1960年代にサブちゃんこと北島三郎が主演スターとして活躍していた『兄弟仁義』シリーズ(『兄弟仁義』)

目にも止まらぬスピードの出世街道!
任侠スター・北島三郎を決定付けた『兄弟仁義』シリーズを知っているか?

2023/05/29 公開

デビューから60年以上の芸歴を誇る日本の至宝、サブちゃんこと北島三郎。「与作」、「まつり」など多数のヒット曲を持つ演歌界の大御所だ。そのサブちゃんが、東映任侠映画全盛期の1960年代、高倉健や鶴田浩二に次ぐ人気シリーズの主演スターとして活躍していたことをご存じだろうか。それが『兄弟仁義』シリーズだ。

スカパー!では、本シリーズ全9作のうち、『兄弟仁義』、『続兄弟仁義』、『兄弟仁義 関東三兄弟』(3作共に1966年)、『兄弟仁義 続関東三兄弟』、『兄弟仁義 関東命知らず』(共に1967年)の初期5作を6月に特集放送する。

鶴田浩二、村田英雄らに後押しされながらヒットした『兄弟仁義』

時代は大正から昭和の初め。サブちゃん演じる流れ者のやくざが、訪れた先で出会った地元のやくざと意気投合し、義兄弟の契りを交わす。その義兄弟が敵対組織の陰謀で危機に陥ると、大物やくざ・鶴田浩二の加勢を得たサブちゃんがドスを手に殴り込み…というのがシリーズの基本パターンだ。

主人公はやくざと言っても、現代の暴力団とはだいぶ違い、男気に溢れた快男児として描かれているのが特徴。ユーモアのあるカラッと陽気なキャラクターには、まだ若手で勢いがあった頃のサブちゃんのやんちゃな魅力が詰まっている。義理と人情に厚いそんなサブちゃんを見ていると、この延長線上には後の『男はつらいよ』の寅さんがいるのでは…とすら思えてくる。もちろん、自慢の喉もばっちり披露。

シリーズとはいえ、それぞれ役名も設定も異なる独立した作品なので、どこからでも楽しむことができる。だが、第1作から順を追って観ていくことで、「サブちゃんの任侠スター出世物語」という別の面白さが浮かび上がってくる。

鶴田浩二の存在感に押されていた第1作からしだいに主演としての貫禄を身につけていくサブちゃん(『兄弟仁義 関東三兄弟』)

誕生のきっかけは1965年、歌手として売り出し中だったサブちゃんが「親の血を引く 兄弟よりも かたいちぎりの 義兄弟」と歌った「兄弟仁義」のヒットだった。東映の任侠映画を支えた大プロデューサー・俊藤浩滋は、自ら手掛けた『関東流れ者』(1965年)の挿入歌だったこの歌を気に入り、映画化を企画する。そのまま主題歌になったのは言うまでもない。しかし、俳優・サブちゃんの実力はまだまだ未知数。そこで、周りを事務所の先輩・村田英雄、大スターの鶴田が固める盤石の布陣で挑むこととなった(村田はサブちゃんを助ける親分役。風格ある佇まいがいい)。

その甲斐あって第1作『兄弟仁義』は、1966年4月に高倉健主演の『網走番外地 荒野の対決』と二本立て公開されると大ヒット。すぐにシリーズ化が決定する。ただし、これはモノクロ映画で、ヒットの要因も鶴田人気に負うところが大きかった。ところが、長い下積み生活を経験し、苦労を知るサブちゃんは、それで諦める男ではなかった。ここから、豊臣秀吉もビックリの出世物語が幕を開ける。

主演ではあるものの、おいしいところは鶴田に持って行かれていたシリーズ第1作『兄弟仁義』

4か月後に公開された第2作『続兄弟仁義』では、まずクライマックスの大立ち回りにおける扱いが変わる。前作ではサブちゃんが敵の組に殴り込んだ後、鶴田が改めて殴り込んでカタをつける二段構え。相手が大スターとはいえ、大トリを取られてしまっては、主演の面目丸つぶれだ。だが、前作のヒットで東映が気をよくしたのか、今回は鶴田と一緒の殴り込みに格上げ。映像もカラーに変わり、スクリーン映えがグッとよくなる。

鶴田と一緒に殴り込みに行く展開に格上げされた『続兄弟仁義』

これで主演の面目を保つと、第3作『兄弟仁義 関東三兄弟』ではサブちゃん&鶴田コンビに、サブちゃんの義兄弟役・里見浩太朗が加わり、クライマックスは3人の大暴れにスケールアップ。お正月の公開も後押しとなり、『網走番外地 大雪原の対決』との二本立ては日本映画年間1位の大ヒットとなった。ちなみにここまで3作は、すべて日本映画の年間興行ベストテンに入る大ヒットを飛ばしている。

