演技派として名を馳せながら、近年はB級映画が主戦場になっていたニコラス・ケイジ(『ウィリーズ・ワンダーランド』)

ハリウッド大作から低予算のB級まで…
名優(?)ニコラス・ケイジの激動のフィルモグラフィーを振り返る!

2022/12/26 公開

2023年1月7日で59歳を迎えるニコラス・ケイジ。映画デビューから40年、超大作から低予算のB級まで出演作は100本を超え、いまだ主演映画が次々にリリースされている彼はまさにハリウッドの生きるレジェンド。そんなケイジのキャリアを改めて振り返ってみたい。

オスカー受賞を果たし、ハリウッド大作にも次から次へと引っ張りだこ!

ケイジの映画デビューは青春コメディ『初体験/リッジモント・ハイ』(1982年)の端役の一人で、当時は本名の「ニコラス・コッポラ」を名乗っていた。ところがオーディションでは叔父であるフランシス・フォード・コッポラの話ばかり聞かれることから、「ニコラス・ケイジ」に改名。その後はベトナム帰還兵を描いた『バーディ』(1984年)や赤ちゃん争奪戦を描いたコーエン兄弟のコメディ『赤ちゃん泥棒』(1987年)などに出演し、シリアスからコメディまでこなす若き演技派として注目を浴びた。ちなみにケイジは叔父コッポラを敬愛しており、彼の作品にもたびたび出演している。

ケイジの初期代表作がデヴィッド・リンチ監督作『ワイルド・アット・ハート』(1990年)だ。若い男女の逃避行を描いたこの作品で、ケイジはヘビ革ジャケットを羽織ったプレスリーかぶれの青年を熱演。大げさにポーズをキメたり、派手なダンスやケンカなど熱血漫画の主人公さながらの演技で観客のド肝を抜いた。

ハイテンションな演技を披露し、ケイジが飛躍するきっかけとなった『ワイルド・アット・ハート』

自然に役になりきるフォトリアルなメソッド演技とは対照的なこのスタイルは、心を病んだサラリーマンを演じた『バンパイア・キッス』(1988年)あたりから見られたケイジの持ち味。ドイツの表現主義や日本の歌舞伎も取り入れたという自身のパフォーマンスを、ケイジはのちに「ヌーボー・シャーマニック」と命名した。破滅的なアルコール依存症の脚本家を演じた『リービング・ラスベガス』(1995年)、狡猾な犯罪王と彼に扮した家族思いの捜査官を演じ分けた『フェイス/オフ』(1997年)も、そんならしさを生かした彼の代表的な作品だ。

ケイジは、『リービング・ラスベガス』でアカデミー賞をはじめ数々の映画賞に輝き、トップスターの仲間入りを果たす。そんな彼に目を付けたのがハリウッドの大物プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーだった。

FBIがクーデターに挑む『ザ・ロック』(1996年)ではショーン・コネリーの相棒役にケイジを起用。映画は大ヒットし、続く『コン・エアー』(1997年)では主役を任せた。ケイジが演じたのは、身重の妻を守るため暴漢を殺害し、7年間の刑に服した元軍人のキャメロン。乗り合わせた囚人護送機がハイジャックされたことから、機内で孤軍奮闘するアクションスペクタクルだ。

ハイジャックされた囚人護送機を舞台に、孤独な戦いを繰り広げる元軍人の囚人を演じた『コン・エアー』

口調や顔つきからしてコワモテとはほど遠いケイジは、シルヴェスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーなど筋骨たくましいアクションスターと比べて体格も控えめ。そんな彼が、身のこなしや口調でキャメロンをヒーローに仕立てるところはさすが演技派の面目躍如だ。これ以降ケイジは、マーティン・スコセッシ監督作『救命士』(1999年)、名作カーアクション『バニシングIN60”』(1974年)のリメイク『60セカンズ』(2000年)などハリウッド大作で活躍する。

『ナショナル・トレジャー』(2004年)で、ケイジが演じたのは冒険家で歴史学者のベン・ゲイツ。映画は大ヒットしシリーズも製作されたが、やはり知的な探求者を演じた作品に『ノウイング』(2009年)がある。ここで演じたケストラーは、ある数列が書かれた一枚の紙から、地球規模の真実を導き出す宇宙物理学者。取りつかれたように謎解きに打ち込むその演技は、観る者を引き込んでいく力強さに満ちていた。

人類滅亡の危機に奔走する宇宙物理学者の主人公を演じた『ノウイング』

スナッフフィルム(殺人を写した映像)を追う探偵を演じた『8mm』(1999年)や、謎の消失現象に直面した旅客機パイロットを演じた『レフト・ビハインド』(2014年)でものめり込み型の主人公を演じ、鬼気迫る姿でサスペンスを盛り上げた。

世界中で数百万の人間が消失するなかで、旅客機のパイロットとその家族の運命が描かれる『レフト・ビハインド』

アメコミファンでコミックブックのコレクターとして知られるケイジ。かつてティム・バートン監督による「スーパーマン」映画に主演が予定されていた彼が、初めて出演したヒーロー映画が『ゴーストライダー』(2007年)だ。彼が演じたのは悪魔と契約したためゴーストライダーになったジョニー・ブレイズ。悪党どもに他人に与えた苦痛と同じ苦しみを与える「贖罪の目」を武器とする、異色のダークヒーローだ。

