ジュリア・ロバーツとヒュー・グラントが共演したロマンティック・コメディの名作『ノッティングヒルの恋人』

ロマコメの名作『ノッティングヒルの恋人』が描く
ファンタジー的な恋愛ドラマの面白さ

2023/07/31 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第29回に登場するのは、『ノッティングヒルの恋人』(1999年)。ハリウッドの人気女優とロンドンの冴えない書店店主との恋の行方をジュリア・ロバーツ&ヒュー・グラントの共演で描くロマンティック・コメディだ。『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)で脚本を、『ラブ・アクチュアリー』(2003年)では脚本と監督を務め、グラントとの数々の名タッグで知られるリチャード・カーティスが脚本を手掛ける。

ロンドン西部のノッティングヒルで小さな書店を営むバツイチの男性・ウィリアム(グラント)。ある日、プロモーションでロンドンに来ていたハリウッド女優のアナ(ロバーツ)が、ふらっと彼の店を訪問する。不器用だが誠実なウィリアムをアナは気に入り、偶然出会った2人はデートを重ねる関係に。しかし、彼らの住む世界はあまりにも異なり、恋も思うように進展しないのだった…。

ジュリア・ロバーツ演じるハリウッドの人気俳優アナ

アメリカ人のスターに恋するイギリスの純朴な青年という構図

小川「前々回の対談で『フォー・ウェディング』をピックアップしましたが、いい意味で、パラレルワールド感がありました(笑)。ちょっとダメなイギリス人男性とアメリカ人女性との恋という構図で、この雰囲気やムードは、90年代に多かったのかな?と思ったりして」

松崎「リアルタイムで観ていた時よりも、時間を経てから順を追って観た方が、ヒュー・グラントとの相性も含めて、クリエイターとしてのリチャード・カーティスを体感できる気がします」

小川「キャラクター造形も、こういう人本当にいそう!と思える。アテ書きなんですかね」

松崎「グラントの役は無名の俳優が演じた方が説得力が増す気もするけど、あえて彼を起用したのはある種の狙いというか、やっぱりスターバリューも考えてのことなんでしょうね」

小川「昔はかっこよかったけれど、今はうだつが上がらない男性…。そんなイメージがぴったりハマっていたのもあると思います。『ブリジット・ジョーンズの日記』では、ダメなプレイボーイのダニエルを演じていましたが、グラントは、マーク・ダーシー(コリン・ファース)のポジションのちょうど中間点くらいのキャラというか」

松崎「僕らが思うイギリスっぽさのようなものがありますね」

小川「『フォー・ウェディング』より、イギリス対アメリカというVS構造が中和されている印象を受けました。それが同作から『ノッティングヒルの恋人』までの時間の経過というか、人々の意識の変化みたいなことも表しているのかなと。この対談でよく話題になりますが、時代性をすごく感じませんでしたか?有名俳優と恋に落ちるという筋書きは未だにありますが(笑)」

松崎「どちらかというとこの作品あたりまでは、有名人は男性のケースが多かったのかな?日本のドラマもそのパターンの方が多かった気がします」

小川「展開としてはオーソドックスですよね」

松崎「クライマックスの記者会見は明らかに、誰が観ても『ローマの休日』のバリエーションですよね」

小川「『ローマの休日』をもっと庶民に落とし込んだような」

松崎「でも、ハッピーエンドにしているところがラブコメらしい」

小川「妊娠していて、公園でのどかに2人で読書しているというエンディングに、時代性を感じたのかもしれないです」

松崎「グラントは、続編があればウィリアムとアナが泥沼の離婚劇を展開しているような物語をやりたいとインタビューなどで話していて、面白い人だなと思いました」

小川「それはそれでありですよね」

松崎「面白そうだけど、2人のハッピーエンドに満足した人は納得できないんじゃないかな(笑)」

小川「リアリティがあってよくないですか(笑)」

松崎「たしかに。一方で、リアリティがないところもこの映画の魅力でもあって。2人が再会した際、ウィリアムは誤ってアナにジュースをかけてしまうのですが、その際のウィリアムの対応にアナはグッときて衝動的にキスをしちゃうわけでしょ?そんなことはないからって思いながら観ていました(笑)」

小川「衝動的にキスをしてしまうことがあるかもしれない。動物的な衝動が今よりはありそうな気も」

松崎「いやいや、当時もあんなことは映画の世界、ロマコメだからって話でしたよ(笑)。ジュリア・ロバーツのエージェントはこの作品の脚本をすごく気に入ったそうですが、ロバーツ本人は初めて脚本を読んだ時に陳腐でつまらないみたいな感想を抱いたとか…」

小川「つまらないというのは、シンプルでわかりやすいということなんでしょうね」

松崎「話が非常に直線的なのでそう感じたのかなと。でも、わかりやすいことはなじみやすいことでもあると思います」

アナが純朴なウィリアムに惹かれ、2人はデートを重ねる関係に

恋愛映画ならではのファンタジーな展開も楽しい!

