クリント・イーストウッド&メリル・ストリープの名演が光る『マディソン郡の橋』

ある日突然、魂が触れ合う人に出会ったら…
『マディソン郡の橋』の「4日間」はなぜ人生に必要なのか?

2021/07/26 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第5回に登場するのは、クリント・イーストウッドとメリル・ストリープ、名優2人の演技が光る『マディソン郡の橋』。原作はロバート・ジェームズ・ウォラーのベストセラー恋愛小説で、イーストウッドが製作と監督を兼任した1995年公開の名作だ。

アイオワ州マディソン群の片田舎。農場主の妻フランチェスカ(ストリープ)は、夫と2人の子どもに囲まれた平凡な主婦として、穏やかで幸せだがどこか満たされない日々を過していた。そんなフランチェスカの前に現れたのが、ロバート・キンケイド(イーストウッド)。旅のカメラマンであるその男は、フランチェスカの家の近所にある、屋根付きの橋ローズマン・ブリッジを撮影に来たが道に迷ったという。橋までの道案内のため車に同乗したフランチェスカ。それは2人にとって、永遠に心に残る4日間の始まりだった。

紳士的なロバートに惹かれていくフランチェスカ

運命の人に出会ってしまった女性のきらめきと心の葛藤

松崎「映画が公開された1995年は僕がちょうど結婚した年です。あれから26年も経ったのかとしみじみするとともに、(フランチェスカとロバートにとって)あの4日間があるからこそ、その後の人生を生きることができたという気持ちは分かる気がします。僕の実体験とかそういう話ではなく、30歳くらいで観た時にはピンとこなかったけど、ある程度年齢と人生を重ねた今なら、感覚的に理解できる感じがするという印象です」

小川「公開当時、私は中学生で実際に観たのは確か高校生の頃だったと思います。共働きの家庭で育ったので、初めて観た時には正直、長年主婦をしてきた女性の感情がよくわかりませんでした。大人になって改めて観たら、ああそういうことだったんだと気づくことが多くて。とにかくメリル・ストリープ演じるフランチェスカがすばらしいので、彼女に寄り添えた部分も大きかったと思います」

フランチェスカはロバートと家族の間で葛藤し心を揺らす

松崎「クリント・イーストウッドはどんなジャンルも撮れる人だけど、ラブストーリーの数は少ない。なのに、しっかり主演もやって。彼もすごいとしか言いようがないですね」

小川「めちゃめちゃかっこいい役ですもんね、ロバート」

松崎「強面の役やアウトローの役が多いのに、この映画では打ちひしがれた犬のような目をするシーンなんかもあったりします」

小川「セクシーだと思ったし、あんな人が目の前に現れたら、恋に落ちるのも納得」

松崎「(フランチェスカに家に招かれた際には)ハガネのような上半身もしっかり見せて、アピールしてるし(笑)」

小川「目の前で脱いでいましたしね」

松崎「フランチェスカに男を印象付けるには必要なシーンです」

小川「家族といる時のフランチェスカはどこか心許ない感じがありますよね。一人の時やロバートの前ではのびのびしていて、時にはわがままを言ったり、怒ってみたり。とても素直な感情を見せています」

松崎「(ロバートが上半身を見せるシーンは)原作では描かれていない部分だから、脚本、演出の巧さもあると思います。映画化するにあたり、どの描写を強めて、どの描写を弱める、あるいは描かないなどを考え抜いたんでしょうね。バランスの良さを感じました」

旅のカメラマンで、屋根のある橋を撮影しに来たロバート

「4日間の恋愛」を生涯の宝物にして、その後の人生を生きる

小川「実は、原作から受けたフランチェスカの印象はあまり良くなかったと記憶していて。でも、映画を観たら女性の気持ちをわかる人が書いた脚本だと感じました。もちろん男性の気持ちもわかっている。どちらにも偏っていない」

松崎「(終盤で)雨が降る中、ロバートがずぶ濡れになりながら遠くからフランチェスカを見つめるシーンは、映画だけの表現。あのシーンはあざといと言っちゃあざといけれど、巧いなと唸らずにはいられないです」

小川「ロバートについて行ってしまえばいいのに!とさえ思いました。しかし、時代がそれを許さず、彼女もコンサバティブな性格。イタリアの海辺の町からアメリカの田舎町へとやって来て、ここで生きていくと決めた彼女がついて行くわけにはいかないんですよね。この作品には『不倫』という言葉が付いてきがちですが、不倫のメロドラマのようには捉えませんでした。フランチェスカのような性格、背景のある女性の前に、ロバートのように心を開いてくれる男性が現れたら、心は揺れるだろうと思います」

松崎「この連載でよく出てくる『タイミング』の話ですよね。魂が触れ合う人に出会ったタイミングがたまたま結婚後だったというだけ。保守的な風土のなかである種、夢物語のように見られるかもしれないけれど、きちんと地に足がついている描き方をしています。公開当時、特に男性の側から不倫ドラマのように受け止める声は実際に多かったし、嫌だと感じる人は今の時代にもいると思います。でもそれは、ある意味、妻の人生を慮っていない人、妻=お母さんと思っている人なのかなという気がします」

小川「彼女の人生にフォーカスせず、自分を裏切る行為と思うともちろん嫌な気持ちになるのも理解できます。彼女は自分に正直になっただけと捉えることもできるけど、そうもいかない複雑な心境もわかる。女性は出産によって、一時的に会社や仕事から離れなければいけない状況に置かれがちです。男性であっても、子育てをすることで同じような経験をすれば理解できるかもしれないですけど。母親が経験するアイデンティティ・クライシスは今もあるでしょうし、時代を遡れば遡るほど免れられないものだったろうと想像できます」

松崎「良妻賢母という古い概念から外れること自体が良くないこと、そう考える人はまだまだ多い。この映画の舞台となった1960年代の田舎町はもっと保守的だったと思いますし、やっぱりフランチェスカはロバートにはついて行かないですね」

一緒に過ごすうちに互いにとってかけがえのない存在になっていく

小川「(何十年も後になって)フランチェスカの秘密を知った時の息子と娘の反応の違いもおもしろいですよね」

松崎「息子はかなり嫌がっていますよね。『まさかお母さんが!』という感じで」

小川「男性が、お母さんも女性であることを認める、親の恋愛話が嫌じゃなくなるのはいつ頃なんでしょうか?娘の反応を見ると、女性の方がすんなりと受け入れるかのようにも思えますし、私自身はむしろ知りたい派なんですが」

松崎「男性は複雑な気持ちになる人、まだまだ多いと思いますね」

「一緒に来てほしい」と切実な想いを言葉にするロバート

小川「フランチェスカは、この4日間の恋愛と家族は知らなかった彼女の人生の選択を、大切な思い出として大事な人にこそ知ってもらいたかったんでしょうね。結局、こういう恋愛って現実問題うまくいかないものな気がしますし」

松崎「自分の人生には大切な4日間があって、それがあったからこそ、その後の人生を生きることができた、と思い返せるだけでもすばらしい!(どちらかと言えば)ついて行かなくて良かったと思います」

小川「うまくいくことだけが大事じゃないんですよね。魂が触れ合うような相手と一緒に生きていくことはできないけれど、そういう相手と出会うことが大事だよなと改めて感じました」

取材・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
マディソン郡の橋
放送日時:2021年8月11日(水)21:00~、22日(日)13:45~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)マディソン郡の橋
放送日時:2021年8月18日(水)1:00~、20日(金)13:30~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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