ノストラダムスの大予言を信じ修行を重ねてきた戦士たちのその後を描く『KAPPEI カッペイ』

悲哀や痛々しさが際立つシニカルな不条理劇…
ベテラン俳優陣の振り切った演技が熱い『KAPPEI カッペイ』

2024/01/29 公開

世界滅亡に備えて修行を積んだ戦士の今に迫る異色劇

その昔、「1999年7の月に人類が滅亡する」というノストラダムスの大予言が、まことしやかに囁かれていた時代があった。核戦争、環境破壊、隕石衝突など、様々な要因によってこの世が退廃し、秩序は乱れ、悪が蔓延る。まさに「北斗の拳」で描かれていたような恐ろしい世紀末の世界が来るのだと……。

幸い、大予言は当たらなかったわけだが、世界が滅亡すると本気で信じていた人たちは今どうしているのか?「デトロイト・メタル・シティ」の作者としても知られる漫画家・若杉公徳と担当編集者との会話をきっかけに誕生した原作コミックを、伊藤英明主演で実写映画化した『KAPPEI カッペイ』(2022年)は、異色すぎる世紀末ラブコメディだ。

袖をカットしたGジャンに短パンというワイルドな風貌の勝平

ノストラダムスが予言した1999年7月に備え、乱世の救世主となるべく、日本のある孤島で、子どもの頃から殺人拳・無戒殺風拳の修行に人生を捧げてきた強く優しき漢たちがいた。しかし、時はすでに2022年。世界滅亡の気配は一向に感じられないまま、終末の戦士たちは、師範(古田新太)から一方的に「解散っ」と告げられてしまう。戸惑いながらも東京へと流れ着いた戦士の一人・勝平(伊藤英明)は、気弱な大学生・啓太(西畑大吾)を助けたことから、天真爛漫な女子大生・山瀬ハル(上白石萌歌)と出会い、生まれて初めて恋に落ちる。そんな勝平の前に、かつて共に修行に明け暮れた同志である守(大貫勇輔)、正義(山本耕史)、英雄(小澤征悦)ら、最強の戦士たちも現れて……。

原作「KAPPEI」は2011年から2014年まで「ヤングアニマル」にて連載され、単行本全6巻で完結した。風貌からして「北斗の拳」の主人公・ケンシロウを彷彿とさせる勝平をはじめ、どこまでも真剣な「終末の戦士たち」の苦悩と、「終末」を「週末」だと思ってしまう現代の若者たちの平和なキャンパスライフ。イメージのギャップを強調した設定と、下ネタ満載のハイテンションなギャグは、若杉作品の真骨頂といった感じである。

上京してすぐ勝平が一目惚れしたハル。勝平たちと少しずつ交流を深めていく

監督は『余命1ヶ月の花嫁』(2009年)、『ラーゲリより愛を込めて』(2022年)など、数多くの作品を企画・プロデュースしてきた平野隆。本作が彼の初監督作品となる。そして脚本を手掛けたのは「翔んで埼玉」シリーズの徳永友一。平野と徳永は同じくコミックを映画化した「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」シリーズでもタッグを組んでいる。

日本での興行収入はさほど振るわなかったが、2022年にベルギー・ブリュッセルで開催された「第38回ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭」のEmerging Raven Award部門と、カナダ・モントリオールで開催された「ファンタジア国際映画祭2022」のニューフレッシュアワード(どちらも第1作目の新人監督による作品の中から選ばれる)で、それぞれ最優秀作品賞を受賞。本作の究極にバカバカしくも温かみのあるユーモアやコンセプトのおもしろさが、国境を越える普遍的なものであることを証明した。

勝平と共に修行を積んだ「終末の戦士」の面々は、それぞれかなり強烈なビジュアル

原作から年齢を大きく変えたことで増すシュール

映画版では原作コミックよりも下ネタがだいぶマイルドになっているものの、山瀬ハルに一目惚れした勝平が、はたして彼女に告白できるか否か!?を軸にしたシンプルなストーリー構成は、原作にとても忠実。原作からの最も大きな変更点といえば、映画公開の2022年に合わせ、時代設定が10年近く先になったことである。

2011年から連載が始まった原作では、滅亡の年の1999年から12年経って、終末の戦士たちが「解散」したのに対し、映画版では実に23年経った後の「解散」。世界が滅びるのを待つにしても、さすがに粘りすぎではないだろうか。この変更によって、勝平たち終末の戦士の年齢設定もかなり高くなった。

無戒殺風拳解散後、中学生ヤンキーになった正義。学生のヤンキーたちとつるんでいる

主人公の勝平を演じる伊藤英明、同志である正義役の山本耕史、勝平の恋のライバルにもなる英雄役の小澤征悦など、メインキャスト陣の公開時の年齢も40代半ば過ぎ(唯一、守役の大貫勇輔は当時33歳)。原作で描かれたようにアラサーのピュアな戦士が女子大生にマジ惚れしてしまう姿はコメディだが、40代半ばともなると……シュールなのである。

もちろん、この年齢変更による印象の違いは、制作陣にとっては十分に織り込み済みだろう。たとえば、師範に裏切られたことで、大人を信じられなくなり、街角で偶然聞いた尾崎豊の「卒業」(原作では「15の夜」)の歌詞に感銘を受ける正義は、もともとは来年三十路という設定。映画版では、中学生ヤンキーたちとつるみ、夜の校舎、窓ガラスを壊して回る正義の姿を見て、かつての弟分だった守が泣きそうな表情でこう言う。「正兄……確か今年で……45だよな!?」。

かなりパンチのある装いが印象的な守。仲間との戦いでは大怪我をしがち

カラッと明るい青春コメディだった原作に比べると、終末の戦士たちの悲哀や痛々しさをグッと際立たせ、シニカルな不条理劇の色合いが濃くなっているのが映画版の特徴だ。屈強な肉体を持つベテラン俳優陣が、「北斗の拳」のパロディのような筋肉美を強調する恥ずかしい(?)衣装に身を包み、振り切った演技を見せてくれるサービス精神もあっぱれ(ちなみに、山瀬ハルが勝平にあげる映画のチケットの題名は「北斗の掌」)。彼らのバトルシーンに施されたチープなビジュアル・エフェクトにも、戦士たちの哀愁が漂っている。

また、クライマックスの告白シーンで、いきなりミュージカルに転調する華やかなフラッシュモブや、ダンサーでもある大貫勇輔(ミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」ではケンシロウ役で出演)と、守の恋のライバルを演じた関口メンディー(EXILE/GENERATIONS)とのダンスバトルシーンは、映画版ならではの見どころ。ある種、バッドエンドだった原作とはひと味違う、映画オリジナルのラストにも注目だ。

長年修行を重ねてきた勝平。初めての恋の行方にハラハラさせられる!

現実に目を向ければ、昨今の世の中には暗雲が立ち込め、真の平和とはほど遠い。ノストラダムスの大予言とは時期がだいぶズレながらも、いよいよ終末の日が近づいてきている、という気がしなくもない。怪しげな終末の戦士たちの暴走を笑いつつ、彼らを温かく受け入れる寛容な若者たちのキャラクター像が、なんだか希望の光に見えてしまうのであった。

文=石塚圭子

石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、様々な世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。

<放送情報>
KAPPEI カッペイ
放送日時:2024年2月4日(日)21:50~
チャンネル:チャンネルNECO

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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