小川「ウィリアムも気弱で傷つきやすい繊細なキャラクターというわりには、アナに対して大胆にアプローチしますよね。そんなところにも意外性があって面白いなと」

松崎「ある意味、恋はすべてを乗り越えていくみたいなところですね」

小川「アナに呼び出されたウィリアムがホテルに行くと、そこでは彼女の主演作の合同取材が行われていて、雑誌記者として潜り込むシーンもユーモラスでした。ただ、我々のようなライターの仕事をしていると、あれはいたたまれない状況ですよね」

松崎「そうですよね。作品を観ないでインタビューするなんて考えられないです」

小川「彼の場合は偶然そうなってしまうわけですが、自分にはできないです。でも、この気まずいシーンが伏線になってクライマックスの記者会見にもつながっていくと思うので、一連の描写もかわいいエピソードとして楽しめました」

松崎「ストレートでわかりやすくてギャグも素直。『Mr.ビーン』にも通じるところがリチャード・カーティスの世界ですよね。基本的に悪人は出てこないですし」

小川「みんながちょっと優しい気持ちでいられることが狙いだったりするのかもしれないですね」

メガネが見つからず、度付きのゴーグルで映画を鑑賞するウィリアム

松崎「キャスティングもハマっていますよね。公開当時は『プリティ・ウーマン』とかロバーツの出演作がテレビで繰り返し放送され、視聴率もしっかり獲っていたと記憶しています。最近はハリウッドで人気があっても日本ではそれほど注目されなかったりもするので、こういった現象を懐かしくも感じました」

小川「当時はメグ・ライアンも人気でしたし、劇中でも『恋人たちの予感』での彼女の芝居が例え話として出てきたり、小ネタも散りばめられていますよね」

松崎「『ゴースト ニューヨークの幻』のデミ・ムーアとか、若い人たちは名前を聞いてピンと来るのかな?」

小川「スマートフォンやSNSはおろか、携帯電話もまだ普及していない時代なので、伝言を忘れるみたいな古典的なすれ違いをするところも興味深かったです。と同時に、アナのようなスターが、男性から性的対象として見られ、公の場でネタにされているという状況は、当時も今も変わらずあるということに考えさせられました。性の対象まではいかなくても、常に恋愛対象として見られ、語られてしまうつらさというか」

松崎「いつの時代もそういう類の人はいますよね。自分にはない思考だからちょっと不思議な感覚にはなりますけど」

小川「表舞台に出る人であっても人間だし、もし相手の耳に届いたら傷つく可能性があるとわかっていても、自分とは関係のない世界の人だから、何を言ってもいいというふうに思うんですかね」

松崎「だからこそ、ウィリアムのような純朴なキャラクターに惹かれてしまうキャプションになるのだとも思いますが」

ウィリアムもアナに対する一般的な憧れは持っている

小川「そうですね。でも、ウィリアムもきっとそういう欲望がまったくないわけじゃないんですけどね」

松崎「そうそう。そこが余計に普通の人という感じがしていいなって。アナに口説かれながら、これ以上君といると傷つくって言っちゃう男ですからね」

小川「しかも友人たちをすぐ呼び出して、恋愛について会議するところもかわいいですよね」

松崎「いいですよね。ここもカーティスっぽい描写です」

小川「友達との関係性は、カーティス作品のすごくいいところですよね。ダメ出しもするし、言いたいことをお互い言うけど、ここぞという時に応援してくれる友達が数人いるところがいいなって」

松崎「そこに昔好きだった女性がいるというのもちょっと面白くて」

小川「じめじめしてなくて、カラッとした感じがありますよね」

一般人がスターと付き合うことの難しさ、もどかしさも描く

松崎「僕が個人的にいいなと思ったのは、ホテルのフロントマンの立ち位置。演出も気が利いていてすごく好きな部分です」

小川「チャーミングでしたね。あと思ったのが、登場人物の日々の生活があまり見えてこないというか、仕事が大変というセリフはあるのに、実際に働いている描写があまりないところで」

松崎「重要なのはそこじゃないんですよ!」

小川「そうそう。この物語において主軸は恋愛ですと潔く描いていますよね。最近の作品だと、仕事にスリリングとかセクシーさを感じる人が多いから、恋愛要素はメイン軸にはなりづらいという話を聞いて、なるほどと納得したことを思い出しました」

松崎「仕事や生活があっての恋愛だけど、そこを描かない。見せるのは恋愛だけ。これもファンタジーですよね」

取材・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
ノッティングヒルの恋人
放送日時:2023年8月16日(水)1:45~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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