4:50~、18日(日)13:50~

(吹)ゲット・アウト
放送日時:2024年2月10日(土)15:00~、16日(金)1:20~

(吹)インシディアス
放送日時:2024年2月11日(日・祝)4:00~、20日(火)15:50~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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