悪魔と契約したダークヒーローの活躍を描く『ゴーストライダー』

作品を選ばない(?)活躍で怪優としての存在感を発揮

ケイジのフィルモグラフィーでも目立つのがサスペンス映画である。突然事件に巻き込まれ、追い詰められる姿は彼のトレードマークと言ってよい。このジャンルは、家族とのすれ違いなどサブプロットが重要な要素となるが、夫や父の苦悩をリアルに演じるケイジの演技力は大きな魅力と言えよう。

妻や娘との関係に悩む会社員の男の家に強盗が押し入るニコール・キッドマンとの共演作『ブレイクアウト(2011)』

『ブレイクアウト』(2011年)はニコール・キッドマンとの共演作で、妻や娘との関係に悩む裕福な会社員カイルという役どころ。強盗に娘を誘拐されたことから、家族に隠していたカイルの真実が発覚する。オスカー俳優が夫婦を演じた本作は、サスペンスだけでなく家族再生のドラマでもあった。一方の『トカレフ』(2014年)は、何者かに娘を誘拐された元ギャングの物語。ケイジ演じるポールは、誘拐された娘を取り戻すためかつて因縁のあったロシアン・マフィアに殴り込む。家族愛や銃社会の怖さを描いた作品だが、なりふり構わず突っ走るケイジがドラマを盛り上げた。

元ギャングの男が誘拐された娘を取り戻すため、ロシアン・マフィアに殴り込む『トカレフ』

キャリアの中で数多くのヒット作に出演してきたケイジだが、2000年代以降は散財による借金問題でたびたびメディアを賑わせた。それを穴埋めするかのように、近年は低予算のアクションスリラーを含め次から次に映画に出演。コロナ禍の2020年はさすがに出演作が減少したが、毎年6本前後の出演作がリリースされている。

『ヴェンジェンス』(2017年)は法で裁けない卑劣なレイプ犯に鉄槌を下す刑事の物語。軍出身者という設定で、表情ひとつ変えずに黙々と獲物を仕留めていく、いつもとひと味違う怖いケイジが堪能できる作品だ。

刑事でありながら法で裁けぬ悪党どもを自らの手で粛清していく処刑人を演じた『ヴェンジェンス』

エイリアンとの武術戦を描いたコミックタッチのSFアクション『アースフォール JIU JITSU』(2020年)では、柔術エイリアンと日本刀風の剣を使ったソードバトルを展開。ツッコミどころもある作品だが、フランク・グリロ、トニー・ジャーらアクションスターに囲まれて、生き生きと暴れるケイジの剣さばきを楽しむことができる。

柔術エイリアンに日本刀風の剣で挑む異色のアクション『アースフォール JIU JITSU』

異色作では『ウィリーズ・ワンダーランド』(2021年)も負けてない。こちらは廃墟と化したテーマパークで機械仕掛けの怪物たちと死闘を繰り広げる痛快アクション。ヒゲにキャラT姿のケイジは、返り血ならぬ返りオイルで真っ黒になりながらメカアニマルを次から次にぶちのめす。架空の街サムライタウンで壮絶バトルを繰り広げる園子温監督の『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(2021年)もそうだが、カルト枠の作品でもしっかりケイジ節を披露する生真面目さはうれしい限りだ。

廃墟と化したテーマパークを舞台に、機械仕掛けの怪物たちとの死闘を繰り広げる『ウィリーズ・ワンダーランド』

いよいよ2023年には、役に飢えている俳優ニコラス・ケイジを彼自身が演じる『マッシブ・タレント』(2022年)の日本公開が決定。さらに、復讐をテーマにした本格西部劇『The Old Way(原題)』(2023年)がまもなく完成し、A24のコメディ『Dream Scenario(原題)』(2024年)への出演決定のほかにも数々のプロジェクトが始動中。還暦を前に、ついに完全復帰を果たしたニコラス・ケイジから目が離せない!

文=神武団四郎

神武団四郎●映画ライター。「映画秘宝」「MOVIE WALKER PRESS」「シネマトゥデイ」などへの寄稿、パンフレットの執筆、編集など。編書に「別冊映画秘宝 絶対必見!SF映画200」(洋泉社)など。監修書に「テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトデザイン画集」(玄光社)、「メイキング・オブ・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(玄光社)など。ゴジラよりコング派。

<放送情報>
ワイルド・アット・ハート [R-15相当]
放送日時:2023年1月10日(火)10:15~、27日(金)14:30~
チャンネル:ザ・シネマ

アースフォール JIU JITSU
放送日時:2023年1月7日(土)6:00~、17日(火)8:30~

ウィリーズ・ワンダーランド
放送日時:2023年1月7日(土)8:00~

ゴーストライダー
放送日時:2023年1月7日(土)10:00~、19日(木)21:00~

コン・エアー
放送日時:2023年1月7日(土)12:15~、25日(水)21:00~

(吹)ウィリーズ・ワンダーランド
放送日時:2023年1月13日(金)9:45~、30日(月)1:00~
チャンネル:ムービープラス

ノウイング
放送日時:2023年1月2日(月・祝)12:45~、8日(日)23:00~

レフト・ビハインド
放送日時:2023年1月2日(月・祝)15:00~、7日(土)8:30~

トカレフ
放送日時:2023年1月2日(月・祝)17:00~、18日(水)1:00~

ブレイクアウト(2011)
放送日時:2023年1月7日(土)6:45~、27日(金)16:20~

ヴェンジェンス
放送日時:2023年1月12日(木)11:15~、21日(土)6:00~
チャンネル:WOWOWプラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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