未曽有の危機に瀕した国家の金融危機をめぐる衝撃作『国家が破産する日』

国家破綻は7日後…1997年の通貨危機の裏側に迫る
実話に基づく経済サスペンス『国家が破産する日』

2023/03/06 公開

危機を止めようとする者、利用する者、巻き込まれた者…三者の視点で描出

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2017年)、『1987、ある闘いの真実』(2017年)など、激動の現代史をモチーフとした骨太の作品を次々と生み出してきた韓国映画。『国家が破産する日』(2018年)も、そうした系譜に連なる1本で、民主化後の韓国社会を大きく揺るがした、1997年の金融危機の裏側を描いた作品だ。「金融」という目に見えない事象が社会に与えた影響をなるべくわかりやすく観客に伝えるため、真っ先に危機を予測する中央銀行の一員、混乱に乗じて一攫千金を狙う証券マン、最も大きな打撃を受けることになる町工場の経営者という三者の視点から、当時起こっていた出来事を多角的に見せていく。

前年に経済協力開発機構(OECD)への加盟を果たし、経済の好調が続くと信じられていた1997年11月。中央銀行である韓国銀行で通貨政策チーム長の地位にあったハン・シヒョン(キム・ヘス)は、経済危機の予兆を察知する。すぐに上司にそのことを伝え、財政局のパク次官(チョ・ウジン)らも交えた会議に出席した彼女は「1週間で国が破産します」と警告するが、官僚たちは対策チームの存在を非公開とし、国民から真実を隠す道を選択する。同じ頃、大手証券会社に勤めていたユン・ジョンハク(ユ・アイン)も独自のルートから異変を察知。会社に辞表を提出後、投資者たちから集めた金で一世一代の賭けを始める。一方、金属製の食器を製作する工場を営むハン・ガプス(ホ・ジュノ)は大手デパートからの注文に喜ぶが、手形での支払いを持ちかけられたことに一抹の不安を抱いていた。

奔走する通貨政策チーム長のシヒョンを、人気女優キム・ヘスが好演

1997年11月にアジア通貨危機の余波で外貨が不足した韓国が、IMF(国際通貨基金)から緊急融資を受けるまでの1週間を追う今作。韓国で「IMF事態」と呼ばれるこの経済危機に際し、IMF側は融資の条件として、高金利・緊縮政策、金融・企業・労働市場の構造改革政策、資本・貿易の自由化などを要求。翌年2月に大統領に就任した金大中政権はこれを受けて急ピッチで経済体質の強化に取り組み、1999年末にはIMF時代の終了を宣言した。しかし、その過程では倒産、失業の増大によって多くの人々が人生を左右されるほどの打撃を受けたほか、非正規労働者の増大など、今に至る問題を生み出すきっかけとなった。映画の中では、深刻な事態に直面しながら国民よりも大企業のほうを向き、自分たちだけが生き残ろうとする経済官僚たちと、最後まで諦めずにより「ましな」対応を模索する主人公シヒョンとの対立を、刻々と迫るタイムリミットの中で見せていく。

その後の韓国社会を形作る政策の裏側にあったものとは?作り手たちの強い思いが伝わってくる

シヒョンに扮しているのは長年、韓国を代表する映画俳優として活躍し、「シグナル」や「未成年裁判」といったドラマでも強い印象を残したキム・ヘス。抜群のプロポーションを誇り、「セクシー」の代名詞として紹介されることが多い俳優だが、近年はその枠に収まらず、『コインロッカーの女』(2015年)の犯罪組織のボス、『ひかり探して』(2020年)の刑事など、女性が演じるキャラクターの幅を1作ずつ広げてきた。最も権威のある青龍映画賞の司会を29年連続で務めるなど、後輩たちからも広く尊敬される映画界のリーダーの1人でもある。今作の舞台となっている1997年当時の韓国銀行には、女性のチーム長はいなかったとのことだが、部下たちとのチームワーク、特に男性の部下がきめ細かく彼女をケアする姿などもキム・ヘスが演じたからこそ、説得力をもって伝わってくる。また、出演の理由についても「怒りが(この映画を)選択する上での大きな原動力だったと言えるでしょう」と語っており、使命感を持って役に臨んだことがわかる。

銀行員だったユンは、危機に乗じて儲けようと大勝負に出る

自らの職業倫理に従って奔走するシヒョンに対し、国家存亡の危機をチャンスと捉え、大胆な行動を起こすユン・ジョンハク役は『ベテラン』(2014年)で見せた悪辣な財閥御曹司役で一世を風靡し、その後も『バーニング 劇場版』(2018年)、『声もなく』(2020年)と、出演作ごとにまったく違う姿を見せているユ・アイン。キム・ヘスとの共演シーンがないのは残念だが、強かに時代を利用する男を不敵に演じている。さらに、経済危機のしわ寄せを一気に受ける町工場の社長ガプス役に『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021年)での好演も記憶に新しいホ・ジュノ、最も権力に近いところで自らの思いのままに国を変革しようとする財政局次官役に『ハード・ヒット 発信制限』(2021年)のチョ・ウジンが扮するなど、実力ある助演陣の共演も見どころだ。

IMFの公証人役をフランスのスター、ヴァンサン・カッセルが演じる

IMFが融資条件として突きつけ、その後の韓国社会に大きな影響を与えた労働市場の構造改革や資本・貿易の自由化といった政策が、どんな交渉の中で決められていったのか。そのことをもう一度知ってほしいという作り手たちの強い思いが伝わってくる『国家が破産する日』。直前の時代を背景に、女性たちが会社を守るために活躍する『サムジンカンパニー1995』(2020年)や、IMF事態後の不景気によって父親が職を失ったことが示唆される『パラサイト 半地下の家族』(2019年)などの作品と合わせて見ると、その意味がより深く理解できるかもしれない。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む」(青弓社)がある。

<放送情報>
国家が破産する日
放送日時:2023年3月16日(木)1:00~
チャンネル:スターチャンネル1

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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