北欧・デンマーク製の暴力と爆笑の復讐劇
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』に乾杯

どうして妻が巻き添えに…無骨な軍人の復讐が始まる

アフガニスタンで任務に就いていた軍人マークス(マッツ・ミケルセン)は、妻が列車事故で亡くなったと知らされ帰国した。家には悲しみに暮れる娘がひとり。長らく家を離れた生活が続き、娘とどう接すればいいのかわからぬまま妻に先立たれたマークスだが、娘を慰めたいと思えば思うほど、その気持ちが裏目に出て溝ができるばかりなのがなんとも情けない…。

そこへ妻と同じ列車に乗っていたという数学者オットー(ニコライ・リー・コース)が訪ねてくる。列車事故は、犯罪組織「ライダーズ・オブ・ジャスティス」が殺人事件の重要証人を抹殺するために仕組んだもので、マークスの妻にオットーが席を譲った途端に起き、マークスの妻は巻き添えになったとオットーは話す。「ライダーズ・オブ・ジャスティス」を絶対に見つけ出して殺す！と、話を聞いたマークスの怒りが爆発する。

『007 カジノロワイヤル』(2006年)で血の涙を流した悪役を好演したデンマーク出身の国際派俳優マッツ・ミケルセンが、暴力からコメディ演技まで見せて「北欧の至宝」と言われる名優の本領を発揮する。

腕っぷし軍人×理数系トリオが織りなす暴力×喜劇

監督・脚本は、ミケルセンとは5度目のタッグで気心知れた仲のアナス・トマス・イェンセン。第93回アカデミー賞国際長編賞を受賞したミケルセン主演の『アナザーラウンド』(2020年)でも脚本も手掛けたイェンセンは、常識には縁のない連中を集めてコトを起こす、という展開で北欧のクリスマスシーズンの寒さの中で話を進行、否、暴走させる。

犯罪組織を追い詰めるのは、コトを確認する前に拳が先に出る短気なタフガイ軍人・マークス。怒れば即鉄拳、または銃弾。それが間違いとわかればすぐに謝罪し、反省する潔さは持ち合わせるものの、早呑込みで殺してしまった相手はどうなる？反省しても生き返らないけどね、という空気感が暴力のなかにユーモアを醸す。

そんなマークスに協力し、異色の組み合わせを演出するのは、時に計算を駆使して結果や行動を割り出す変わり者の数学者オットー。彼はさらに、「ライダーズ・オブ・ジャスティス」の調査を友人レナート(ラース・ブリグマン)とエメンタール(ニコラス・ブロ)に依頼し、この理数系の変わり者たちも行動を共にする。理数系というと、そこそこインテリ要素が醸されると思うのに、まったくそうは見えないのもユニーク。

復讐に燃えるマークスの腕っぷしは時折、理数系トリオにも発揮され、「復讐なんて危なっかしいからやめたほうが…」的な進言も言い終わる前に拳で口を塞がれる始末。一方、どちらかと言えばもやしっ子と太っちょでとても戦闘経験などなさそう、いやない理数系トリオは、マークスから銃を持たされれば珍妙な扱いぶりに、生粋の軍人をなんとも言えない表情にさせる。こうした喜劇要素こそ、監督の狙いなのだろう。

デンマーク俳優陣のカルテットに魅せられる

マークスを取り巻く理数系トリオを演じるニコライ・リー・コース、ラース・ブリグマン、ニコラス・ブロはミケルセンと同じデンマークが誇る名優たち。本国では豪華な顔ぶれに公開されるや『アナザーラウンド』を超える興行成績を記録したそう。そんな名優たちと名監督が生み出したデンマーク発のアクションの痛快さが、世界を魅了したわけだ。

また近年は複雑な性格を持つ役どころが多いミケルセンだが、ここではマークス役を迫力たっぷりに演じる。俳優になる前はダンサーだっただけに動きはしなやかで美しいが、今回ばかりは頭は丸刈りで髭を蓄え、正当防衛とはいえ、「え…そんなに殺しちゃうの」というなんでもアリな様相に、女性ファンは引いちゃうのでは？(きっとそれでも愛されるのだろうけど)。終盤のクリスマス・パーティーのシーンでは、なかなか可愛らしいセーター姿を見せてほっこり気分にしてくれるのもお楽しみ。

文＝渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス＆ミステリー。最近はオーストラリア製本格ミステリー小説が原作の「渇きと偽り」がお気に入り。続編が書かれ、TVシリーズ化もされるそうで楽しみ。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。

＜放送情報＞
ライダーズ・オブ・ジャスティス
放送日時：2022年11月19日(土)21:00～、22日(火)14:00～
チャンネル：スターチャンネル１

（吹）ライダーズ・オブ・ジャスティス
放送日時：2022年11月20日(日)21:00～、24日(木)13:00～
チャンネル：スターチャンネル３

※放送スケジュールは変更になる場合があります