サブちゃんに鶴田、里見浩太朗も加わって大暴れする『兄弟仁義 関東三兄弟』

作品を重ねるごとに看板スターの風格が板についてきたサブちゃん

その勢いに乗って序盤にサブちゃん&鶴田&里見トリオが殴り込む派手な見せ場を用意したのが、第4作『兄弟仁義 続関東三兄弟』だ。ならば、クライマックスはこれを上回るド派手な立ち回りか…と期待していると、今度は鶴田と2人で殴り込むことに。思わず笑ってしまう人を食ったその展開は本編をご覧いただくとして、ここは観客の期待を裏切ったというより、サブちゃんが看板スターとして認められつつある証と捉えたい。その証拠に、前作まで圧倒的存在感で作品を支配していた鶴田は今回、序盤で一旦退場。終盤に再登場するが、全体的にはサブちゃんを中心に物語が進み、主演に相応しい貫禄を身につけていく。

クライマックスでサブちゃんと鶴田が殴り込みに行くシーンに注目したい『兄弟仁義 続関東三兄弟』

そして第5作『兄弟仁義 関東命知らず』では、ついにサブちゃんが序盤から物語をリード。鶴田の登場は中盤以降で、クライマックスもサブちゃんが1人で殴り込んだ後、鶴田(とサブちゃんの義兄弟役・待田京介)が加勢に駆けつける形となった。ようやくサブちゃんは、誰もが認める看板スターにあと一歩まで辿り着いたのだ。第1作からここまで、ほんの1年4か月。まさに怒濤の出世街道だった。

サブちゃんが看板スターとして物語を序盤からリードする『兄弟仁義 関東命知らず』

だがここで、これまで全作を手掛けてきた監督の山下耕作がシリーズを離脱する。元々時代劇志向で、敬遠していたやくざ映画の経験がほとんどなかった山下は、名作時代劇「瞼の母」をヒントにした第1作以降、人情とやくざ社会の掟の間で揺れる男のドラマを作り上げていった。それが持ち味となって以後、任侠・やくざ映画の看板監督に出世すると、1968年の『博奕打ち 総長賭博』は作家・三島由紀夫に絶賛され、「任侠映画の最高傑作」として映画史に名を残す。これは「『兄弟仁義』の逆をやりたい」と手掛けた作品で、主演も『兄弟仁義』で出会った鶴田ということで、山下にとっても本シリーズは大きな転機となった。

たった1年4か月で任侠映画のスターに登り詰めたサブちゃん(『兄弟仁義 関東命知らず』)

こうして『兄弟仁義』シリーズは新たなステージを迎え、サブちゃんの成長を見届けた鶴田と村田も、第6作『兄弟仁義 関東兄貴分』(1967年)を最後にシリーズから去る(ただし、村田は第9作にも出演)。以後は様々な監督たちが、それぞれの持ち味を生かし、独り立ちしたサブちゃんの多彩な魅力を引き出していく。その第2ステージに当たる『兄弟仁義 関東兄貴分』、『兄弟仁義 逆縁の盃』(1968年)、『新兄弟仁義』(1970年)、『関東兄弟仁義 仁侠』(1971年)の4作は、7月に特集放送される。6月、7月と2か月連続で、任侠スター、サブちゃんの出世物語をぜひ見届けてほしい。

文=井上健一

井上健一●埼玉県出身、会社員を経て、映画を中心に執筆・取材を行うライターに。主な執筆媒体は「月刊SCREEN」、「キネマ旬報」、「FLIX」など。書籍に「現代映画用語事典」(共著・キネマ旬報社)がある。2024年ゴールデン・グローブ賞国際投票者。

<放送情報>
兄弟仁義
放送日時:2023年6月3日(土)12:00~、19日(月)12:00~

続兄弟仁義
放送日時:2023年6月3日(土)13:30~、19日(月)13:30~

兄弟仁義 関東三兄弟
放送日時:2023年6月3日(土)15:00~、20日(火)12:00~

兄弟仁義 続関東三兄弟
放送日時:2023年6月3日(土)16:30~、20日(火)13:30~

兄弟仁義 関東命知らず
放送日時:2023年6月3日(土)18:00~、21日(水)12:00~
チャンネル:東映チャンネル

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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