「スパイダーマン」に登場するアンチ・ヒーローの誕生を描く『モービウス』

改めて確かめたい『モービウス』の魅力!
始まりのヒーロー映画としての存在感

2022/11/28 公開

ジャレッド・レト。実力派である。ところが、コミック・ヒーロー映画ジャンルではなぜかどうにもツキがない。故ヒース・レジャーの後という重圧に耐えてジョーカーを演じた『スーサイド・スクワッド』(2016年)では出番を大幅に削られた挙げ句、作品自体もほぼなかったことになってしまった。

プロデューサーも買って出た今回のピックアップ作品『モービウス』(2022年)もパンデミックの影響で公開が延びに延び、ようやく陽の目を見たのはよいが、興行成績も批評もどうにも振るわないという結果に。しかし、公開終了後も作品をイジッた動画や画像がインターネット上で拡散され大きな盛り上がりを見せる、いわゆる「ネットミーム」化したことを受けて、ソニー・ピクチャーズが全米での再上映に踏み切るも、一般客の興味をそれほど引くことができなかったのかやはり芳しくない成績を残してしまう。と、いろいろあったその後、ついにレト本人が続編製作に動き出した、という渾身のギャグ(?)を繰り出して、世界中を温かい笑いで包んでいた。

こうして書くと、いったい『モービウス』とはどれほど珍妙な作品なのかと思われるかもしれない。が、実のところ同作はタイトにまとまりつつどこか懐かしさを覚える、なかなかちょうどいい映画であった。

2022年に公開された映画を捕まえて、懐かしさも何もあったものではないのだが、どうにもそう形容せざるを得ない。コミック・ヒーロー映画が四半期に数本というレベルでやってくる昨今。劇場を派手に飾るいずれの作品も、語り口やビジュアルスタイルでそれぞれに新味を出そうと知恵を絞っている。対する本作は(アンチ・)ヒーローの誕生譚を極めてオーソドックスに、衒いなく伝えていた。

モービウスを演じるのは、アカデミー賞受賞歴もあるハリウッド屈指の演技派、ジャレッド・レト

『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』にも通じるヒーロー映画創成期の懐かしさ

物語はこうだ。生まれつき血液に起因する難病を抱えている医師、マイケル・モービウス(レト)。この天才医師は苦闘の末、ある吸血コウモリだけが持つ特殊なDNAを利用した特効薬を開発する。自身を実験台に薬を試し、みごと難病の治癒に成功。それどころか爆発的に向上した身体能力、コウモリ由来の超感覚に飛行能力まで手に入れてしまう。

一夜にして人間を超えた存在となったモービウス。ところがそこには巨大な副作用もあった。吸血コウモリのDNAが、天才医師を常に人間の血液を求める怪物に変えてしまったのだ。モービウスには同じ病に苦しむ幼なじみのマイロ(マット・スミス)がいた。いまや富豪となり、研究への援助を惜しまず行ったマイロはモービウスに、自分にも特効薬を投与するよう迫る。画期的な研究成果の、大きすぎる代償を知るモービウスは拒否するが、もちろんそれで納得するマイロではなかった…。

ここで少しだけネタを割ってしまうと、マット・スミス扮する大富豪マイロはモービウスの開発した特効薬を手に入れて、自身もスーパー吸血鬼になってしまう。人気テレビシリーズ「ドクター・フー」の11代目の主役を務めて一世を風靡した人とは思えないほど、近年はどうもクセの強い悪役ばかり演じている印象の強いスミス(『ターミネーター:新起動/ジェニシス』『ラストナイト・イン・ソーホー』など)。

ここでもご多分に漏れず、モービウスとまったく同じ能力を持ちながらモラルの欠片もないがゆえに悪の道をひた走るヴィランに扮している。つまり主人公は自身の邪悪な鏡像と向かい合わざるを得なくなるわけで、この物語構造は『アイアンマン』や『インクレディブル・ハルク』(ともに2008年)によく似ている。いずれもいまや怪物的進化を遂げたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)創成期の映画だ。そういうオールドスクールな物語を『モービウス』は愚直に伝えている。本作になんとも言えない懐かしさを覚える原因はその辺りにもあるのではないかと思う。

「ドクター・フー」などで知られるマット・スミスの怪演にも注目!

MCUとは異なる道を進むソニーズ・スパイダーマン・ユニバースとしてのこれから

考えてみれば、同じソニー・ピクチャーズによるマーベル原作映画『ヴェノム』(2018年)、およびその続編『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021年)もそんな映画だった。マーベル・スタジオ本家が作り続けるMCUとは別に、ソニーが独自に推進するソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)作品の一角に位置する『モービウス』。スパイダーマン・ユニバースと言いながら、主人公たるスパイダーマンは長らくMCUに出張中で、いつソニー・ピクチャーズに帰ってくるかも定かではない。だから原作コミックに登場するヴィランやアンチ・ヒーローを主役に据えた映画たちでやっていかざるを得ない。

それでも『ヴェノム』がヒットしたこともあって、本家MCUとのぼんやりしたリンクを匂わせつつ続けていくしかない。そうした興行的なあれやこれも念頭に置きつつ観るという、思えばかなりハイコンテクストな楽しみ方が要求される作品群ではある。

「スパイダーマン」「ヴェノム」とどのようにつながっていくのか?今後の『モービウス』の展開からも目が離せない!

エンドクレジット後にとあるキャラを登場させることで、MCUとのリンクをなんとか確立しようと努力をしている『モービウス』。本作のシリーズ化も含めて、今後どうなるかは未定なので、完全なるオマケと割り切りたいが、いまはとりあえず『モービウス』を独立した、オールドスクールなコミック・ヒーロー映画の掌編として楽しみたい。この作品には少なくともそれだけの力がある。そのことはいま改めて言っておきたい、と思う。

文=てらさわホーク

てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。

<放送情報>
モービウス
放送日時:2022年12月3日(土)21:00~、6日(火)14:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)モービウス
放送日時:2022年12月4日(日)21:00~、8日(木)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3

モービウス
放送日時:2022年12月3日(土)20:00~、11日(日)17:15~

ヴェノム
放送日時:2022年12月28日(水)19:15~

ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ
放送日時:2022年12月3日(土)15:45~、28日(水)21:15~
チャンネル:WOWOWシネマ

(吹)モービウス
放送日時:2022年12月3日(土)13:00~、5日(月)17:30~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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