M・ナイト・シャマランの名を世界中に轟かせ、その後の彼のキャリアにおける呪縛にもなってしまった『シックス・センス』

一度ハマったら抜け出せない…
唯一無二のストーリーテラー、M・ナイト・シャマランの魔術

2023/05/29 公開

いつからだろう。「伏線の全回収」とか「すべて丸く収まるクライマックス」などがもてはやされるようになったのは。本当は伏線なんて回収されなくたっていいし、尻すぼみのクライマックスだってあっていい。謎が多くて観客が悶々となる映画は、昨今の映画レビューサイトでは評価が低くなる傾向にあるけど、個人的にはもっと増えてほしいと思っている。だって、現実も混沌としていてスッキリすることの方が少ないのだから。

原因不明の不条理を題材にし、観客を煙に巻いてしまう結末に賛否両論

不合理なことが起きて、謎が残る映画といえば、M・ナイト・シャマラン監督の作品がダントツでオススメだ。ブルース・ウィリス主演『シックス・センス』(1999年)で世界中の映画ファンの度肝を抜いたシャマランは、このあと誰にも真似できない独自路線を突き進むことになる。記念碑的なこの映画には、冒頭に大事な注意事項があった。

「この映画にはある秘密があります。まだ映画を観ていない人には決して話さないでください」というアテンション。よって、この映画のストーリーを余すことなく語ることはできない。まだこの映画を観ていない人は幸せだ。ぜひ前情報を入れることなく観て、本作の衝撃を味わってほしい。

『サイン』(2002年)も謎が提示される傑作だ。主演のメル・ギブソンが演じるのは、妻を事故で亡くした元牧師。心の傷が癒えぬまま、2人の子どもと弟と一緒に農場で暮らしているが、ある日、怪現象が発生する。一夜にして巨大なミステリー・サークルが出現するのだ。「これは何かのサインなのか?」「いったい誰がこんなものを描いたのか?」と大いなる謎が物語を駆動し、映画を思わぬ展開へと導いていく。

でも観客の中には、意外な手つきで提示される解答に唖然となる人もいるに違いない。人によっては、拍子抜けしてしまうかもしれない。しかし、その拍子抜け具合こそ、シャマラン監督一流の演出によってもたらされた魔力であり、これに一度ハマったら虜になってしまう。「え、そんなにあっさりと出てくるの?」。誰もがそう呟かざるを得ない。何が出てくるかは、映画を観てのお楽しみ。

突然現れたミステリー・サークルに翻弄される信仰を失った元牧師とその家族の物語『サイン』

さらに謎が大規模かつエクストリームに提示されるのが、『ハプニング』(2008年)だ。ある日突然、人々が建物の上から降ってくる。あるいは人形のように自動的に自殺を始める。とんでもない未曾有の事態が次々に起こり、アメリカの大都市はパニックに襲われる。ハリウッドが得意とするディザスター映画ともいえるが、シャマラン監督が作った本作はひと味も、ふた味も過去の映画とは違う。

マーク・ウォールバーグ演じる主人公は、友人とその子どもを守りながら街を逃げ出すが、異常事態は各地の人々を襲っていく。「これはなんなのか?」「何が原因なのか?」。登場人物たちと一緒に観客も謎を追っていくが、最後まで明確な答えを得ることはできない。

煙に巻かれた観客の中には、スッキリしないエンディングに不満を覚える人もいるだろう。日本の某有名映画サイトでは『サイン』同様、本作もレビューの評価が低い。しかし、私はこの映画を断固擁護したい。コロナ禍を経た私たちなら、もはや本作をただの夢物語とは片付けられないことを知っている。異常事態はいきなり勃発し、そして、いきなり収束に向かうことをその身をもって体験しているのだから。

人々が自ら死を選ぶような行動を取る謎の現象が巻き起こる『ハプニング』

コロナ禍を経験した私たちだからこそ、改めて共感できるところも?

最後にオススメなのが、コロナ禍の最中の2021年に公開された『オールド』。舞台は、リゾート地から離れた無人のビーチ。美しい景観に囲まれた海辺では、なぜか異常なスピードで時間が流れ、やってきた人たちは急速に年老いていってしまう。

「ウソでしょ!」と驚くような設定だが、それを本気で突き詰めてやっているのが本作だ。およそ荒唐無稽なストーリーのようだけど、シャマラン監督はいたってマジメ。しかも、観ているうちに私たちも人生の深淵さや「光陰矢の如し」という言葉を考えざるを得なくなる。

その場にいるだけで急速に老化が進むビーチに閉じ込められた人々を描く『オールド』

シャマラン監督の映画はどれもおとぎ話や寓話のような魅力があるが、もしかしたら彼は、映画という媒体を使って、古来より人類が継承してきたストーリーテリングの魔術を復権しようとしているのかもしれない。

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)、『聖地X』(2021年)、『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』(2023年)など。

<放送情報>
シックス・センス
放送日時:2023年6月10日(土)11:00~、15日(木)14:00~

サイン
放送日時:2023年6月10日(土)13:00~、14日(水)16:00~

ヴィレッジ
放送日時:2023年6月10日(土)15:00~、14日(水)14:00~

ハプニング
放送日時:2023年6月10日(土)17:00~、13日(火)16:15~

スプリット
放送日時:2023年6月10日(土)18:45~、15日(木)16:00~

オールド
放送日時:2023年6月10日(土)21:00~、13日(火)14:15~
チャンネル:スターチャンネル1

ヴィレッジ
放送日時:2023年6月25日(日)21:00~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)オールド
放送日時:2023年6月11日(日)21:00~、15日(木)13:00~

(吹)サイン
放送日時:2023年6月12日(月)21:00~、24日(土)21:00~

(吹)シックス・センス
放送日時:2023年6月13日(火)20:00~、17日(土)14:30~

(吹)ハプニング
放送日時:2023年6月14日(水)20:15~、18日(日)23:30~

(吹)ヴィレッジ
放送日時:2023年6月15日(木)20:00~、18日(日)12:45~

(吹)スプリット
放送日時:2023年6月16日(金)19:45~、24日(土)18:50~
チャンネル:スターチャンネル3

アフター・アース
放送日時:2023年6月8日(木)13:30~、24日(土)19:00~
チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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