ベルモンドの名を世界に知らしめたヌーヴェルバーグを代表する傑作『勝手にしやがれ』

フランスの至宝であり、アクション映画界の伝説
傑作の数々で名優ベルモンドに酔いしれる

2022/08/22 公開

フランスの象徴であり、国宝とまで讃えられた俳優、ジャン=ポール・ベルモンド。その魅力を紐解くと、顔が変わるほどのめり込んだボクシングでの経験、彫刻家と画家だった両親から受け継いだ表現者のDNA、アクションスターとしてのスキル、そして、盟友と呼ばれた監督や好敵手との出会いに恵まれたことが、本人にとっていかに幸運だったかがわかる。また、人気絶頂期に母国フランス映画界を一歩も出なかったことが、国宝と呼ばれた所以でもある。さて、そんなベルモンドの世界を代表作と共に辿ってみよう。

ヌーヴェルバーグだけじゃない!アクション映画界のレジェンド

ベルモンド扮する男の破滅を描く鮮烈なクライマックスも映画史に残る名シーンだ(『気狂いピエロ』)

ベルモンドが一躍メイドinフランスの商標を手に入れたのが、ジャン=リュック・ゴダールの長編デビュー作『勝手にしやがれ』(1959年)だ。ヌーヴェルバーグの記念碑的作品と言われるこの映画で、ベルモンドはソフト帽を小粋に被ってイキがるチンピラに扮して、映画全体を支配している。ゴダールが試みた話のつながりを無視したジャンプカット(同じショットを時間の経緯を無視してつなぎ合わせる手法)も斬新で、それはゴダールが再びベルモンドを主役に迎え入れた『気狂いピエロ』(1965年)でのポップアート的色彩へと受け継がれる。ベルモンドはここでハリウッドスターのパロディを軽快に演じて見せるのだが、台本なしで撮影を進めるゴダールに反発し、訣別宣言を突き付けた。こうして、2人の過激な歴史は早々に終わりを告げるのだが、今もゴダールとの2作をベルモンドの代表作に挙げるシネフィルは多い。だが、ベルモンドの魅力はそれに止まらない。そこが面白いのだ。

スピルバーグも大ファンという、痛快なアクション活劇『リオの男』

ベルモンドのアクションは人間業とは思えない。『リオの男』(1964年)では車の追跡を次々とかわし、工事中のビルを一気に駆け上がったかと思えば、板やロープを使って隣のビルに乗り移り、車で逃げる追手を自転車で追いかけ、水上飛行機で海へとダイブする。驚くべきことに、これらのシーンはほとんどスタントなし。もちろん、CGもない。だから、メディアは彼のことをバスター・キートンみたいだと表現。それは時間が経つほど伝説化している。また、『カトマンズの男』(1965年)では『リオの男』のリオデジャネイロと同じく、香港、インド、マレーシアとロケして『007』シリーズに対抗するように異国情緒を演出。ネパールの寺院から気球で脱出するシーンでは、ベルモンドが上空から降りてくる錨にぶら下がるというスリルが用意されている。一緒に気球に乗っかった共演のポール・プレボワは後に、「自分は怖くて泣き出しそうなのに、ベルモンドは冗談を言って余計に泣かそうとした」と、その時の恐怖体験を振り返っている。まさに、バスター・キートン、もしかして20世紀フランスのトム・クルーズ!?

ライバル、アラン・ドロンと共にフランス映画界を牽引

当時のフランス映画としては最高額の製作費をつぎ込んだフレンチ・コメディの巨匠、ジェラール・ウーリーによる『大頭脳』(1969年)では、イギリス、イタリア、フランスから集結した盗みのプロたちが挑む現金輸送列車強奪作戦の一翼を担い、監督でもあるジョゼ・ジョヴァンニの原作をロベール・アンリコが映画化した『オー!』(1968年)では、八百長レーサーから暗黒街で名を上げていく若きギャングの成功と破滅を演じ切ったベルモンド。当時、日本の洋画ファンの間でも人気が高かったジョアンナ・シムカス(後にシドニー・ポワチエ夫人に)との顔合わせ、『冒険者たち』(1967年)で知られるロベール・アンリコ監督による青春の悲しみを滲ませた演出とも相まって、1960年代後半のベルモンドは新作が出るたびにフランスでの興収の高さが取り沙汰される人気絶頂期にいた。

『大頭脳』で演じた盗賊ヒーローは、ベルモンドがモデルといわれる、まさにルパン三世!


1930年代が舞台のギャング映画でドロンと共演した『ボルサリーノ』(※映画はカラーです)

そこに、ライバルのアラン・ドロンがいた。共にフランスを代表する顔ではあったものの、母国での人気はベルモンドに先行されていたドロンの方から持ちかけたと言われる話題の共演作『ボルサリーノ』(1970年/実は2人はそれ以前に2度共演している)は、2人が1930年代のマルセイユを牛耳るライバルであり、友でもあるギャングを演じるという、まるで現実の2人を投影したような作品。全編を通して、「陽」のベルモンドと「陰」のドロンの個性比べが、計算し尽くされたカメラアングルで捉えられている。タイトルにもなっているボルサリーノ・ハットやアールデコ調の衣装がブームにもなったが、むしろ、それから約30年後に巡ってきた再共演作『ハーフ・ア・チャンス』(1998年)で、ヴァネッサ・パラディ扮する出所してきたヒロインが探し求める2人の父親候補を演じるベルモンドvsドロンが微笑ましく、伝説のライバル関係を肌で感じることができる作品かもしれない。なぜなら、撮影現場にもすぐになじむベルモンドと、とても慎重で用心深いドロンとの仕事に臨む姿勢の違いが、画面から透けて見えるからだ。

パトリス・ルコント監督作『ハーフ・ア・チャンス』で再びドロンと共演

そんな2人の関係は、昨年9月、ベルモンドが88歳で他界したことで終わりを告げるが、その際、ドロンは「60年来の仕事仲間だった」と涙ながらにコメント。それでも、20世紀のフランス映画界を駆け抜けたアクション俳優でコメディアンで演技派でもあったフランスの国宝、ジャン=ポール・ベルモンドへのオマージュは、死して尚、高まっている。

文=清藤秀人

清藤秀人●映画ライター・コメンテーター。アパレル業界から転身。映画com、CINEMORE、Yahoo!ニュース個人「清藤秀人のシネマジム」等にレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社・刊)他。

<放送情報>
勝手にしやがれ
放送日時:2022年9月4日(日)21:00~、6日(火)12:00~

ダンケルク(1964)
放送日時:2022年9月2日(金)21:00~、6日(火)13:40~

気狂いピエロ
放送日時:2022年9月3日(土)21:00~、6日(火)15:50~
チャンネル:スターチャンネル2

リオの男
放送日時:2022年9月2日(金)13:30~、11日(日)5:00~

カトマンズの男
放送日時:2022年9月16日(金)13:30~、25日(日)5:00~

大頭脳
放送日時:2022年9月23日(金)13:30~、27日(火)8:45~

オー!
放送日時:2022年9月30日(金)13:30~

ボルサリーノ
放送日時:2022年9月9日(金)13:30~、18日(日)7:00~
チャンネル:ムービープラス

勝手にしやがれ
放送日時:2022年9月26日(月)19:15~

いぬ
放送日時:2022年9月27日(火)19:00~

相続人(1973)
放送日時:2022年9月28日(水)19:00~

警部
放送日時:2022年9月29日(木)19:00~

ハーフ・ア・チャンス
放送日時:2022年9月30日(金)19:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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